31 / 44
第二章
第31話:ルグリアから見たリゼル2
しおりを挟む
「それで、聞きたいことってなーに?」
お風呂から上がったルグリアは、自室でエメリアから相談を受けていた。
平静を装ってはいるが、内心では少しドキドキしている。
バレたら困る件がたくさんあるからだ。
旅の間のリゼルは明らかに隙だらけだった。
冒険慣れしていない彼を手助けする、という理由でルグリアは少しばかりいたずらをしてしまったのだ。
勝手に服の匂いを嗅いでみたり、うたた寝している彼の手をこっそり握ってみたり、他にも色々と……。
エメリアが冷ややかな声で言う。
「旅の間のことなのですけど」
「ひゃいっ!?」
どきん、心臓が跳ね上がる。
まさか、本当に――。
「リゼルさん、随分と女性に人気がありましたね」
……そっちか、とルグリアはほっと胸をなでおろす。
「ン。まーねぇ。優しいし、強いし、頼りなさそうに見えていざって時助けてくれるし。付呪師になるなら稼ぎも良いだろうしねー」
それでいて貴族のように家柄が面倒なわけでもなく、礼儀作法でとやかく言われる心配もない。
女性冒険者から見れば、国の王子などよりも遥かに理想の男性なのだろう。
道中の彼の周りは、それはもうひどかった。
複数のパーティの女性冒険者、剣士やら魔導師やらが何かと理由をつけてリゼルに近寄ったのだ。
やれ一人だと危ないだとか、やれここは足場が悪くて危険だとか、暗闇には魔獣がいるだとか、私が守ってやるよだとか危ないから手をつなごうだとか……。
実際、一人だと危ないのは事実なのだからたちが悪い。
その時の様子を思い出したのか、エメリアはわなわなと震えだす。
「あの女どもは、私のリゼルさんにベタベタベタベタベタベタと……」
エメリアはぐりんと瞳をこちらに向け、低く言う。
「――気安いと思いませんか?」
「う、うん。……思う」
「リゼルさんは高潔な方なんです。あんな、汚い真似、嫌われるに決まってます」
「う、うん……」
ちなみにルグリアもその中の一人だったのは内緒だ。
……別に嘘ついたわけでは無いのだから、エメリアへの不義理では無いはずだ。
「姉さんは違いますよね? 私の味方ですよね?」
「も、もちろん! 当たり前じゃん!? アタシ、お姉ちゃんだし!」
今、妹は疑心暗鬼に陥っているのだ。
リゼルに寄ってくる女性の数が想像以上に多すぎて……。
「リゼルさんは、私が一番って言ってくれたのに……」
……おそらく、ニュアンスが違う。
あるいはそんなこと言っていないかもしれない。
エメリアは昔からこういうところがあるのだ。
良くも悪くも、思い込んだら一直線。
それは危うさだ、とルグリアは考えている。
だから、エメリアが復讐のために力を求めた時は凄かった。
生活の全てを力を得ることに注ぎ込んだのだから。
ルグリアはそれをどうにかしてあげたくて――。
エメリアが、低い声で言う。
「リゼルさんを、教育してあげなくてはいけません」
(こ、こうなったかぁ……)
今の妹は、復讐を忘れてくれた。
だがその熱意が全てリゼルに注がれてしまった。
それはきっと、家族、故郷の復讐と同じ重さの愛。
リゼルからしたらたまらないだろう。
「だから姉さん、明日は一緒に来てください」
「えっ? な、何で? ガラリア工房でしょ? アタシあの人苦手で……」
「ガラリア先生が得意な人なんていないので大丈夫です」
「余計駄目じゃん……」
「根は優しくて良い人です」
「根はそうでも上辺が駄目じゃん……」
「と、ともかく、外を出歩く時はリゼルさんにおかしな虫が付かないようにして欲しいんです」
……ルグリアにしてみれば、これはリゼルと一緒にいれる口実でもある。
だがルグリアは、女であると同時に姉でもあるのだ。
リゼルは、妹が惚れている男で――。
「……ン、良いよ…………」
ルグリアの背中を押したのは女の自分だった。
「本当ですかっ!」
「うん。アタシが、リゼル君につく悪い虫を、追い払ってあげる」
薄く作り笑いを浮かべて言ってやると、エメリアはぱあっと表情を明るくした。
「良かった! では、明日はお願いしますね、ルグリア姉さんっ」
そうして、一言二言拙い会話を終え、お互いにおやすみと言って別れる。
ルグリアは枕に顔をぼふりと埋め思い出す。
明日は、ルグリアも一緒に行く。
リゼルの、隣を歩いて。
――悪い虫が、つかないように。
リゼル・ブラウン。
ルグリアの中に、確固たる確信がある。
目が頻繁に合うなんてちゃちな理由では無い。
時々手が触れた時。
隣に座っている時の肩と膝の近さ。
寝た振りをして彼のにもたれかかってみた時の反応。
きっかけは間違いなく〈サウスラン〉でのあれだろう。
自分でやったルグリアにすら、クリティカルヒットしてしまったくらいの破壊力だったのだから、当然だ。
だから、たぶん――。
ルグリアはべろりと下唇をなめ、思う。
(リゼルは、アタシのことが、好き)
ルグリアの中の黒い欲望がクスクスとあざ笑っているような気がした。
お風呂から上がったルグリアは、自室でエメリアから相談を受けていた。
平静を装ってはいるが、内心では少しドキドキしている。
バレたら困る件がたくさんあるからだ。
旅の間のリゼルは明らかに隙だらけだった。
冒険慣れしていない彼を手助けする、という理由でルグリアは少しばかりいたずらをしてしまったのだ。
勝手に服の匂いを嗅いでみたり、うたた寝している彼の手をこっそり握ってみたり、他にも色々と……。
エメリアが冷ややかな声で言う。
「旅の間のことなのですけど」
「ひゃいっ!?」
どきん、心臓が跳ね上がる。
まさか、本当に――。
「リゼルさん、随分と女性に人気がありましたね」
……そっちか、とルグリアはほっと胸をなでおろす。
「ン。まーねぇ。優しいし、強いし、頼りなさそうに見えていざって時助けてくれるし。付呪師になるなら稼ぎも良いだろうしねー」
それでいて貴族のように家柄が面倒なわけでもなく、礼儀作法でとやかく言われる心配もない。
女性冒険者から見れば、国の王子などよりも遥かに理想の男性なのだろう。
道中の彼の周りは、それはもうひどかった。
複数のパーティの女性冒険者、剣士やら魔導師やらが何かと理由をつけてリゼルに近寄ったのだ。
やれ一人だと危ないだとか、やれここは足場が悪くて危険だとか、暗闇には魔獣がいるだとか、私が守ってやるよだとか危ないから手をつなごうだとか……。
実際、一人だと危ないのは事実なのだからたちが悪い。
その時の様子を思い出したのか、エメリアはわなわなと震えだす。
「あの女どもは、私のリゼルさんにベタベタベタベタベタベタと……」
エメリアはぐりんと瞳をこちらに向け、低く言う。
「――気安いと思いませんか?」
「う、うん。……思う」
「リゼルさんは高潔な方なんです。あんな、汚い真似、嫌われるに決まってます」
「う、うん……」
ちなみにルグリアもその中の一人だったのは内緒だ。
……別に嘘ついたわけでは無いのだから、エメリアへの不義理では無いはずだ。
「姉さんは違いますよね? 私の味方ですよね?」
「も、もちろん! 当たり前じゃん!? アタシ、お姉ちゃんだし!」
今、妹は疑心暗鬼に陥っているのだ。
リゼルに寄ってくる女性の数が想像以上に多すぎて……。
「リゼルさんは、私が一番って言ってくれたのに……」
……おそらく、ニュアンスが違う。
あるいはそんなこと言っていないかもしれない。
エメリアは昔からこういうところがあるのだ。
良くも悪くも、思い込んだら一直線。
それは危うさだ、とルグリアは考えている。
だから、エメリアが復讐のために力を求めた時は凄かった。
生活の全てを力を得ることに注ぎ込んだのだから。
ルグリアはそれをどうにかしてあげたくて――。
エメリアが、低い声で言う。
「リゼルさんを、教育してあげなくてはいけません」
(こ、こうなったかぁ……)
今の妹は、復讐を忘れてくれた。
だがその熱意が全てリゼルに注がれてしまった。
それはきっと、家族、故郷の復讐と同じ重さの愛。
リゼルからしたらたまらないだろう。
「だから姉さん、明日は一緒に来てください」
「えっ? な、何で? ガラリア工房でしょ? アタシあの人苦手で……」
「ガラリア先生が得意な人なんていないので大丈夫です」
「余計駄目じゃん……」
「根は優しくて良い人です」
「根はそうでも上辺が駄目じゃん……」
「と、ともかく、外を出歩く時はリゼルさんにおかしな虫が付かないようにして欲しいんです」
……ルグリアにしてみれば、これはリゼルと一緒にいれる口実でもある。
だがルグリアは、女であると同時に姉でもあるのだ。
リゼルは、妹が惚れている男で――。
「……ン、良いよ…………」
ルグリアの背中を押したのは女の自分だった。
「本当ですかっ!」
「うん。アタシが、リゼル君につく悪い虫を、追い払ってあげる」
薄く作り笑いを浮かべて言ってやると、エメリアはぱあっと表情を明るくした。
「良かった! では、明日はお願いしますね、ルグリア姉さんっ」
そうして、一言二言拙い会話を終え、お互いにおやすみと言って別れる。
ルグリアは枕に顔をぼふりと埋め思い出す。
明日は、ルグリアも一緒に行く。
リゼルの、隣を歩いて。
――悪い虫が、つかないように。
リゼル・ブラウン。
ルグリアの中に、確固たる確信がある。
目が頻繁に合うなんてちゃちな理由では無い。
時々手が触れた時。
隣に座っている時の肩と膝の近さ。
寝た振りをして彼のにもたれかかってみた時の反応。
きっかけは間違いなく〈サウスラン〉でのあれだろう。
自分でやったルグリアにすら、クリティカルヒットしてしまったくらいの破壊力だったのだから、当然だ。
だから、たぶん――。
ルグリアはべろりと下唇をなめ、思う。
(リゼルは、アタシのことが、好き)
ルグリアの中の黒い欲望がクスクスとあざ笑っているような気がした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる