小説版「付呪師リゼルの魔導具革命」

清見元康

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第一章

第13話:戦果とお金と戦の準備

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 [冒険者ギルド]の受付にて。
 僕は更に追加でもう一枚の換金用手形を渡された。
 受付嬢は興奮した様子で僕の両手を握る。

「凄い戦果です! ひょっとしたら、私たち助かるかもしれません!」

 聞くところによると、彼女も、冒険者たちも皆死を覚悟し悲嘆に暮れていたらしい。
 そこに希望の光が見え、[冒険者ギルド]は沸き立った。
 至るところから、ベテラン冒険者たちの活気に満ちた声が聞こえる。

「[輸送]の魔法を使えるやつはどんだけいたか!?」

「ベヒーモスの素材だろ!? どうすんのそれ!」

「使えるかどうかより、どうやってここに持ってくるかを考えなさいよ!」

「骨と牙があれば矢の補充ができて、襲撃に備えられるんだろ!」

「だから! [輸送系]の魔法と、[隠密系]の魔法を駆使してさ! リレーのように持ってこれないか!?」

「今なら急げば間に合うんじゃないのか!?」

 陸の王者の素材は、非常に高額な価格で取引される。
 だが、倒した場所が場所なので、どうやってこの場所に持ってくるのかが問題なのだ。
 魔獣による包囲は、継続しているのだから。

「後のことは、彼らに任せましょう」

 と、エメリアが言った。

「い、良いんしょうか?」

「良いんです。そのために、輸送費として四体分のベヒーモスを譲渡することにしたのですから」

 結局、僕のベヒーモスの取り分は二体分となった。
 輸送費として、四体を全て冒険者側に譲渡。
 残り二体を、間近に迫った襲撃に備えるための武具製造に回す。
 冒険者たちは、命と金を故郷へと持ち帰るため、死力を尽くすだろう。
 お金は惜しいが、命が無ければ金を使うことも、姉に仕送りすることもできない。
 それに、僕には付呪がある。
 ここまで強力な杖が作れたのだから、きっと引く手数多になるだろう。

 ……問題は、微調整がとてつもなく下手なこと――。
 流石に一発しか撃てない凄い杖と、何発か撃てるけどすぐ爆発する杖では売り物にならない。
 服やローブに施したような、ほどほどの付呪を杖にもできるようにならなくては……。
 ふと思う。

「ベヒーモスって一体でいくらになるんでしょ」

「状態次第ですね」

 ……最もだ。
 当たり前の返事が帰ってきた。
 なんだか、申し訳ない……。

「ですが、そうですね――。革が駄目になっていても、骨や牙があれば……、あ、でも、うーん」

 エメリアは、真面目に、律儀に答えようとしてくれている。
 良い人だ。
 僕は、彼女の期待に応えなければいけない。
 確かにエメリアは僕の師だが、同時に弟子でもあるのだ。
 僕は彼女から安定した付呪を学び、逆に杖の付呪を教える。
 持ちつ持たれつ、良い関係ではなかろうか。
 ……まあそれは爆発を克服してからの話だろうけど。
 エメリアは、ひとしきり考えてから言った。

「基本的に、滅多に市場に出ないので、相当な高額になると思うのですが……」

 やった。
 一気に大金持ちになれるかもしれないルートに入った。
 故郷への仕送りはだいぶ豪勢に行こう。

「ですが、一気にたくさんの素材が出回ることとなれば、相場はだいぶ下がるかもしれません」

 あっ――。
 ああ、はい。
 なるほど、確かに。
 はい。
 そりゃそうだ。
 当然のことだ。
 そうか……。

「それに、ここを無事に出られるかどうかもわかりません」

「は、はい……」

 危なかった。
 僕は浮かれて大事なことを見落としてしまうところだった。
 まずは今、どうにかしなければならないのだ。
 未来を掴むためには生き延びる必要がある。
 幸いなことに、[世界樹の雷杖]は爆発せず僕の手元に残ってくれた。
 だが、手で持つことができないほどの高熱を放ってしまった。
 冷却にかかった時間は、およそ一時間。

 恐らく、無理やり二発目を撃っていたら最初の杖と同じく爆発していただろう。
 もし、今夜辺りに魔獣が襲ってくるという予測が正しければ、この杖は切り札になるかもしれない。
 一時間に、一回の切り札。
 あるいは、二回使って二度と使えなくなるか――。
 いや、二回目を撃つ前に爆発するかもしれない。
 実戦で使えるのは一度切りと考えたほうが良いだろう。

「今夜、来るんでしょうか」

 一回の魔法で陸の王者が八体も殺されたのだ。
 むしろ怯えて去ってくれるのではなかろうか。
 音もすごかったし。

「ええ、来ます」

 なぜだか、エメリアは確信しているようだ。
 彼女は、少しばかり声を潜め、僕の耳元で囁く。

「人為的な動きを、感じました」

 なんだと……。
 いやいや、またまたそんな、見間違いとか勘違いでは――。
 ……だが、エメリアは[黄金級]の冒険者だ。
 その意味は理解しているつもりだ。
 しかし、と思う。

「だったら尚のこと、様子を伺うんじゃないでしょうか?」

 僕の使った[世界樹の雷杖]の一撃は、突然出てきた謎の攻撃だろう。
 ならば、余計に慎重になるのでは?
 だが、エメリアは首を振る。

「そこまでの知性は無いように思えます」

 人為的な気配を感じ、それでいて知性は人間ほどではない。
 ならば――。

「[高位進化]、ですか?」

 極稀に、魔力を蓄えすぎた魔獣がより強大になり、明確な知性を持つことがある。
 より驚異だし、厄介ではあるが、利点と考えるものもいる。
 つまるところ、[高位進化]した魔獣とは、交渉ができるのだ。
 そして、僕には[翻訳の魔導書]がある。
 これはもう勝ったようなものだろう。
 知性があって、言葉が通じて、交渉が可能なら戦いを避けることができる。
 むしろ上手く従えることができれば、素晴らしい戦力になる。
 良かった、無事に帰って故郷に仕送りができるぞ。
 だが、エメリアは緊迫した様子で言った。

「――恐らく、敵はベヒーモスの群れの長」

 まあそうだろう。
 あれだけの数の陸の王者が統率しているのだ。
 ならばその長が[高位進化]していると考えるのが妥当だ。

 ……ん?
 あれ?
 何か、引っかかるような……。

「身内を八体も殺したのです。我を忘れ、今にでも攻撃を開始するかもしれません」

 あわわわ……。

「あわわわ……」

 こ、言葉にも出てしまった。
 最後に、エメリアは僕を見てお淑やかに微笑んだ。

「顔を覚えられているかもしれませんね」

「え、そ、それは、どういう……」

 意味? と続く言葉を言う前に、エメリアが言う。

「私とリゼル先生を、優先的に狙うかもってことです」

 ……あっ、先生って呼ばれたの生まれてはじめてだ。
 わあ、やったあ……。
 あ、でもなんだろう。
 全然嬉しくない。
 全然、嬉しくない……。

 だがどういうわけか、エメリアは嬉しそうだ。
 何で?
 戦闘狂なの?
 僕あなたの評価ちょっと決めあぐねているよ?
 本当に僕があなたの先生だったら、内申点どうつけたら良いのかわからないよ?
 そして、エメリアは嬉しそうな態度を隠そうともせず、笑みを浮かべ言った。

「さあ、付呪師の腕の見せ所です。敵が来る前に、皆の装備に追加の付呪をしましょう。――リゼル先生の腕を、見せてくださいね?」

 襲撃はいつ来るのかわからない。
 今かもしれない、今夜かもしれない、明日かもしれない。
 だがとにかく、何が何でもその時までに。
 冒険者達が使う剣で魔獣を切り裂けるように。
 攻撃から身を守れるように。
 ひたすら、付呪をしなくてはならない。
 ようやく、僕は理解した。
 ここからが本当の地獄だ……、と。
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