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守国から来た巫女2
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「よろしいのですか、隊長。先を急がなくても」
私と少年が話をしている後ろで相馬と隊員が何やら話をしている。
「いいんだよ。どうせ行っても無駄だ」
「しかし・・・」
「もう国には入ってんだ。あの人言い出したら聞かないから黙って従っとけ」
まだ何か言いたそうな隊員を制し相馬は祈と少年を見つめる。
「それよりもよく見とけよ」
「えっ?」
「これが祈様の能力を見る最後になるかもしれないからな」
相馬の目線に促されるように隊員達は祈と少年に目を向ける。
少年の前に再びしゃがみ込み目線を合わせる。
「坊や、あなたが失くした簪とお母さんの事を頭の中に思い浮かべてみて」
不思議そうな顔をする少年に微笑み私は目を閉じるよう促す。
「緊張しないでゆっくり深呼吸をして。無理に思い浮かべないで、なるべく自然にね」
語りかけながら少年の緊張を和らげていく。
大切なものを失くして、馬に引かれかけるなんて本当に災難続きね。そんな彼に少しでも幸福が訪れますように。
「思い浮かべた?」
「うん」
「それじゃあ、そこに見つけたいという想いも込めて」
少年は先程よりもギュッと目を閉じたのを確認して私は意識を集中させる。
私は少年の想いをもとに”祈る”。
視えた。
パンッと胸の前で両手を叩き、合わせた手を少し膨らませ息を吹きかける。ゆっくりと手を開くと小さな光が中から出てきて二人の頭上に現れ、家と家の間にある小路に入っていく。
「さあ、行こう」
少年の手を引き小さな光を追いかけ小路に入る。
光が線となり私たちを導いていく。その線を辿っていくと、曲がり角のところで光は地面に向かって伸びていた。
「この辺りかな」
しゃがみ込みあたりを見渡すと、近くに置かれていた花壇の後ろに光に包まれた綺麗な簪が落ちていた。
「はい、どうぞ」
簪を拾い上げ砂を払い少年に渡す。すると先程までの不安な顔が嘘のように一気に明るくなった。
「お姉ちゃん、見つけてくれてありがとう!!」
「どういたしまして。素敵な簪ね」
でも、なんでこんな入り組んだ場所に?
光が導いた場所は少年が飛び出してきた方向とは真反対だった。
「見つかってよかった・・・さっきここで人とぶつかったからもしかしたらその時に落としたのかな」
「坊やってなんだか不運ね」
「ふうん?」
「なんでもないわ。さあ、早くお母さんに渡してあげて」
「うん!」
少年は大きく手を振りながら嬉しそうに走っていった。
小さなことでも私の命うつしが役に立ててよかった。
「あれが・・・」
「そうだ、あれが祈様の命うつしだ」
”命うつし”とはこの世界の人々が生れながらに持っている能力の一つ。
神の力を司る能力は守国の人間にしか宿らないのに対し、命うつしは誰しもが持っている能力。
自分の名前、つまり命字が存在すれば命うつしの能力は存在するということ。
その能力とは自分の名前に込められた力を具現化して扱うというもの。
命字の意味を理解すればするほどその力は強くなる。
私の命字は”祈”。
私の命うつしの能力は、祈ることにより願いや想いを叶えるというもの。
私の場合は想いの強さも必要だから中途半端な気持ちじゃ全部は叶えられないし、無理な願いは叶えられない。例えば人を生き返らせるなど自然の摂理に背いたことなどはできない。それとこの能力には私の意思も関係してくる。私が叶えたくないと望めばそれは叶わない。
「この能力は使い方を間違えればとても危険なものになる。だからあまり国内でも公な場所では使用されてこなかったんだ」
「なるほど・・・だから我々は存じ上げなかったのですね」
「お前は最近昇格したばかりだからな。新兵の間じゃ風の噂程度だろあの人の能力なんて」
「ええ、でも実際に拝見できてよかったです」
「そりゃよかった。祈様、もうよろしいですか?」
「ええ、待っててくれてありがとう」
「これが仕事ですから。さあ、馬車にお乗りください」
相馬に促され馬車に戻り王宮を目指す。
しばらく馬車に揺られながら進んでいると不意に馬に止まるよう伝える声が聞こえた。
窓から外を見ると先程よりは低いがそれでも大きな壁がそびえ立っていた。
ここから先が王宮。
相馬が門番と何か書状でやり取りをしているのを眺めながら静かに待つ。
しばらくすると馬車が再び進みだしたので私も窓から外をのぞく。
「あれが、朱耀城」
この城はまさしくこの国を象徴とするものだろう。
日の光のように朱い壁で作られた城、外の門からここまで一直線になるように作られた道、城が明るく照らす先は一本の路となり他国へ続いていく。まさしくこの輝国、別名光路国の名に相応しい作りだ。
守国とはまた建造物に少し面白さも感じる。
守国も、催事の際や伝統的な行事の際は金や銀のあしらわれたものを使用するがここまで派手な色ましてや城の壁を朱色に染めようとは思わない。
だがこれが国の違いというものなのだろう。
それにしても輝国の国王は一体どんな人なの・・・。
出発する前もしてからも誰一人として詳しい人柄を教えてくれる人はいなかった。
父が言っていたのは”変わり者”だってことぐらいだし、相馬に聞いても”とにかく元気な人ですよ”としか返ってこなかった。
守国との交友歴を見た限りでは、国王は若くして国王になられたとか。
「変わり者にも色々あるよね」
元気な人とも言ってたし、もしかして変人?
私はまだ見ぬ国王への想像を膨らませる。
しかし、守国に興味があって巫女を要請したのだから少なからず邪険にはされないだろう。
一応高を括るがここは異国の地。何があるか分からない。
どんな人だったとしても気をつけないと。
改めて気を引き締めていると馬車が止まり相馬に馬車から降りるよう促される。
馬車の扉が開き、意を決して馬車から降りる。
すると目の前には薄桃色の長い髪を首のあたりで一つにくくっている長身の男性が立っていた。
「お待ちしておりました、祈様」
男の人はこちらに向かって深々と頭を下げてきた。
「国王をはじめ輝国の者は祈様がお越しになるのを待ち望んでおりました」
「出迎えていただきありがとうございます。この度巫女として参りました神崎祈です。よろしければお名前をうかがってもよろしいでしょうか?」
「これは失礼いたしました。私は国王の補佐をしております、秦李桜と申します。どうぞ李桜とお呼びください」
そう言って李桜さんはもう一度深く頭を下げる。
「そんなにかしこまらないでください。私は第二皇女ですがここではただの巫女です。それ以上でもそれ以下でもありませんので」
守国では第二皇女と言えど国のみんなとは家族のように育ってきたせいか、このような対応を取られると少し居心地が悪い。
「しかし、そうは言っても守国にとって大切な皇女をお招きしているわけですし・・・」
「本当に!ただの巫女として扱ってください」
一人だけならまだしもこの国全体でこういう対応を取られるとどうしたらいいか分からなくなる。
なるべく普通に接してほしい。国の違いによりそれは難しいのかもしれないが折角他国に来たのだから普通の巫女として仕事をしたい。
「私はここへは仕事をしに来ているのですから」
改めて李桜の目を見て告げる。李桜も諦めたのかにこやかな笑みを浮かべ姿勢を戻す。
「承知いたしました。では、さっそく国王のところへ案内させていただきます」
そう言って李桜さんは王宮の中へ入っていった。
「祈様、我々はここで失礼いたします」
振り返ると護衛隊の全員が片膝をつき頭を下げていた。
「祈様、どうかお体に気をつけて。何かありましたらこの相馬、すぐに駆け付けますゆえご無理なさらずお過ごしください」
私は思っていたよりも緊張していたみたい。
相馬がいつものように冗談を言うような口調で片目をつむるので少し気が抜ける。
「ええ、国のみんなにもよろしく伝えておいて」
「はい。祈様をお元気で。またお会いできるのを楽しみにしております」
そう言い残すと護衛隊は王宮に背を向け守国へ帰っていった。
「祈様、お別れはお済ですか?」
「はい、お待たせして申し訳ありません」
「いえ、大丈夫ですよ。それでは国王の部屋へ行きながら王宮の案内もさせていただきます」
李桜さんに促され私は今度こそ城の中に足を踏み入れたのだった。
私と少年が話をしている後ろで相馬と隊員が何やら話をしている。
「いいんだよ。どうせ行っても無駄だ」
「しかし・・・」
「もう国には入ってんだ。あの人言い出したら聞かないから黙って従っとけ」
まだ何か言いたそうな隊員を制し相馬は祈と少年を見つめる。
「それよりもよく見とけよ」
「えっ?」
「これが祈様の能力を見る最後になるかもしれないからな」
相馬の目線に促されるように隊員達は祈と少年に目を向ける。
少年の前に再びしゃがみ込み目線を合わせる。
「坊や、あなたが失くした簪とお母さんの事を頭の中に思い浮かべてみて」
不思議そうな顔をする少年に微笑み私は目を閉じるよう促す。
「緊張しないでゆっくり深呼吸をして。無理に思い浮かべないで、なるべく自然にね」
語りかけながら少年の緊張を和らげていく。
大切なものを失くして、馬に引かれかけるなんて本当に災難続きね。そんな彼に少しでも幸福が訪れますように。
「思い浮かべた?」
「うん」
「それじゃあ、そこに見つけたいという想いも込めて」
少年は先程よりもギュッと目を閉じたのを確認して私は意識を集中させる。
私は少年の想いをもとに”祈る”。
視えた。
パンッと胸の前で両手を叩き、合わせた手を少し膨らませ息を吹きかける。ゆっくりと手を開くと小さな光が中から出てきて二人の頭上に現れ、家と家の間にある小路に入っていく。
「さあ、行こう」
少年の手を引き小さな光を追いかけ小路に入る。
光が線となり私たちを導いていく。その線を辿っていくと、曲がり角のところで光は地面に向かって伸びていた。
「この辺りかな」
しゃがみ込みあたりを見渡すと、近くに置かれていた花壇の後ろに光に包まれた綺麗な簪が落ちていた。
「はい、どうぞ」
簪を拾い上げ砂を払い少年に渡す。すると先程までの不安な顔が嘘のように一気に明るくなった。
「お姉ちゃん、見つけてくれてありがとう!!」
「どういたしまして。素敵な簪ね」
でも、なんでこんな入り組んだ場所に?
光が導いた場所は少年が飛び出してきた方向とは真反対だった。
「見つかってよかった・・・さっきここで人とぶつかったからもしかしたらその時に落としたのかな」
「坊やってなんだか不運ね」
「ふうん?」
「なんでもないわ。さあ、早くお母さんに渡してあげて」
「うん!」
少年は大きく手を振りながら嬉しそうに走っていった。
小さなことでも私の命うつしが役に立ててよかった。
「あれが・・・」
「そうだ、あれが祈様の命うつしだ」
”命うつし”とはこの世界の人々が生れながらに持っている能力の一つ。
神の力を司る能力は守国の人間にしか宿らないのに対し、命うつしは誰しもが持っている能力。
自分の名前、つまり命字が存在すれば命うつしの能力は存在するということ。
その能力とは自分の名前に込められた力を具現化して扱うというもの。
命字の意味を理解すればするほどその力は強くなる。
私の命字は”祈”。
私の命うつしの能力は、祈ることにより願いや想いを叶えるというもの。
私の場合は想いの強さも必要だから中途半端な気持ちじゃ全部は叶えられないし、無理な願いは叶えられない。例えば人を生き返らせるなど自然の摂理に背いたことなどはできない。それとこの能力には私の意思も関係してくる。私が叶えたくないと望めばそれは叶わない。
「この能力は使い方を間違えればとても危険なものになる。だからあまり国内でも公な場所では使用されてこなかったんだ」
「なるほど・・・だから我々は存じ上げなかったのですね」
「お前は最近昇格したばかりだからな。新兵の間じゃ風の噂程度だろあの人の能力なんて」
「ええ、でも実際に拝見できてよかったです」
「そりゃよかった。祈様、もうよろしいですか?」
「ええ、待っててくれてありがとう」
「これが仕事ですから。さあ、馬車にお乗りください」
相馬に促され馬車に戻り王宮を目指す。
しばらく馬車に揺られながら進んでいると不意に馬に止まるよう伝える声が聞こえた。
窓から外を見ると先程よりは低いがそれでも大きな壁がそびえ立っていた。
ここから先が王宮。
相馬が門番と何か書状でやり取りをしているのを眺めながら静かに待つ。
しばらくすると馬車が再び進みだしたので私も窓から外をのぞく。
「あれが、朱耀城」
この城はまさしくこの国を象徴とするものだろう。
日の光のように朱い壁で作られた城、外の門からここまで一直線になるように作られた道、城が明るく照らす先は一本の路となり他国へ続いていく。まさしくこの輝国、別名光路国の名に相応しい作りだ。
守国とはまた建造物に少し面白さも感じる。
守国も、催事の際や伝統的な行事の際は金や銀のあしらわれたものを使用するがここまで派手な色ましてや城の壁を朱色に染めようとは思わない。
だがこれが国の違いというものなのだろう。
それにしても輝国の国王は一体どんな人なの・・・。
出発する前もしてからも誰一人として詳しい人柄を教えてくれる人はいなかった。
父が言っていたのは”変わり者”だってことぐらいだし、相馬に聞いても”とにかく元気な人ですよ”としか返ってこなかった。
守国との交友歴を見た限りでは、国王は若くして国王になられたとか。
「変わり者にも色々あるよね」
元気な人とも言ってたし、もしかして変人?
私はまだ見ぬ国王への想像を膨らませる。
しかし、守国に興味があって巫女を要請したのだから少なからず邪険にはされないだろう。
一応高を括るがここは異国の地。何があるか分からない。
どんな人だったとしても気をつけないと。
改めて気を引き締めていると馬車が止まり相馬に馬車から降りるよう促される。
馬車の扉が開き、意を決して馬車から降りる。
すると目の前には薄桃色の長い髪を首のあたりで一つにくくっている長身の男性が立っていた。
「お待ちしておりました、祈様」
男の人はこちらに向かって深々と頭を下げてきた。
「国王をはじめ輝国の者は祈様がお越しになるのを待ち望んでおりました」
「出迎えていただきありがとうございます。この度巫女として参りました神崎祈です。よろしければお名前をうかがってもよろしいでしょうか?」
「これは失礼いたしました。私は国王の補佐をしております、秦李桜と申します。どうぞ李桜とお呼びください」
そう言って李桜さんはもう一度深く頭を下げる。
「そんなにかしこまらないでください。私は第二皇女ですがここではただの巫女です。それ以上でもそれ以下でもありませんので」
守国では第二皇女と言えど国のみんなとは家族のように育ってきたせいか、このような対応を取られると少し居心地が悪い。
「しかし、そうは言っても守国にとって大切な皇女をお招きしているわけですし・・・」
「本当に!ただの巫女として扱ってください」
一人だけならまだしもこの国全体でこういう対応を取られるとどうしたらいいか分からなくなる。
なるべく普通に接してほしい。国の違いによりそれは難しいのかもしれないが折角他国に来たのだから普通の巫女として仕事をしたい。
「私はここへは仕事をしに来ているのですから」
改めて李桜の目を見て告げる。李桜も諦めたのかにこやかな笑みを浮かべ姿勢を戻す。
「承知いたしました。では、さっそく国王のところへ案内させていただきます」
そう言って李桜さんは王宮の中へ入っていった。
「祈様、我々はここで失礼いたします」
振り返ると護衛隊の全員が片膝をつき頭を下げていた。
「祈様、どうかお体に気をつけて。何かありましたらこの相馬、すぐに駆け付けますゆえご無理なさらずお過ごしください」
私は思っていたよりも緊張していたみたい。
相馬がいつものように冗談を言うような口調で片目をつむるので少し気が抜ける。
「ええ、国のみんなにもよろしく伝えておいて」
「はい。祈様をお元気で。またお会いできるのを楽しみにしております」
そう言い残すと護衛隊は王宮に背を向け守国へ帰っていった。
「祈様、お別れはお済ですか?」
「はい、お待たせして申し訳ありません」
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