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天明六年 真固度村の人別改
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天明六年(一七八六)、六年に一度の人別改の任を受けた祖父・宮本啓一郎、父・宮本慎一郎、私・宮本恒一郎は山田藩の最果ての管理地の真固戸村に向かう。六年前は初めてということで荷物は免除されていたが、今回は役人として行くため大量の荷物を任された。筆、記録紙など仕事に関するものはともかく、曾祖父が大量に買った甘いもののせいでひどく重くなった。祖父の荷物というと曾祖父から真固度村の女性への贈り物として頼まれた華やかな反物と京都の老舗『ししや』の銘菓だった。父の荷物は酒と江戸や大坂で流行りの簪と櫛だった。揃いも揃って女性への贈り物とは下心が見えて不愉快だ。贈り物は江戸と大坂で働く真固戸村出身の女性が選んだと言っていた。真固戸村は人口を安定させるために長男、長女以外は村を出る。山田藩内で店を営む者や江戸に出て公共事業につく者、大量の積荷を運ぶ船で働く者など、様々な職種についている。山田藩の評判を落とす者はなく、みな真面目だった。それに引き換え今回の荷物・・・、藩校で武士の在り方を習う私にとってその中身は不快を覚えるものだった。前日の夜、出発の最終確認に来ていた太助に
「雷様に怒られるんじゃないですか、この荷物の中身・・・」
と愚痴った。太助は私の顔を見て微笑む。
「恒一郎様は真面目でございますな、さすが藩校一の優等生でいらっしゃる」
「祖父も父も同じことを学んだはずなんです」
「お二人とも立派ですよ、怒られはしません。恒一郎様をはじめ、宮本家はずっとずっと雷様に守られています。織田様や足利様、それよりもっと前からです。心配要りませんよ」
「でも、私は祖父や父のように女性を喜ばせるような行為はできません」
浮かぬ顔をする私に太助は言った。
「今回の訪問で気が変わるかもしれません。さぁさ、明日は早い、早く支度して床に就きましょうや」
朝五時に屋敷を出発した。霊山雷山を控える山田藩の朝は寒い。荷物の中身はさておき、私は六年ぶりの真固戸村訪問に心を躍らせていた。前は思い出作りだったが、今回は役人見習いとして赴くのだ。そして、久しぶりに優しい人に会えるんだ。城下町を抜け、田園地帯を横切り、雷山神社へと進んだ。朝の光が眩しい、水路の水がきらきら光る。大鳥居の前で一礼し、拝殿へ向かった。雷山神社は雷山が御神体なので古来より本殿を設けず拝殿を通して雷山を拝する。参拝後、記録帳に署名するため社務所に向かう。宮本家三人、平次、太助、宗右衛門の真固戸村出身の三人は入山予約を入れていたためすぐに通された。山道は祖父を先頭に平次、私、太助、父、宗右衛門の順で進むことにした。真固度村出身の二人を私の前後に配置してくれたのは嬉しかった。祖父は怖いし、父は不愛想だし、助けを求めても無視されそうだから。
「この山々には猪や狸など獣がたくさんいます。そのため、森の中にはたくさんの獣道があります。突然、ガサガサと音が聞こえることがありましても驚くことはありません。山の中に住むものは自分からは姿を現しません。ですから、何か物音がしたときには恒一郎様は落ち着いてその場に立ち止まってください。そのまま、過ぎるのを待ちましょう。私と平次がいます、安心してください」
「太助さん、思い出しました、六年前も同じことを言われました」
「あぁ、あの頃はまだ小さくて、途中で泣きべそかいていらっしゃいました。でも、今は立派なお役人様ですから手は繋ぎませんよ」
「役人と言っても見習いで雑用ばかりですけどね。知っての通り剣術では祖父に怒られてばかり、私は弱っちいので今回もべそをかきますよ、怖い怖いって」
「大丈夫です。宮本家のみなさんは愛でられてますよ、雷様に」
「そう言ってくれるのは太助さんだけです。今回も安心です」
前を歩く平次も時折振り返ってくれた。
最大の難所に来た。一年前、崇同院の僧侶法慧が転落した場所だ。右手の熊笹の中からガサガサッと音がした。私は心臓が飛び出るほど怖かった。太助の言う通り、その場に立ち止まった。前の平次も立ち止まっている。なんだろう、私はなんだか見張られている気がする。私たちを判別しているような・・・、視線を感じる、何かいる。
薄暗くなる前に山小屋に着いた。軽く食事を済ませ、寝た。翌日、薄暗い中、山小屋を出発した。歩き続けること六時間、六年ぶりに訪れた真固戸村は太陽が特別まぶしかった。暗い森を歩いてきたからだろう。潮風がそよぎ、波が打ち寄せる、懐かしい風景だった。
村のみんなが私たちのために浜辺にいた。とても賑やかだった。祖父も父もチヤホヤされていた。あんなデレデレした顔、普段見たことがない。頬を紅潮させた祖父と父、雷山から愛でられた人とはいえ寺社奉行所、屋敷での態度の差に驚いてしまう。集まった人の中から優しい人を見つけた。私は思わず歩み寄った。
「お元気でしたか」
優しい人は目に涙を湛えていた。
「立派になられて、ようお越しくださいました」
私は胸が締め付けられた、触れたい衝動を抑えるのに必死だった。みんながいなければきっと手を握っただろう。
「お元気でした? 私たちのこと覚えています?」
振り向くと、目の大きい色黒の健康そうな女性が三人並んでいた。
「えっ、もしかして・・・、あの・・・、岩場の?」
女性たちは弾けんばかりに笑い出した。私は恥ずかしくて俯いてしまった。
「恒一郎様を困らせてはいけませんよ」
優しい人は女性たちを窘めた。私は気恥ずかしいやら嬉しいやら何が何だか分からないほど興奮した。長く伸びた手足、濃い眉、黒い瞳、しなやかな体は私にとって刺激が強かった。
父と祖父は慣れたもので女性陣に土産を配っていた。
「おーい、恒一郎、荷物を出してくれ」
女性に囲まれご機嫌な祖父が私を呼んだ。私が背負ってきた荷をあけると、女性の歓声が上がった。
「まぁ」
「おいしそうなお菓子、初めてだわ」
うれしそうな祖父は
「このお菓子は父の孝一郎より持たされました。『今回は行けなくてごめんねー、許してー』と伝えよ、と厳命されました」
と上機嫌で言い放った。
「孝一郎様ったら」
老婆、中年の女性はゲラゲラ笑っていた。曾祖父・宮本孝一郎の調子の良さ、色男っぷりに私は呆れかえった。
「恒一郎様、久しぶりです。大きく立派になりましたわねぇ」
次々と挨拶に来る老婆、中年女性は私の成長を心から喜んでいた。みんな私を覚えてくれていた。なんだろう、この心地よさ。祖父と父の気持ちが分からぬでもない。でも態度を崩さないようにしなければ。私は役人として入村したのだから。
たくさんの食べ物が用意されていた。私は勧められるままに口へ運んだ。相変わらず塩辛い。私をネタにして会話が弾む、それも私の賛辞だ。恥ずかしいやら、嬉しいやら、見習いとはいえ役人となった今回、逃げ出すわけにも行かず、静かに話を聞いていた。そのまま宴は続き、いつの間にか辺りは暗くなった。酒が入り、その場で横になるものが現れてきた。そのうち、老人たちが民謡を唄い始めた。ゆっくりした曲調、深く響く声、聴き心地はいいけど分からない言葉が多いためチンプンカンプンだ。この地の方言? 独特の言い回しなのか? 呪文? ふと父を見ると、ん? 土下座の如く体を倒し頭を抱え大きな体を上下に震わせていた。祖父に目を向けると口に手を当ててじっと聞いている、小刻みに震えているのは気のせいか。物静かで隙のない父がこんな大きい反応をしているなんて、ここは本当に特別な場所だ。しばらく聞いていたが私は唄の区切りがいい時に席を外した。優しい人は私に気づいた。
「お疲れでしょう」
「えぇ、少し。昨夜、山小屋で眠れなくて」
優しい人は休む家へ私を導いた。そのまま、ごろんと横になるとそのまま眠りに落ちた。
目が覚めると、優しい人が横で座りながら寝ていた。あぁ、六年前を思い出す、懐かしい。この村は変わらない、変わったのは私の方、私が大きくなっただけだ。私は優しい人を起こすに忍びないのでもう一度横になった。その人は父が持ってきた簪と櫛を持っていた。女性を喜ばせるものをコソコソ用意する祖父と父を軽蔑していたが、その気持ちがよく分かった。優しくされたら優しくしたくなるということだ。この人の隣でもう少し、寝ることにしよう。繰り返される波の音に導かれ、眠りに落ちていった。
再び起きた時には太陽はずいぶん高くなっていた。優しい人はずっと私の傍らにいたようだ。
「おはようございます、お加減はいかがですか」
「おはようございます、大丈夫です。それよりすみません、昨夜のことは覚えてなくて」
「よほどお疲れだったのでしょう。では、この着物に着替えていただきます」
優しい人はさっと出ていった。言われた通りに着替えるが私はためらいの気持ちが抜けない、今回は見習いとはいえ役人としてやってきたのに・・・、粗末な着物は素直には受け入れがたかった。
着替えが終わり、外に出ると優しい人は父と話していた。優しい人は頭に簪と櫛を挿していた。父と嬉しそうに話し、頬を染める優しい人は少女のようだった。優しい人は私に気づくとすぐに朝食の用意をしに炊事場へ向かった。出されたのは魚、そして芋だった。祖父がいない、父から、
「父上はどっかに遊びに行ってしまった。私とお前で検地と人別改をしよう」
と言われた。父と私はさっさと食事を済ませ、仕事にとりかかった。検地の結果は全く同じだった。人別改では驚いたことに六年前に仲良くなった弥七が世帯主になり、父親になっていた。女っけの全くない私は磯で遊んだ少年がさっさと大人になってしまったことに寂しさを感じた。十七歳は結婚する十分な年齢であることは分かっている、私が幼稚なのも知っている。でも、世帯主という響きは私を惑わせた。同じく六年前に仲良くなった八兵衛は村に残っていなかった。大坂に出て荷を運ぶ弁才船に乗り込んでいるとのことだった。私の知っていた少年たちは世帯主になったり、生家を出て新しい道を歩んでいた。
その後、祖父と合流して連れていかれたのは海岸から少し離れた茂みだった。押し倒された草、なにものかが通ったことを物語っていた。
「この雷山山系には私の知らぬなにものかが住んでいる。雷様が認めたものだ。そのものは弱いものかもしれない。強いものかもしれない。真固戸村の人はここに供え物をしている。魚とか野菜とかだ。それはいつの間にかなくなっている。お前は宮本家を継ぐもの、この山々になにものかがいることを知っておけ。ただし、このことは他言するな。雷様を恐れよ」
いつも穏やかな父の真顔が怖かった。祖父も険しい顔をしている。
「明らかにするとどうなるのでしょう?」
私は怯えながらも問うた。
「宮本家だけならまだしも、真固戸村、さらには山田藩にも禍が降りかかる」
祖父の重い言葉だった。真固度村に来るまで何度か見張られていると感じたその視線の正体のことだろうか。私は重く受け止め、父の言ったことを守ると約束した。
その後、祖父は仲のいい家に向かっていった。先ほどの厳めしい雰囲気はなく、出迎える優しい女性たちに鼻の下を伸ばしていた。父は神職の白衣・白袴に着替え、五里先にある火山島に向かって一人舟を漕ぎだした。火山島への感謝の祈祷のためだ。火山島は山田藩中にある温泉を生み、住人に恵んでくださっていると信じられていた。その火山島からはモクモクと噴煙が上がっている。あんな恐ろしいところに行くなんて、やっぱり父は変だ。父は普段穏やかだが一度決めると止められない、止めても無駄だった。父を見送った私は久しぶりに蟹や宿借と戯れたくなって岩場に行った。透明な海、私の影が動くと一斉に生き物が移動した。岩海苔を集めるのは子どもの役目なのだろう。私の姿に気づくとみんな寄ってきた。私の持ってきた飴がすごくおいしかったと口を揃える。平次や太助は麦や粟などの穀物や生活必需品の運搬で精一杯だからお菓子は珍しいのだろう。
「岩海苔集めをしているんですね。大変ですね」
「お母さんが喜んでくれるから」
みんな親孝行者だ、母のない私には真似できない。
「今、おばあちゃんに竹細工の工芸品の作り方を習っているんですよ」
この村の笊はきめ細かくて丁寧に作ってある。江戸と大坂の真固度村出身が経営している店で売っている。この村の子どもは学問はないがどこに行っても雇ってもらえる技術を身につけようと幼いころから日々励んでいるのだろう。
「宮本様、この歌、知っていますか」
十二歳くらいの賢そうな子が歌い始めるとみんな歌い始めた。
思いを遂げるには 時がかかる
一つ 攻めてはなりません
二つ まだまだ早いでしょう
三つ もう少し待ちましょう
四つで やっと添い遂げる
私はなんのことやら分からなかった。この村にはいろんな習わしがあるんだろう。寺子屋も書物もない村だが、顔つきや佇まいにどこか知的なものを感じる。なんだろう、この安心感は。とびぬけて顔が違うものがいない、背が高いもの、低いもの、鼻が低いもの、口が大きいもの、足が短いもの、・・・、はっきりわかるような違いがない、なんか似ているんだ、ここの人たちは。
夕食後、弥七と温泉に入った。弥七は赤ん坊を連れてきた。弥七は同い年とは思えないほど大人びていた。今は塩、炭の他に山道の手入れを仕事にしていると言う。先月はひどい土砂降りで山道が塞がれてしまい土砂を運び出す作業に追われた、一昨年は落石があって道が通れなくなったため大変だった、と話す。山道に何かあると真固度村の男衆は補修に向かう。その間、塩や炭の仕事は女衆が駆り出される。この村は貧しいながら個々がよく稼ぐため何とか維持できている。お互いの話をしているうちに赤ん坊が泣きだしたので弥七は先に上がっていった。別れを告げ振り返ると、長老たちが私を見つめていた。私と話がしたくて集まってきたのか?
「恒一郎様を見ていると昔の孝一郎様を思い出してのう」
「享保の飢饉で騒いでおるときに甘藷を持ってきてくださった」
「芋の育て方を教えてくださった。畑を起こすのも手伝ってくださった。江戸で流行りの工芸品を持ってきてこの村でも作れるようにしてくださった」
「宮本様は村を出ていく子どもたちの面倒をよう見てくれる」
次々と感謝を述べられると気恥ずかしかったが、曾祖父・宮本孝一郎のことを言われるのは誇らしかった。私は曾祖父と顔つきが似ているから私の顔を見ると昔のことを思い出すのだろう。次々と話す長老たちは嬉しげだ。話の切りのいいところで私は暇を告げた。帰りしなに聞こえた。
「おぉ、立派じゃわい」
私は海岸にいた。どこか懐かしい風景、この村と宮本のつながり、なんとなく重いものを感じた。前回は新しい発見だけで終わったが、今回は次から次へと過去や事実を語られた。受け止めきれないのか、自分の容量が少ないのだろうか。あー、困った、空を見上げると星が降ってきそうだ。明日はもう帰るのか・・・。後ろから砂を踏みしめる音が聞こえる。
「宮本様、お加減はいかがですか」
「私たちと話しませんか」
「少しだけですがお酒とつまみを用意しました」
振り向くと父の贈った簪を挿した三人の女性がいた。小心者の私は断る術を知らず、そのまま三人に連れていかれた。五十段ほど石段を上っただろうか、連れていかれたのは山の奥の観音堂だった。この観音堂は台風の避難所として利用すると優しい人が言っていたな。
月明かりが健全な女性を妖しく美しくさせた。愛しき女性たちは美しい声で歌った。
思いを遂げるには 時がかかる
一つ 攻めてはなりません
二つ まだまだ早いでしょう
三つ もう少し待ちましょう
四つで やっと添い遂げる
甘く切ない歌声の中、初めてのお酒、ちょっとで酔いが回った。心地よい、体が熱くなる。私の手を一人の女性が握りしめた。私の背中は暖かくて柔らかいものを感じた。あぁ、私はとっさに振り払おうとした。しかし、私を囲む女性の柔らかい体に私は吸い込まれていく。逃れられない。柔らかく暖かい汗ばんだ肉体が私を蕩かせた。この世の素晴らしいものに囲まれ、私は誘導されるがまま、本能に従った。
どれくらい時が経ったのだろう。気づくと三人の女性はいなくなっていた。観音堂に一人残された私は慌てて着物を着ると一目散に石段を駆け下りた。なんてことしちまったんだろう。あぁ、どうなってんだ? 女性たちは?
気づかれぬよう私は寝床に戻った。優しい人はいなかった、ホッとした。しかし、私はなんてことをしたんだろう。あの女性たちは今頃どうしているんだろう? とても眠れなかった。私は海岸に出た。女性たちと観音堂に出かけた時、青白く光っていた月はなかった。もう夜明けが近いのだろう。私はとんでもないことをしでかしちゃったのか? あぁ、星は無情にもキラキラ輝いている。波はザザーン、ザザーンと繰り返すばかり。砂浜に寝転んだ。こんなに夜空は広いのに、私はなにをやっちゃったんだろう・・・。とはいえ、あの柔らかい胸、すらりと伸びた指、甘美な口づけ・・・。自分の大失態と甘美の両方に一人砂浜で悶えた。
早朝、別れの時、私は周囲を見渡したが昨夜の三人の女性はいなかった。優しい人が私を見ている、視線を感じる。あぁ、目がパンパンに張れている、恥ずかしい、顔を上げられない。優しい人が私に語りかける。
「恒一郎様、旅の御無事を祈っております」
もじもじしていると、
「恒一郎、挨拶をせんか」
祖父の言葉が痛い。
「ありがとうございました」
深々と頭を下げた。周りの大人は笑っていた。半べそをかきながら帰路に就いた。
「雷様に怒られるんじゃないですか、この荷物の中身・・・」
と愚痴った。太助は私の顔を見て微笑む。
「恒一郎様は真面目でございますな、さすが藩校一の優等生でいらっしゃる」
「祖父も父も同じことを学んだはずなんです」
「お二人とも立派ですよ、怒られはしません。恒一郎様をはじめ、宮本家はずっとずっと雷様に守られています。織田様や足利様、それよりもっと前からです。心配要りませんよ」
「でも、私は祖父や父のように女性を喜ばせるような行為はできません」
浮かぬ顔をする私に太助は言った。
「今回の訪問で気が変わるかもしれません。さぁさ、明日は早い、早く支度して床に就きましょうや」
朝五時に屋敷を出発した。霊山雷山を控える山田藩の朝は寒い。荷物の中身はさておき、私は六年ぶりの真固戸村訪問に心を躍らせていた。前は思い出作りだったが、今回は役人見習いとして赴くのだ。そして、久しぶりに優しい人に会えるんだ。城下町を抜け、田園地帯を横切り、雷山神社へと進んだ。朝の光が眩しい、水路の水がきらきら光る。大鳥居の前で一礼し、拝殿へ向かった。雷山神社は雷山が御神体なので古来より本殿を設けず拝殿を通して雷山を拝する。参拝後、記録帳に署名するため社務所に向かう。宮本家三人、平次、太助、宗右衛門の真固戸村出身の三人は入山予約を入れていたためすぐに通された。山道は祖父を先頭に平次、私、太助、父、宗右衛門の順で進むことにした。真固度村出身の二人を私の前後に配置してくれたのは嬉しかった。祖父は怖いし、父は不愛想だし、助けを求めても無視されそうだから。
「この山々には猪や狸など獣がたくさんいます。そのため、森の中にはたくさんの獣道があります。突然、ガサガサと音が聞こえることがありましても驚くことはありません。山の中に住むものは自分からは姿を現しません。ですから、何か物音がしたときには恒一郎様は落ち着いてその場に立ち止まってください。そのまま、過ぎるのを待ちましょう。私と平次がいます、安心してください」
「太助さん、思い出しました、六年前も同じことを言われました」
「あぁ、あの頃はまだ小さくて、途中で泣きべそかいていらっしゃいました。でも、今は立派なお役人様ですから手は繋ぎませんよ」
「役人と言っても見習いで雑用ばかりですけどね。知っての通り剣術では祖父に怒られてばかり、私は弱っちいので今回もべそをかきますよ、怖い怖いって」
「大丈夫です。宮本家のみなさんは愛でられてますよ、雷様に」
「そう言ってくれるのは太助さんだけです。今回も安心です」
前を歩く平次も時折振り返ってくれた。
最大の難所に来た。一年前、崇同院の僧侶法慧が転落した場所だ。右手の熊笹の中からガサガサッと音がした。私は心臓が飛び出るほど怖かった。太助の言う通り、その場に立ち止まった。前の平次も立ち止まっている。なんだろう、私はなんだか見張られている気がする。私たちを判別しているような・・・、視線を感じる、何かいる。
薄暗くなる前に山小屋に着いた。軽く食事を済ませ、寝た。翌日、薄暗い中、山小屋を出発した。歩き続けること六時間、六年ぶりに訪れた真固戸村は太陽が特別まぶしかった。暗い森を歩いてきたからだろう。潮風がそよぎ、波が打ち寄せる、懐かしい風景だった。
村のみんなが私たちのために浜辺にいた。とても賑やかだった。祖父も父もチヤホヤされていた。あんなデレデレした顔、普段見たことがない。頬を紅潮させた祖父と父、雷山から愛でられた人とはいえ寺社奉行所、屋敷での態度の差に驚いてしまう。集まった人の中から優しい人を見つけた。私は思わず歩み寄った。
「お元気でしたか」
優しい人は目に涙を湛えていた。
「立派になられて、ようお越しくださいました」
私は胸が締め付けられた、触れたい衝動を抑えるのに必死だった。みんながいなければきっと手を握っただろう。
「お元気でした? 私たちのこと覚えています?」
振り向くと、目の大きい色黒の健康そうな女性が三人並んでいた。
「えっ、もしかして・・・、あの・・・、岩場の?」
女性たちは弾けんばかりに笑い出した。私は恥ずかしくて俯いてしまった。
「恒一郎様を困らせてはいけませんよ」
優しい人は女性たちを窘めた。私は気恥ずかしいやら嬉しいやら何が何だか分からないほど興奮した。長く伸びた手足、濃い眉、黒い瞳、しなやかな体は私にとって刺激が強かった。
父と祖父は慣れたもので女性陣に土産を配っていた。
「おーい、恒一郎、荷物を出してくれ」
女性に囲まれご機嫌な祖父が私を呼んだ。私が背負ってきた荷をあけると、女性の歓声が上がった。
「まぁ」
「おいしそうなお菓子、初めてだわ」
うれしそうな祖父は
「このお菓子は父の孝一郎より持たされました。『今回は行けなくてごめんねー、許してー』と伝えよ、と厳命されました」
と上機嫌で言い放った。
「孝一郎様ったら」
老婆、中年の女性はゲラゲラ笑っていた。曾祖父・宮本孝一郎の調子の良さ、色男っぷりに私は呆れかえった。
「恒一郎様、久しぶりです。大きく立派になりましたわねぇ」
次々と挨拶に来る老婆、中年女性は私の成長を心から喜んでいた。みんな私を覚えてくれていた。なんだろう、この心地よさ。祖父と父の気持ちが分からぬでもない。でも態度を崩さないようにしなければ。私は役人として入村したのだから。
たくさんの食べ物が用意されていた。私は勧められるままに口へ運んだ。相変わらず塩辛い。私をネタにして会話が弾む、それも私の賛辞だ。恥ずかしいやら、嬉しいやら、見習いとはいえ役人となった今回、逃げ出すわけにも行かず、静かに話を聞いていた。そのまま宴は続き、いつの間にか辺りは暗くなった。酒が入り、その場で横になるものが現れてきた。そのうち、老人たちが民謡を唄い始めた。ゆっくりした曲調、深く響く声、聴き心地はいいけど分からない言葉が多いためチンプンカンプンだ。この地の方言? 独特の言い回しなのか? 呪文? ふと父を見ると、ん? 土下座の如く体を倒し頭を抱え大きな体を上下に震わせていた。祖父に目を向けると口に手を当ててじっと聞いている、小刻みに震えているのは気のせいか。物静かで隙のない父がこんな大きい反応をしているなんて、ここは本当に特別な場所だ。しばらく聞いていたが私は唄の区切りがいい時に席を外した。優しい人は私に気づいた。
「お疲れでしょう」
「えぇ、少し。昨夜、山小屋で眠れなくて」
優しい人は休む家へ私を導いた。そのまま、ごろんと横になるとそのまま眠りに落ちた。
目が覚めると、優しい人が横で座りながら寝ていた。あぁ、六年前を思い出す、懐かしい。この村は変わらない、変わったのは私の方、私が大きくなっただけだ。私は優しい人を起こすに忍びないのでもう一度横になった。その人は父が持ってきた簪と櫛を持っていた。女性を喜ばせるものをコソコソ用意する祖父と父を軽蔑していたが、その気持ちがよく分かった。優しくされたら優しくしたくなるということだ。この人の隣でもう少し、寝ることにしよう。繰り返される波の音に導かれ、眠りに落ちていった。
再び起きた時には太陽はずいぶん高くなっていた。優しい人はずっと私の傍らにいたようだ。
「おはようございます、お加減はいかがですか」
「おはようございます、大丈夫です。それよりすみません、昨夜のことは覚えてなくて」
「よほどお疲れだったのでしょう。では、この着物に着替えていただきます」
優しい人はさっと出ていった。言われた通りに着替えるが私はためらいの気持ちが抜けない、今回は見習いとはいえ役人としてやってきたのに・・・、粗末な着物は素直には受け入れがたかった。
着替えが終わり、外に出ると優しい人は父と話していた。優しい人は頭に簪と櫛を挿していた。父と嬉しそうに話し、頬を染める優しい人は少女のようだった。優しい人は私に気づくとすぐに朝食の用意をしに炊事場へ向かった。出されたのは魚、そして芋だった。祖父がいない、父から、
「父上はどっかに遊びに行ってしまった。私とお前で検地と人別改をしよう」
と言われた。父と私はさっさと食事を済ませ、仕事にとりかかった。検地の結果は全く同じだった。人別改では驚いたことに六年前に仲良くなった弥七が世帯主になり、父親になっていた。女っけの全くない私は磯で遊んだ少年がさっさと大人になってしまったことに寂しさを感じた。十七歳は結婚する十分な年齢であることは分かっている、私が幼稚なのも知っている。でも、世帯主という響きは私を惑わせた。同じく六年前に仲良くなった八兵衛は村に残っていなかった。大坂に出て荷を運ぶ弁才船に乗り込んでいるとのことだった。私の知っていた少年たちは世帯主になったり、生家を出て新しい道を歩んでいた。
その後、祖父と合流して連れていかれたのは海岸から少し離れた茂みだった。押し倒された草、なにものかが通ったことを物語っていた。
「この雷山山系には私の知らぬなにものかが住んでいる。雷様が認めたものだ。そのものは弱いものかもしれない。強いものかもしれない。真固戸村の人はここに供え物をしている。魚とか野菜とかだ。それはいつの間にかなくなっている。お前は宮本家を継ぐもの、この山々になにものかがいることを知っておけ。ただし、このことは他言するな。雷様を恐れよ」
いつも穏やかな父の真顔が怖かった。祖父も険しい顔をしている。
「明らかにするとどうなるのでしょう?」
私は怯えながらも問うた。
「宮本家だけならまだしも、真固戸村、さらには山田藩にも禍が降りかかる」
祖父の重い言葉だった。真固度村に来るまで何度か見張られていると感じたその視線の正体のことだろうか。私は重く受け止め、父の言ったことを守ると約束した。
その後、祖父は仲のいい家に向かっていった。先ほどの厳めしい雰囲気はなく、出迎える優しい女性たちに鼻の下を伸ばしていた。父は神職の白衣・白袴に着替え、五里先にある火山島に向かって一人舟を漕ぎだした。火山島への感謝の祈祷のためだ。火山島は山田藩中にある温泉を生み、住人に恵んでくださっていると信じられていた。その火山島からはモクモクと噴煙が上がっている。あんな恐ろしいところに行くなんて、やっぱり父は変だ。父は普段穏やかだが一度決めると止められない、止めても無駄だった。父を見送った私は久しぶりに蟹や宿借と戯れたくなって岩場に行った。透明な海、私の影が動くと一斉に生き物が移動した。岩海苔を集めるのは子どもの役目なのだろう。私の姿に気づくとみんな寄ってきた。私の持ってきた飴がすごくおいしかったと口を揃える。平次や太助は麦や粟などの穀物や生活必需品の運搬で精一杯だからお菓子は珍しいのだろう。
「岩海苔集めをしているんですね。大変ですね」
「お母さんが喜んでくれるから」
みんな親孝行者だ、母のない私には真似できない。
「今、おばあちゃんに竹細工の工芸品の作り方を習っているんですよ」
この村の笊はきめ細かくて丁寧に作ってある。江戸と大坂の真固度村出身が経営している店で売っている。この村の子どもは学問はないがどこに行っても雇ってもらえる技術を身につけようと幼いころから日々励んでいるのだろう。
「宮本様、この歌、知っていますか」
十二歳くらいの賢そうな子が歌い始めるとみんな歌い始めた。
思いを遂げるには 時がかかる
一つ 攻めてはなりません
二つ まだまだ早いでしょう
三つ もう少し待ちましょう
四つで やっと添い遂げる
私はなんのことやら分からなかった。この村にはいろんな習わしがあるんだろう。寺子屋も書物もない村だが、顔つきや佇まいにどこか知的なものを感じる。なんだろう、この安心感は。とびぬけて顔が違うものがいない、背が高いもの、低いもの、鼻が低いもの、口が大きいもの、足が短いもの、・・・、はっきりわかるような違いがない、なんか似ているんだ、ここの人たちは。
夕食後、弥七と温泉に入った。弥七は赤ん坊を連れてきた。弥七は同い年とは思えないほど大人びていた。今は塩、炭の他に山道の手入れを仕事にしていると言う。先月はひどい土砂降りで山道が塞がれてしまい土砂を運び出す作業に追われた、一昨年は落石があって道が通れなくなったため大変だった、と話す。山道に何かあると真固度村の男衆は補修に向かう。その間、塩や炭の仕事は女衆が駆り出される。この村は貧しいながら個々がよく稼ぐため何とか維持できている。お互いの話をしているうちに赤ん坊が泣きだしたので弥七は先に上がっていった。別れを告げ振り返ると、長老たちが私を見つめていた。私と話がしたくて集まってきたのか?
「恒一郎様を見ていると昔の孝一郎様を思い出してのう」
「享保の飢饉で騒いでおるときに甘藷を持ってきてくださった」
「芋の育て方を教えてくださった。畑を起こすのも手伝ってくださった。江戸で流行りの工芸品を持ってきてこの村でも作れるようにしてくださった」
「宮本様は村を出ていく子どもたちの面倒をよう見てくれる」
次々と感謝を述べられると気恥ずかしかったが、曾祖父・宮本孝一郎のことを言われるのは誇らしかった。私は曾祖父と顔つきが似ているから私の顔を見ると昔のことを思い出すのだろう。次々と話す長老たちは嬉しげだ。話の切りのいいところで私は暇を告げた。帰りしなに聞こえた。
「おぉ、立派じゃわい」
私は海岸にいた。どこか懐かしい風景、この村と宮本のつながり、なんとなく重いものを感じた。前回は新しい発見だけで終わったが、今回は次から次へと過去や事実を語られた。受け止めきれないのか、自分の容量が少ないのだろうか。あー、困った、空を見上げると星が降ってきそうだ。明日はもう帰るのか・・・。後ろから砂を踏みしめる音が聞こえる。
「宮本様、お加減はいかがですか」
「私たちと話しませんか」
「少しだけですがお酒とつまみを用意しました」
振り向くと父の贈った簪を挿した三人の女性がいた。小心者の私は断る術を知らず、そのまま三人に連れていかれた。五十段ほど石段を上っただろうか、連れていかれたのは山の奥の観音堂だった。この観音堂は台風の避難所として利用すると優しい人が言っていたな。
月明かりが健全な女性を妖しく美しくさせた。愛しき女性たちは美しい声で歌った。
思いを遂げるには 時がかかる
一つ 攻めてはなりません
二つ まだまだ早いでしょう
三つ もう少し待ちましょう
四つで やっと添い遂げる
甘く切ない歌声の中、初めてのお酒、ちょっとで酔いが回った。心地よい、体が熱くなる。私の手を一人の女性が握りしめた。私の背中は暖かくて柔らかいものを感じた。あぁ、私はとっさに振り払おうとした。しかし、私を囲む女性の柔らかい体に私は吸い込まれていく。逃れられない。柔らかく暖かい汗ばんだ肉体が私を蕩かせた。この世の素晴らしいものに囲まれ、私は誘導されるがまま、本能に従った。
どれくらい時が経ったのだろう。気づくと三人の女性はいなくなっていた。観音堂に一人残された私は慌てて着物を着ると一目散に石段を駆け下りた。なんてことしちまったんだろう。あぁ、どうなってんだ? 女性たちは?
気づかれぬよう私は寝床に戻った。優しい人はいなかった、ホッとした。しかし、私はなんてことをしたんだろう。あの女性たちは今頃どうしているんだろう? とても眠れなかった。私は海岸に出た。女性たちと観音堂に出かけた時、青白く光っていた月はなかった。もう夜明けが近いのだろう。私はとんでもないことをしでかしちゃったのか? あぁ、星は無情にもキラキラ輝いている。波はザザーン、ザザーンと繰り返すばかり。砂浜に寝転んだ。こんなに夜空は広いのに、私はなにをやっちゃったんだろう・・・。とはいえ、あの柔らかい胸、すらりと伸びた指、甘美な口づけ・・・。自分の大失態と甘美の両方に一人砂浜で悶えた。
早朝、別れの時、私は周囲を見渡したが昨夜の三人の女性はいなかった。優しい人が私を見ている、視線を感じる。あぁ、目がパンパンに張れている、恥ずかしい、顔を上げられない。優しい人が私に語りかける。
「恒一郎様、旅の御無事を祈っております」
もじもじしていると、
「恒一郎、挨拶をせんか」
祖父の言葉が痛い。
「ありがとうございました」
深々と頭を下げた。周りの大人は笑っていた。半べそをかきながら帰路に就いた。
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