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第百九話 ――と見せかけて最終話 舞台裏では……
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満天の星空、とてつもなく大きくて赤い月が平原を照らしている。要塞都市ヴァルゴルディアの東門からだいぶ離れた場所で野営するローゼがいた。ヴァルゴルディアに到着しはしたもののすでに27日。その時もう深夜前で、城門が閉まっていたから入れなかったのだ。
城門前で待たせてもらおうとしたローゼであったが、門番に追い立てられて、平原のど真ん中で放置プレイ。邪霊獣の唸り声にビクビクしながら一夜を過ごした。ちなみに大の字で「ぴーすか」と寝るエミリアもいた。
※※※
彼は誰時から城門前に並ぶ女剣士。もちろんローゼリッタ・クラインワルツその人である。めっちゃ迷惑そうな門番が嫌な顔して見ているのもお構いなしに。
朝一番で都市の中に入ったローゼは、辺りを見渡して愕然とした。もうほとんどの露店は畳まれて、ゴミが風に流される大通り。ローゼは馬を返してから、まだテントを張ったままの店に行っては剣を探すが、あっても売ってくれない。出店可能期間が過ぎているから、今売ったら違法売買で捕まってしまう(ローゼも)。
「そんなぁ~」と脱力声を漏らして、道にへたり込むローゼ。放心状態。しばらくしてからようやく立ち上がりトボトボと歩き出した。
「――とりあえず、依頼主のヨーゼフさんのところにいきましょう」とエミリアに声をかける。
「通商手形ないのにですか?」
「報告にね――それに、取り返せなかったんじゃなくて、なかったんだから――」と言ってハッと気づいた。
「“なかった”ということで、とりあえず依頼は完遂しているのでは?」
「ああ、確かに……。でも屁理屈です」
「良いの! 強引に残りの代金ふんだくってウェールネス旅行して帰りましょう」
「わーい、やったぁー」とエミリア大はしゃぎ。
その頃、テントの店を畳んで荷物をまとめるヨーゼフと中年男。ここまで来てもやっぱり名無し。
虫の知らせか、第一感か、中年男がふと呟いた。
「長老、あの女剣士と空手家、戻ってきませんでしたね」
「うむ、そうじゃなぁ。戻ってきたら、『ごめんね、通商手形、換えのパンツを入れた袋の中にあったよ』って謝ろうと思っておったんじゃがなぁ」
ヨーゼフは、手のひらよりやや大きい国の紋章が入った素晴らしい象嵌が施された銅板と、青く染めあげられた牛革で装丁された薄い書類を手にして、見つめながら言った。
「せっかく長老が良い魔法剣手に入れてお詫びにプレゼントしようと待っていたのに失礼な奴ですよ、まったく」
「お前がパンツと一緒にしたせいなのに、逆ギレひどくない?」
「でもその魔法剣、ウインドブレス(そよ風から切り裂くほどの風までを作り出す魔法)が使えるんでしょ? どっかに行けば結構な値段で売れますよ」
「そうだよね。だからわしも用意はしたもののあげる気なくて、もう馬車に積んじゃったもん」
そして続けて長老が訊いた。
「あの子ら、手形は持ってこないけれど、この場合どうなんじゃろう? 残金払わないといけないんじゃろか」
「あの赤毛のことだから、倍額請求してくるかも」
「うん、もう荷物まとめ終わったから、待たなくて良いよね。速攻で出発しよう」
とヨーゼフが通商手形を中年男のパンツを入れる袋に戻したところに、ちょうどローゼたちがやって来た。
「チッ」と舌打ちをする中年男。
「あ、やば、戻ってきたの? あの子たち」
そう言って慌てふためくヨーゼフじーさん。
「長老、平静を装って。平静を」
「うむ、上手くやり過ごそうな」
こうして今最後の戦いが人知れず始まるのだった。
続く。
城門前で待たせてもらおうとしたローゼであったが、門番に追い立てられて、平原のど真ん中で放置プレイ。邪霊獣の唸り声にビクビクしながら一夜を過ごした。ちなみに大の字で「ぴーすか」と寝るエミリアもいた。
※※※
彼は誰時から城門前に並ぶ女剣士。もちろんローゼリッタ・クラインワルツその人である。めっちゃ迷惑そうな門番が嫌な顔して見ているのもお構いなしに。
朝一番で都市の中に入ったローゼは、辺りを見渡して愕然とした。もうほとんどの露店は畳まれて、ゴミが風に流される大通り。ローゼは馬を返してから、まだテントを張ったままの店に行っては剣を探すが、あっても売ってくれない。出店可能期間が過ぎているから、今売ったら違法売買で捕まってしまう(ローゼも)。
「そんなぁ~」と脱力声を漏らして、道にへたり込むローゼ。放心状態。しばらくしてからようやく立ち上がりトボトボと歩き出した。
「――とりあえず、依頼主のヨーゼフさんのところにいきましょう」とエミリアに声をかける。
「通商手形ないのにですか?」
「報告にね――それに、取り返せなかったんじゃなくて、なかったんだから――」と言ってハッと気づいた。
「“なかった”ということで、とりあえず依頼は完遂しているのでは?」
「ああ、確かに……。でも屁理屈です」
「良いの! 強引に残りの代金ふんだくってウェールネス旅行して帰りましょう」
「わーい、やったぁー」とエミリア大はしゃぎ。
その頃、テントの店を畳んで荷物をまとめるヨーゼフと中年男。ここまで来てもやっぱり名無し。
虫の知らせか、第一感か、中年男がふと呟いた。
「長老、あの女剣士と空手家、戻ってきませんでしたね」
「うむ、そうじゃなぁ。戻ってきたら、『ごめんね、通商手形、換えのパンツを入れた袋の中にあったよ』って謝ろうと思っておったんじゃがなぁ」
ヨーゼフは、手のひらよりやや大きい国の紋章が入った素晴らしい象嵌が施された銅板と、青く染めあげられた牛革で装丁された薄い書類を手にして、見つめながら言った。
「せっかく長老が良い魔法剣手に入れてお詫びにプレゼントしようと待っていたのに失礼な奴ですよ、まったく」
「お前がパンツと一緒にしたせいなのに、逆ギレひどくない?」
「でもその魔法剣、ウインドブレス(そよ風から切り裂くほどの風までを作り出す魔法)が使えるんでしょ? どっかに行けば結構な値段で売れますよ」
「そうだよね。だからわしも用意はしたもののあげる気なくて、もう馬車に積んじゃったもん」
そして続けて長老が訊いた。
「あの子ら、手形は持ってこないけれど、この場合どうなんじゃろう? 残金払わないといけないんじゃろか」
「あの赤毛のことだから、倍額請求してくるかも」
「うん、もう荷物まとめ終わったから、待たなくて良いよね。速攻で出発しよう」
とヨーゼフが通商手形を中年男のパンツを入れる袋に戻したところに、ちょうどローゼたちがやって来た。
「チッ」と舌打ちをする中年男。
「あ、やば、戻ってきたの? あの子たち」
そう言って慌てふためくヨーゼフじーさん。
「長老、平静を装って。平静を」
「うむ、上手くやり過ごそうな」
こうして今最後の戦いが人知れず始まるのだった。
続く。
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