DEVIL FANGS

緒方宗谷

文字の大きさ
上 下
90 / 113

第九十話 己に打ち勝つ者が栄光を手に入れる

しおりを挟む
 第七幕 小判を盗んで貧乏人に配った義賊を捕えた伝説の捕縛劇

 聞く耳を持たない佐間之介は、ゴザの上のポールウエポンを取り上げてズイッと構える。
 「なに? 今度は――」とローゼ。
 二股の槍? 今度こそ武器らしいのが出てきたぞ。
 ローゼ「ちょっと、待ちなさいよ! あれ本物じゃないじゃん! 何でポリスで見つかるのよ。ジパングの伝説でしょ⁉」と訴える。
 「昔から、だいぶ多くの宝物が海外に流出しておる。あれもこれもその一つ――なはずだ」
 「“はずだ”っていい加減な!」
 言い終わって間もなくローゼ突き刺されて「ぎゃー」。「あれ?」でも刺さってなーい。
 見ると、なんか二本の槍がローゼの腰を挟む形で、背後の樹木に刺さっている。
 胸を撫で下ろすローゼを見やって、佐間之介が言った。
 「刺されると思ったのか? これは“さすまた”といって、二本の棒の間に目標を挟んで捕えるための捕縛用の武器だ」
 「これ……ピッチフォークじゃないの?」
よく見ると、真中の数本が折れているだけ。しかも『ププリオ・ズッコーニ』? 汚い字で名前書いてあんじゃん。
 「いるよな。歴史的遺物に落書きするやつ」
 佐間之介が眉間にしわを寄せて、困った顔して一言愚痴る。
 「現実見よう?」と呆れるローゼが、これにまつわる伝説を話すように促す。
 佐間之介の話を聞いて、まずエミリアが口を開いた。
 「やっぱ、この家の子可愛いから、“この子んちだけ小判二枚”とかやってたんですかね?」
 「当然よ。こいつムカつくからあーげない、とか」
 「もしかして、持ち帰る途中にこぼしたんじゃないですか?」
 「ばっかねー」
 「あははははー」(ローゼ&エミリア)
 笑う二人に、佐間之介が怒鳴り散らす。
 「義賊はそんなことせんの。代官や越後屋から盗んだ小判を分け隔てなく貧しい庶民に配ったの!」
 「でも――」とエミリアが疑問を露わにして真っ向反駁「小判の音を響かせていたら、どこにいるか分かっちゃんじゃないですか?」
 「確かに」とローゼ納得「あいつんちあっちの方だぞ、ってなるわよね」
 佐間之介が「ならないの!」と全否定。
 「なんで?」とローゼ。
 「ならないものはならないの」
 「絶対噂になるわよ」と、エミリアに向かって「ねー?」とするローゼ。
 もわもわもわーんと想像を膨らます。
 ちゃりちゃりちゃり~ん、ちゃりちゃりちゃり~ん、と小判が落ちる音が近づいて来る。もうすぐ我が家だと期待するする住人、布団の中でソワソワ寝返り。そこに玄関前に響く小判の音色。「やったー」と跳ね起き玄関に向かうその時、すじゃぁっ、と外で何やら音がする。何かが落ちた音? 戸を開けると、ほっかむりをした男が家に入っていくところ。
 「もう次の日すごいのなんの。犯人の家あそこだよ、って噂で持ちきり」とローゼが笑う。
 その日の晩なんて、その泥棒小僧が出勤するとこ見ようと人だかり。追っかけまで出る始末。被害者になる代官の屋敷目掛けて民族大移動。
 「そりゃ、捕まるわ」と続けるローゼに釣られてエミリアも「あっはっはっ」。
 「それより想像のジパング人、なんかみんなハゲているわね。なんでかしら」とローゼが訊いた。
 「ハゲではない、剃っておるのだ。昔はみんな髷を結っていたのだ」と佐間之介が答える。
 「何で佐間之介はしないの?」
 「ん? なんだ? そうだなー…あれだ。ほら、いつかその時が来たらだ」
 やりたくないんだな。この似非ざむらいめ。
 「バカ! 今の侍は剃ったりしていないのだ!」
 太古の侍に憧れているのでは?
 「うるさい‼」と話しを門前払う佐間之介。
 「て言うか」と食い下がるローゼ。「あなた侍じゃないんじゃない?」
 いくら聞いても曖昧模糊とした返事しか返ってこない。
 あんまりローゼがしつこくするものだから、佐間之介は我慢が出来なくなって、口を塞いでやろう、と次の武器を繰り出す準備。


 第八幕 肉を斬らずに心を斬る

 「出でよ、人面剣」
 しゅしゃーん!
 ローゼとエミリア言葉も出ない。それもそのはず、なんとも面妖な刀が出てきた。握りから刀身五十センチくらいまでは普通のサムライブレードなのだが、その先になんか顔ついてる。ハゲちらかしていて、海苔みたいな眉毛、妙に長い三本まつ毛で横に長い楕円のお目目は黒目がやけに小さい。たらこ唇で御ちょこ口。薄らと半開き。頬の骨が妙にごつくてアゴが二つに割れている。ひげで青くなっていてよさそうなものだが、何故かツルツルリン。
 「何これ?」とローゼ。
 「伝説の霊刀『人面剣』だ」と自慢する佐間之介が、既に勝ち誇ったように破顔した。
 すると、エミリア「霊刀って言うより妖刀ですね」
 「刀なのか剣なのかはっきりしないわね」
 無動揺な二人に、佐間之介が言った。
 「そのようないかがわしいものではない。これは斬られた者をアストラルサイドからダメージを与え、精神崩壊させる恐ろしい刀なのだ」
 またですか?
 ローゼつっこむ。
 「持ってるあんたが崩壊済みでは?」
 「拙者はまともだ」
 「剣自身が崩壊してんじゃ?」
 「この顔は、さる――あの――大学の、研究でも、その、なんだ? 精神学的に相手を不安定にさせるとかなんとか言われてる――らしいのだ」
 超シドロモドロ。不安定なのお前だろ!
 「嘘つくな」ローゼしらけ顔。
 「なんかー安易ですね?」とエミリア。
 「ほんとそうよね」
 「緒方さんが知らないだけで、絶対他でやってますよ、こんなネタ」
 「百人目とか千人目とかいってんじゃないの?」
 「緒方さんもう子供じゃないのに、小学生が休み時間に描きそうな絵描いて面白がってるなんて、人には見せられませんね」
 「まあ、わたしたちもその人に書かれた(描かれた)くちなんだけどね」
 ……。しばらく黙する三人でした。


しおりを挟む

処理中です...