DEVIL FANGS

緒方宗谷

文字の大きさ
上 下
86 / 113

第八十六話 ローゼ エミリア 友情列伝

しおりを挟む
 「ちょっと待っておれ」と言った佐間之介が、戦いを中断して木陰に向かった。
 ローゼたちがついて行ってみると、隠してあったす巻きのゴザを広げて何やら物色している。覗き込んでみると、そこにはたくさんの武器があった。


 第2幕 メドゥーサを退治した鏡

 「ならば、これはどうだ」と取り出したるは、抱えるほどの丸い大鏡。
 「なになに?」とローゼとエミリアが覗き込む。でも変哲もない鏡。
 「これはな――」とまたまた自慢げに語り出す佐間之介。
 「――メデューサを退治した伝説の鏡だ」
 ローゼが眉をしかめた。
 「メデューサって、あの髪の毛がヘビで見る者を石に変える悪魔のこと?」と訊く。
 「でも、メデューサって言っても,どのメデューサですか? 退治された話は結構ありますけど……」とエミリアも訝しげ。
 それもそのはず。鏡のサイズがデカすぎる。大抵のメデューサは自分の姿を鏡で見て退治されているのだが、すぐ引っかかってくれたのは初めの内だけ。当然そのうち警戒するようになって、退治に失敗した例わんさかある。彼女らだってバカじゃないから、あからさまに鏡を持っていてもうまく見てくれるわけがない。
 だが佐間之介は、とても自信たっぷりな様子で言った。
 「そう疑うのも無理はないが、これは違うのだ」とニヤリとして、続けて、
 「これは、映った者をアストラルサイドから蝕んでいく鏡で、見なくても効果がある」
 「へー」と言う二人、全く信じず鏡をガン見。
 エミリアが言った。
 「縁は豪華に彩られてますけど、安そうな鏡ですね」
 「まあ、貴族様のエミリアから見れば、そう見えるかもね」
 庶民のローゼから見れば、上半身が全部映る大鏡なんて高価すぎて手が出ない。大抵みんなは鉄か銅を磨いた鏡を使っている。
 言い終わった後のローゼが「ん?」と一言。何かに気がつく。一瞬、映る自分が本人と違う動きをしたように感じた。そう言えば、鏡の二人の立ち位置が逆。よく見ていると、同じポーズで目を細めたマッタリした笑顔で、鏡のローゼが喋り出す。
 「なんかさー、エミリアってマジ胸のことで悩んでる感じー? わたし、胸は大きさじゃないわよって言ってあげたけど、実際ある程度までは大きさよね。だって、あるとないとじゃ、男子の注目雲泥の差だもん」
 「なっなっ何言ってんの⁉」と本物のローゼが慌てふためく。
 今度は鏡のエミリアが喋り出した。
 「ローゼさんてキャラ立ってないよね。濃いキャラに囲まれて埋没してる。わたしがいなかったら、だいぶ前に冒険THE ENDじゃないかしら」
 「わっわっわっ! 本心言わないで」本物のエミリア顔真っ赤。
 本心なのかよ。わたしもだけど。
 鏡のローゼまだまだ続ける。
 「霊力強いからって良い気になり過ぎ。自分のこと強いって思っているみたいだけれど、霊力だけじゃん。空手家としては三流じゃないの? 接近戦でわたしを仕留められないのが確たる証拠。もしわたしが本気で格闘術ならってファイター目指していたら、わたしの方が強かったんじゃないかしら?」
 鏡のエミリアが話を継ぐ。
 「実際、霊力使えないの致命的だよね。天界や魔界の敵どころか、法術使いが出てきたらアウトじゃん? こないだだって、ファイヤーだけでまる焦げになってやんの。格下相手に情けないでやんのー。
  いくら剣技が得意だからって、霊力使えなきゃ雑魚キャラなのは変われないよ。その証拠、素手のわたしを殺せてないので証明してる」
 繰り返される罵詈雑言。疑心暗鬼に苛まれる本人たち。眉間に深いしわを寄せて、鼻先が吊り上る。目は点になって口はビーバー風で変な顔。もうお互い信じられない。終いには鏡の二人が同時に喋り出す。
 (鏡ローゼ)「そういえば、わたしが胸が大きくなるよって教えてあげた超苦い野草信じて食べてるみたいだけれど、わたし食べたことないんだよねー。ちなみにあれ食べると――」
 (鏡エミリア)「わたしがいつもローゼさんの食事にいたずらしてるの絶対ないしょ。少量だから気がつかないけど、魔導ショップで大金叩いてこっそり買った薬草だから、効果の発現が楽しみだわ。説明書によるともうとんでもなく――」
 「「「ああー‼‼‼」」」と二人が大絶叫、レイピア&正拳が交差して炸裂。裏板ごと割り砕く。
 「危なかったわ」とローゼ。「やりましたね」と呟くエミリア。力合わせて共同作業。お互い微笑みあった。
 「お前ら仲間じゃないのか?」と震える佐間之介。二人は、お互いにつっこまれたくないから、相手をつっこめない。そのまま流す方向で無言承諾。仲間意識の高さ今が一番最高潮。


 第三幕 心の湿気りも渇くほど清々しい気持ちになれる剣

 「これならどうだ」と佐間之介。構えたるは、何か“L”字型の突起が幾つもあるただの棒。
 びっくりもせずに、なにこれ? と言ったふうの思考停止状態に見える二人の様子に、佐間之介が言った。
 「なぬ? お主らトツカの剣を知らぬのか?」
 「しらなーい」とローゼ。
 「それただの木の棒ですよね」エミリア全く興味なし。
 「それ、もう一本あったんじゃない?」と言って、ゴザの上を覗き込むローゼ。思った通りもう一本ある。
 「よく分かったな。これはかの有名な二刀流の剣士が使っていたと言われる。伝説の剣なのだ」
 佐間之介が言い終わるのを待ってローゼが言った。
 「物干し竿は無いのかしら?」
 「おお」と声色の変わる佐間之介。「物干し竿をを知っておるのか。二刀流の剣士に破れた大太刀の剣士が使っていた霊剣」
 いや、普通の物干しざおなんだけど。干すやつね。
 「残念ながら、まだ手に入っておらぬ。幾多の物干し竿(大太刀)を見てきたが、どれも伝説の物とは違っておってな」
 想像の中の佐間之介、それなりの大太刀を吟味している。見たところすっげー目利き。
 「それで持っているのは竿を掛ける柱なの?」ローゼ疑問悶々。
 どういう目をしているのだろう。『同じものを見ていても、見えている物は人それぞれ違う』と言う……。ローゼはその言葉を思い出した。



しおりを挟む

処理中です...