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第八十四話 新たな旅立ち
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「ねえ」とローゼが言った。
「前回、最終回っぽく話してたけど、まだ牙数人残ってるよね」
「そうでしたね」とエミリア。「でもあれですね、ローゼさんの変態、爆発しませんでしたね」と続けた。
変態じゃねーよ。
ここは樹海の外の寂れた村。簡単なお惣菜を提供するだけの料理屋、近所の人がお昼を食べに来るだけの店。これといってやることもない。
ローゼがぼやく。
「結局星屑の剣は貰えずじまいだったし、なんかとても疲れる不毛の戦いだったわねー」
ローゼは頭の後ろで腕を交差させて、椅子の前足を持ち上げて揺らした。
そこに歩み寄ってくる男の気配に気がついて、ローゼが椅子を戻して、警戒心むき出しの視線を浴びせる。
「いや」とビビる先頭の男。「別に怪しいものじゃないんだ」と言うけれど、数人の剣士を連れ立っている。人相は悪いとは言えないけれど、いいとも言えない。町にいるスワッシュバックラー(ならず者)ほどじゃないが、それほど真面目にも見えない。
灰色の胸甲冑を着た先頭の男が話を始める。
「あんた、そこそこの剣士のようだな。立ち振る舞いも素人じゃなさそうだ」
見る目はあるようだ、とローゼは思った。気をよくして用件を聞く。
「実はな、ここ最近この近くで武器を狩る野郎が出やがるんだ」
聞くと、多くの旅人が被害にあっているらしい。多分に漏れず、この男たちも武器を狩られたようだ。見ると鎧姿なのに、確かに剣も槍も持ってはいない。
男たちと一緒にいた老いた村人が歩み出てきて言う。
「どうか、野盗を退治してくだされ」
ローゼ「いやよ」と瞬時に断る。「どうしてわたしたちが?」
「そうですよ」とエミリア「わたしたち自治都市トラントに行くんですもん。野盗の一人くらい、この人たち(剣士)でまとめてかかれば良いじゃないですか」
「いや、それもしたのじゃよ。旅人や武器を持った者だけが襲われるならまだしも、村人もよう襲われるでな」
灰色の胸甲冑の男が引き継ぐ。
「ああ、俺たちはもともと別々にやられて、ここで足止めくらっていたんだ。前はもっと人数がいてな。この村長さんが村に残っていた武器を集めて、みんなで倒してくれって頼んできたんだ。
足りない分は農具(フレイルやビルのもとになった道具)を利用して、野盗退治に向かったんだが、見事に返り討ち――」
数えると旅人は全員で五人しかいない。
ローゼは「もしかして、みんな殺されたの?」と訊く。
「いや、みんな這う這うの体で逃げていった」
後ろにいた赤い鎧の戦士が続ける。
「俺が持っていた鋼のバトルアックスでさえ歯が立たないほどの伝説の武器を持っているんだ」
「伝説の武器?」
ローゼが反応する。だが平静を装って少し考えた。
(こんな寂れた村では依頼料は期待できないわね。旅人もめぼしいものは持ってはいなさそうだし。お金にはなりそうもないけれど、でも倒せば伝説の武器が手に入るかも)
ポーカーフェイスでローゼが先頭の男に訊く。
「どんな武器なの?」
「ああ、如何なる速き者も捕えるムチに、何人も目で追えない高速の剣、一瞬で動きを封じる槍、どれだけ遠くにいようとも必ず命中させるほどの弓矢――」
想像すると無双の戦士を彷彿とさせる。しかも持っている武器はそれだけじゃないらしい。
「俺の力のなさを鏡に映されて見せつけられたかと思うほど、力差があった」と別の剣士が悔しさをにじませながら言う。
「実は――」と、灰色の胸甲冑の男が続ける。
「みんな戦わずして敗れたのだ」
「戦わずにして?」とローゼたちがびっくりして訊き返した。
数多の武器を操るウエポンマスター――――。エミリアがカバンの中から取り出した悪魔牙団の名簿の一枚を見る。斬らずして敵を斬る男。
旅人たちの話では、背の高い男で長髪ポニーテールの青い髪らしい。名簿に書かれた真野佐間之介・ジパング人・侍、にも符合する。
「じゃあ、こうしましょう」とローゼが提案。「戦ってあげるけど、これ……」と言って人差し指と親指で円を描いて見せる。
「おお、やってくださるか」と喜ぶ村長。
「違うよ、OKの意味じゃないよ。これよ、これっ」
「なんと、ただでしてくださる、と?」
「冗談よしてよ。これだって」
「牛の鼻輪じゃな」
きたねーな。人の指に何しくさってんだよ。
「こーれっ」ローゼが語気を強めた。
目を凝らした長老「鼻毛?」と首を傾げる。
摘まんでねーよ。てたとしてもお前のだよ。
「あー、分かるぞわしも。鼻毛抜くと涙出るんじゃ」
抜いてねーよ。お前の鼻毛だよ。
そう言って、村長の服で鼻水まみれの鼻くそ鼻毛を拭き取るローゼ。「だ・か・ら・こっれっ」と繰り返す。
「上」
視力検査じゃね-よ、確かに“C”を上むけたように見えるけれども。
村長「後はじゃなぁ、後はじゃなぁ――」と続けようとする。
却下
「まだ言っておらんのにー」と村長いじけ気味。
「じゃあいいよ」とローゼが言うと、村長の表情ぱあっと明るくなる。
「でも、“南無~”意外ね」とローゼが規制線を張った
村長がっくし。
ぽくぽくぽくち~ん、と音が鳴るくらいの間があって、なぜかローゼとエミリアにゾワゾワとさぶいぼが走ってから、村長仕方がないので本題に戻る。
「すまん、見て分かる通り小さな村でな、依頼料を払えるほど豊かではないんじゃ」
そう返されるのは承知済み。ローゼは「じゃあ――」と引き継いだ。
「宿代は肩代わりしてよ。あとご飯代もね」
「まあ、そのくらいなら」と村長が承諾する。
「それと――」まだ続けるローゼ「あんたたちもついてきてくれるわよね」
そう言われた剣士たちが顔色を変えて拒絶する。
先頭の胸甲冑の男が慌てて言った。
「冗談よしてくれ。武器もないのに行けるわけないだろう。仮にあったとしても大金渡されたって行くもんか」
「なら、何でこの村に留まっているのよ」とローゼが訊く。
男たちが無言で顔を見合わせる。躊躇しながらも赤い鎧の男が、知らない様子のローゼに教えてくれた。
「実は、この森のどこかに、不老不死を叶えるための秘宝が眠っていると言われるほこらがあるらしいのだ」
先頭の男が引き継いで言った。
「まあ、実際は帰る路銀もなくて、お前たちみたいな剣士を待っていただけなんだがな」
情けねーな。
まあ何はともあれ、相当の手練れのようだ。ローゼたちは気合を入れて、野盗が出る森へと入って行った。
「前回、最終回っぽく話してたけど、まだ牙数人残ってるよね」
「そうでしたね」とエミリア。「でもあれですね、ローゼさんの変態、爆発しませんでしたね」と続けた。
変態じゃねーよ。
ここは樹海の外の寂れた村。簡単なお惣菜を提供するだけの料理屋、近所の人がお昼を食べに来るだけの店。これといってやることもない。
ローゼがぼやく。
「結局星屑の剣は貰えずじまいだったし、なんかとても疲れる不毛の戦いだったわねー」
ローゼは頭の後ろで腕を交差させて、椅子の前足を持ち上げて揺らした。
そこに歩み寄ってくる男の気配に気がついて、ローゼが椅子を戻して、警戒心むき出しの視線を浴びせる。
「いや」とビビる先頭の男。「別に怪しいものじゃないんだ」と言うけれど、数人の剣士を連れ立っている。人相は悪いとは言えないけれど、いいとも言えない。町にいるスワッシュバックラー(ならず者)ほどじゃないが、それほど真面目にも見えない。
灰色の胸甲冑を着た先頭の男が話を始める。
「あんた、そこそこの剣士のようだな。立ち振る舞いも素人じゃなさそうだ」
見る目はあるようだ、とローゼは思った。気をよくして用件を聞く。
「実はな、ここ最近この近くで武器を狩る野郎が出やがるんだ」
聞くと、多くの旅人が被害にあっているらしい。多分に漏れず、この男たちも武器を狩られたようだ。見ると鎧姿なのに、確かに剣も槍も持ってはいない。
男たちと一緒にいた老いた村人が歩み出てきて言う。
「どうか、野盗を退治してくだされ」
ローゼ「いやよ」と瞬時に断る。「どうしてわたしたちが?」
「そうですよ」とエミリア「わたしたち自治都市トラントに行くんですもん。野盗の一人くらい、この人たち(剣士)でまとめてかかれば良いじゃないですか」
「いや、それもしたのじゃよ。旅人や武器を持った者だけが襲われるならまだしも、村人もよう襲われるでな」
灰色の胸甲冑の男が引き継ぐ。
「ああ、俺たちはもともと別々にやられて、ここで足止めくらっていたんだ。前はもっと人数がいてな。この村長さんが村に残っていた武器を集めて、みんなで倒してくれって頼んできたんだ。
足りない分は農具(フレイルやビルのもとになった道具)を利用して、野盗退治に向かったんだが、見事に返り討ち――」
数えると旅人は全員で五人しかいない。
ローゼは「もしかして、みんな殺されたの?」と訊く。
「いや、みんな這う這うの体で逃げていった」
後ろにいた赤い鎧の戦士が続ける。
「俺が持っていた鋼のバトルアックスでさえ歯が立たないほどの伝説の武器を持っているんだ」
「伝説の武器?」
ローゼが反応する。だが平静を装って少し考えた。
(こんな寂れた村では依頼料は期待できないわね。旅人もめぼしいものは持ってはいなさそうだし。お金にはなりそうもないけれど、でも倒せば伝説の武器が手に入るかも)
ポーカーフェイスでローゼが先頭の男に訊く。
「どんな武器なの?」
「ああ、如何なる速き者も捕えるムチに、何人も目で追えない高速の剣、一瞬で動きを封じる槍、どれだけ遠くにいようとも必ず命中させるほどの弓矢――」
想像すると無双の戦士を彷彿とさせる。しかも持っている武器はそれだけじゃないらしい。
「俺の力のなさを鏡に映されて見せつけられたかと思うほど、力差があった」と別の剣士が悔しさをにじませながら言う。
「実は――」と、灰色の胸甲冑の男が続ける。
「みんな戦わずして敗れたのだ」
「戦わずにして?」とローゼたちがびっくりして訊き返した。
数多の武器を操るウエポンマスター――――。エミリアがカバンの中から取り出した悪魔牙団の名簿の一枚を見る。斬らずして敵を斬る男。
旅人たちの話では、背の高い男で長髪ポニーテールの青い髪らしい。名簿に書かれた真野佐間之介・ジパング人・侍、にも符合する。
「じゃあ、こうしましょう」とローゼが提案。「戦ってあげるけど、これ……」と言って人差し指と親指で円を描いて見せる。
「おお、やってくださるか」と喜ぶ村長。
「違うよ、OKの意味じゃないよ。これよ、これっ」
「なんと、ただでしてくださる、と?」
「冗談よしてよ。これだって」
「牛の鼻輪じゃな」
きたねーな。人の指に何しくさってんだよ。
「こーれっ」ローゼが語気を強めた。
目を凝らした長老「鼻毛?」と首を傾げる。
摘まんでねーよ。てたとしてもお前のだよ。
「あー、分かるぞわしも。鼻毛抜くと涙出るんじゃ」
抜いてねーよ。お前の鼻毛だよ。
そう言って、村長の服で鼻水まみれの鼻くそ鼻毛を拭き取るローゼ。「だ・か・ら・こっれっ」と繰り返す。
「上」
視力検査じゃね-よ、確かに“C”を上むけたように見えるけれども。
村長「後はじゃなぁ、後はじゃなぁ――」と続けようとする。
却下
「まだ言っておらんのにー」と村長いじけ気味。
「じゃあいいよ」とローゼが言うと、村長の表情ぱあっと明るくなる。
「でも、“南無~”意外ね」とローゼが規制線を張った
村長がっくし。
ぽくぽくぽくち~ん、と音が鳴るくらいの間があって、なぜかローゼとエミリアにゾワゾワとさぶいぼが走ってから、村長仕方がないので本題に戻る。
「すまん、見て分かる通り小さな村でな、依頼料を払えるほど豊かではないんじゃ」
そう返されるのは承知済み。ローゼは「じゃあ――」と引き継いだ。
「宿代は肩代わりしてよ。あとご飯代もね」
「まあ、そのくらいなら」と村長が承諾する。
「それと――」まだ続けるローゼ「あんたたちもついてきてくれるわよね」
そう言われた剣士たちが顔色を変えて拒絶する。
先頭の胸甲冑の男が慌てて言った。
「冗談よしてくれ。武器もないのに行けるわけないだろう。仮にあったとしても大金渡されたって行くもんか」
「なら、何でこの村に留まっているのよ」とローゼが訊く。
男たちが無言で顔を見合わせる。躊躇しながらも赤い鎧の男が、知らない様子のローゼに教えてくれた。
「実は、この森のどこかに、不老不死を叶えるための秘宝が眠っていると言われるほこらがあるらしいのだ」
先頭の男が引き継いで言った。
「まあ、実際は帰る路銀もなくて、お前たちみたいな剣士を待っていただけなんだがな」
情けねーな。
まあ何はともあれ、相当の手練れのようだ。ローゼたちは気合を入れて、野盗が出る森へと入って行った。
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