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第七十九話 ローゼ、夢への挑戦
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五階は雰囲気が違う。竜殺紳士のプライベートルームだろうか。
「何これっ‼」
部屋に入った瞬間、壁に飾られた剣を見つけてローゼが叫んだ。駆け寄っていって、手に取ってみる。とても美しい剣だ。
「もしかして星屑の剣?――いえ、まさかね。本物がこんなところにあるはず――」と言ったところで、一緒にいたマッシモ君が口を挟んだ。
「この剣でブラックドラゴンを仕留めたんですよ」
「うそっ、これで?」
「確か、“星屑の剣”って竜殺し卿も言ってました。本物かどうか試してくるって言って、ブラックドラゴンを狩りに行ったんです」
本物のドラゴンスレイヤーは隕鉄製だと言われている。そのレプリカ(大半のドラゴンスレイヤーとドラゴンキラー)の多くにも隕鉄を練り込んだ鋼が使われている。星屑の剣も隕鉄そのものでできた霊剣の一種で、流星刀とか流星剣とか言われる武器の一つ。
伝説では、黒い巨大な竜の魔王を倒すために召喚して落した隕石から採取された隕鉄から作られた、とされる。
死してなお魔力を発する魔王の死骸と共に長らく放置されていた隕石から採取されたため、隕鉄自体が大量の魔力を帯びていている、と記述された本もあれば、魂魄を失った魔王の器(魔体)そのもの、と描かれた文献もある。なんにしろ、膨大な霊力、神力、魔力を湛えることのできる武器であることには間違いない。ドラゴンどころか、神や魔王でさえうち滅ぼせる。
ローゼは、初めて見る伝説の剣に見惚れ入っていた。見る角度や光の加減で明るい銀青に燐光するさまが、とても幻想的だ。深い濃紺の剣身は外側に向かって徐々に瑠璃色へと変化し、両刃の刃の部分は銀色に輝いている。ブレード全体に星屑をちりばめたような輪環状のオーロラのような斑紋が優にあり、その形象は、正に星屑の剣、と称されるに相応しい。
そして天の川のように煌めく金細工の施されたヒルトの中央には、ガス星雲を凝縮したような霊石が埋め込まれている。一般的なロングソードよりも少し長めで百十センチくらいだろうか。だいぶ重い。とても女のローゼが実戦で長時間振るえる代物ではない。
「うえ?」
と、突然ローゼは気の抜けたような声を発して、少しよろけた。
マッシモ君が言った。
「気を付けてください。これは、扱う者と斬られた者の霊気を吸うらしいですから」
伝説によると、輪環状の斑紋は屠られた神や悪魔の魂魄だと言われている。
「剣に認められないと命を失うって伝説は、ここからきているのね」とローゼは納得した。
霊剣や神・魔剣の類にはいくつか種類がある。霊力などを注ぎ込まれて鍛え上げられた剣(シルバーグレード、レイピアなど)、魔術などを封じ込められた剣(火の剣や雷の剣など)、神や悪魔を封じ込めた剣(雷神の剣、ヴァフュメトウスなど)、だ。この剣は、三種類どれにも当てはまる特殊な剣のようだ。
ローゼは、自信の満ちる声で言った。
「遠い昔の降魔戦争か降臨戦争で失われたって授業で習ったから、もし本物ならとんでもない大発見ね。ドラゴンスレイヤーどころの話じゃないわよ。
少なくとも、ブラックドラゴンを倒せるほどの剣なら、アイツに勝てるかもしれないわ」
「だめでも、着ているツノは破壊できますね」
「うん、ドラゴンを倒した時にそれは実証済みだしね」
――しばらく二人は黙っていたが、ローゼは「よし」と意を決した。ごくりと唾を飲む。
「逃げましょう」
「へ?」と呆気にとられるマッシモ君が訊く。「竜殺し卿とお連れさんはどうするんですか?」
「良いのよ、あんなのどうでも。わたしたちの会話振り返ってみて。誰がどう見ても、正統派本格ファンタジーを地で行ってない? 普通の美少女剣士と普通の町人の会話よ。わたし、こういうのがやりたかったの」
「自分で言いますか?(美少女って)」
ローゼは意に介さずに満面の笑みで、「さあ行きましょ」と裏の窓を目指した。
「そうくると思っていたわ」
突如響く女の声に、ローゼが叫ぶ。
「エミリア! 何故ここに?」
「どうせ、ローゼさんのことだから、とてつもなく珍しい伝説の剣を見つけて、わたしが竜殺紳士と闘っている間に、その剣を盗んでトンズラここうと思っていたんでしょう?」
「うう、なんて感してんの、エミリアのヤツ」
「さあ、その剣を渡しなさい。わたしが叩き折ってやるから」
ちょいちょい、と指を動かして、エミリアが言う。
仕方がない。ローゼは、ちょっと重くて扱いにくいけれど、星屑の剣をフォムターグに構える。
「せいやー」とエミリアが襲ってきた。
「うわっ」と叫んでローゼが迎え撃つ。
二人を包むドーム状の光の壁が、火花と烈風をまき散らした。白と瑠璃色の霊波がせめぎ合って閃光を放つ。
「きゃっ」とエミリアが叫んだ。
放った正拳突きの霊力を打ち消された(吸われた)あげく、危うく両断されるところだった。
信じられない様子で息を飲むローゼが言った。
「すごい、これ――エミリアの霊力を打ち負かして我が物にしたの?」
一瞬愕然としたエミリアだったが、気を取り直して叫ぶ。
「そんなやっばい剣がこの世にあるなんて! 今の内に破壊しないとローゼさんを謀殺できない」
何考えてんだよ。もう夜一緒に寝れないよ。
エミリアは性懲りもなく、再びローゼに襲い掛かった。ロングソードの扱いは習っているローゼであったが、さすがに長時間振るい続けるのはちょっとつらい。レイピアと違ってスピードに乗れないから、エミリアの後手に回って防戦一方だ。
「もう! 星屑の剣持ってて負けるなんて恥晒せない」
大きくツーリックステップを踏んだローゼは、そのまま思いっきり振りかぶって剣を振り下ろす。その瞬間、剣身と同じ色合いの霊波の波(ソードウェーブ)が放たれて、一本廊下の反対側にいたエミリアを吹き飛ばした。
「すごっ」
思わずローゼ自分に感嘆。口には出さないけれど、霊力使える剣士をとても羨んでいた。ソードウェーブなんていったら夢のまた夢、憧れの的。
「絶対に勝てる」
ローゼはそう確信して、自信満々にオクスに構えた。
「何これっ‼」
部屋に入った瞬間、壁に飾られた剣を見つけてローゼが叫んだ。駆け寄っていって、手に取ってみる。とても美しい剣だ。
「もしかして星屑の剣?――いえ、まさかね。本物がこんなところにあるはず――」と言ったところで、一緒にいたマッシモ君が口を挟んだ。
「この剣でブラックドラゴンを仕留めたんですよ」
「うそっ、これで?」
「確か、“星屑の剣”って竜殺し卿も言ってました。本物かどうか試してくるって言って、ブラックドラゴンを狩りに行ったんです」
本物のドラゴンスレイヤーは隕鉄製だと言われている。そのレプリカ(大半のドラゴンスレイヤーとドラゴンキラー)の多くにも隕鉄を練り込んだ鋼が使われている。星屑の剣も隕鉄そのものでできた霊剣の一種で、流星刀とか流星剣とか言われる武器の一つ。
伝説では、黒い巨大な竜の魔王を倒すために召喚して落した隕石から採取された隕鉄から作られた、とされる。
死してなお魔力を発する魔王の死骸と共に長らく放置されていた隕石から採取されたため、隕鉄自体が大量の魔力を帯びていている、と記述された本もあれば、魂魄を失った魔王の器(魔体)そのもの、と描かれた文献もある。なんにしろ、膨大な霊力、神力、魔力を湛えることのできる武器であることには間違いない。ドラゴンどころか、神や魔王でさえうち滅ぼせる。
ローゼは、初めて見る伝説の剣に見惚れ入っていた。見る角度や光の加減で明るい銀青に燐光するさまが、とても幻想的だ。深い濃紺の剣身は外側に向かって徐々に瑠璃色へと変化し、両刃の刃の部分は銀色に輝いている。ブレード全体に星屑をちりばめたような輪環状のオーロラのような斑紋が優にあり、その形象は、正に星屑の剣、と称されるに相応しい。
そして天の川のように煌めく金細工の施されたヒルトの中央には、ガス星雲を凝縮したような霊石が埋め込まれている。一般的なロングソードよりも少し長めで百十センチくらいだろうか。だいぶ重い。とても女のローゼが実戦で長時間振るえる代物ではない。
「うえ?」
と、突然ローゼは気の抜けたような声を発して、少しよろけた。
マッシモ君が言った。
「気を付けてください。これは、扱う者と斬られた者の霊気を吸うらしいですから」
伝説によると、輪環状の斑紋は屠られた神や悪魔の魂魄だと言われている。
「剣に認められないと命を失うって伝説は、ここからきているのね」とローゼは納得した。
霊剣や神・魔剣の類にはいくつか種類がある。霊力などを注ぎ込まれて鍛え上げられた剣(シルバーグレード、レイピアなど)、魔術などを封じ込められた剣(火の剣や雷の剣など)、神や悪魔を封じ込めた剣(雷神の剣、ヴァフュメトウスなど)、だ。この剣は、三種類どれにも当てはまる特殊な剣のようだ。
ローゼは、自信の満ちる声で言った。
「遠い昔の降魔戦争か降臨戦争で失われたって授業で習ったから、もし本物ならとんでもない大発見ね。ドラゴンスレイヤーどころの話じゃないわよ。
少なくとも、ブラックドラゴンを倒せるほどの剣なら、アイツに勝てるかもしれないわ」
「だめでも、着ているツノは破壊できますね」
「うん、ドラゴンを倒した時にそれは実証済みだしね」
――しばらく二人は黙っていたが、ローゼは「よし」と意を決した。ごくりと唾を飲む。
「逃げましょう」
「へ?」と呆気にとられるマッシモ君が訊く。「竜殺し卿とお連れさんはどうするんですか?」
「良いのよ、あんなのどうでも。わたしたちの会話振り返ってみて。誰がどう見ても、正統派本格ファンタジーを地で行ってない? 普通の美少女剣士と普通の町人の会話よ。わたし、こういうのがやりたかったの」
「自分で言いますか?(美少女って)」
ローゼは意に介さずに満面の笑みで、「さあ行きましょ」と裏の窓を目指した。
「そうくると思っていたわ」
突如響く女の声に、ローゼが叫ぶ。
「エミリア! 何故ここに?」
「どうせ、ローゼさんのことだから、とてつもなく珍しい伝説の剣を見つけて、わたしが竜殺紳士と闘っている間に、その剣を盗んでトンズラここうと思っていたんでしょう?」
「うう、なんて感してんの、エミリアのヤツ」
「さあ、その剣を渡しなさい。わたしが叩き折ってやるから」
ちょいちょい、と指を動かして、エミリアが言う。
仕方がない。ローゼは、ちょっと重くて扱いにくいけれど、星屑の剣をフォムターグに構える。
「せいやー」とエミリアが襲ってきた。
「うわっ」と叫んでローゼが迎え撃つ。
二人を包むドーム状の光の壁が、火花と烈風をまき散らした。白と瑠璃色の霊波がせめぎ合って閃光を放つ。
「きゃっ」とエミリアが叫んだ。
放った正拳突きの霊力を打ち消された(吸われた)あげく、危うく両断されるところだった。
信じられない様子で息を飲むローゼが言った。
「すごい、これ――エミリアの霊力を打ち負かして我が物にしたの?」
一瞬愕然としたエミリアだったが、気を取り直して叫ぶ。
「そんなやっばい剣がこの世にあるなんて! 今の内に破壊しないとローゼさんを謀殺できない」
何考えてんだよ。もう夜一緒に寝れないよ。
エミリアは性懲りもなく、再びローゼに襲い掛かった。ロングソードの扱いは習っているローゼであったが、さすがに長時間振るい続けるのはちょっとつらい。レイピアと違ってスピードに乗れないから、エミリアの後手に回って防戦一方だ。
「もう! 星屑の剣持ってて負けるなんて恥晒せない」
大きくツーリックステップを踏んだローゼは、そのまま思いっきり振りかぶって剣を振り下ろす。その瞬間、剣身と同じ色合いの霊波の波(ソードウェーブ)が放たれて、一本廊下の反対側にいたエミリアを吹き飛ばした。
「すごっ」
思わずローゼ自分に感嘆。口には出さないけれど、霊力使える剣士をとても羨んでいた。ソードウェーブなんていったら夢のまた夢、憧れの的。
「絶対に勝てる」
ローゼはそう確信して、自信満々にオクスに構えた。
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