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第七十八話 プラーベート of 竜殺紳士
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ばかげた話に付き合うのは、ほとほと疲れた。ローゼは、レイピアを鞘に納めて言った。
「わたしにはあなたを殺す理由はないわ(そもそも勝てそうにないし)。もし、盗んだ通商手形を持っていたら返してよ。返してくれたら、わたしたちは退散しますから」
それを聞いた周りの男たちが、「えーっ、そんなー」と騒ぎだす。「こいつを倒して、我々を救ってくださいよ!」
「えー、いやよ。だってわたしじゃ勝てないもん」
「なんて無責任な」「ぶーぶー」(被害者一同)
「うっさいわね」
ブラックドラゴンの話の真偽は定かではないが、何十メートルもあるドラゴンを退治できる実力があるのは間違いない。実力だけなら伝説級の強者だろう。とんがりパンツが仇となった。
「まあ、通商手形がないなら、わたし帰りますね。いこっエミリア」
とローゼが背を向けようとした瞬間を止めて、竜殺紳士が言った。
「ご婦人方に用がなくとも、私の方にはあるのだよ」
「へ?」とローゼ。
「ここにちょうど、良いとんがりちちバンドがあるのだ」
そう言って、どんな装いにもよく合うノーマルちちバンドを拾い上げる。パラッパ~ンと、どこからともなくラッパが鳴った。背景旭日、てかてか回る。
「うえ? そんなっ」と言ったローゼは間髪入れずに「エミリアどーぞ」と生贄に捧げる。
「何言っているんですか、サイズ的にローゼさんでしょ」
「成長期はちょっと大きめでも大丈夫なの」
「ちょっとどころじゃないですよ。そう言えば、ローゼさんて刀剣市に出かけてきたんですよね? 今までで一番の最強装備ですよ」
それを聞いた竜殺紳士が嬉々として言った。
「そう言うことなら、超レアグッズだぞ。対霊術、神術、魔術耐性があって、火や水、氷、雷などの攻撃にも耐性があるからな。少なくとも、今の肩当てやマントより随分と強力だぞ」
言い終えた竜殺紳士は、にやけりながらにじり寄って問答無用でローゼたちを襲う。
慌ててレイピアを抜くローゼだったが、ドラゴンキラーを持たない竜殺紳士のスピードについて行けない。避けるので精いっぱいだ。
エミリアの正拳突きもまるで歯が立たない様子。ドラゴンのツノに傷一つつけられない。
ローゼは「ううー」顔をしかめて唸るが、「突っ込んでくる前に先手必勝」と泣きながら、グリップを頭上に掲げて切っ先を下方に向けるガーダントに構える。そして突撃してきた竜殺紳士をマントで叩いてくるりとよけて、速攻で仕切り直し。即座に位置を勝ち得て、その直後に切っ先を突きだして第四に構えた。頭、右手、右足、左足、左手、と楕円を描いて次々に撫で切りを試みる。だが、かすりもしない。
ローゼの追い込みをバックステップでかわす竜殺紳士を捉え切れずに、ローゼ断念。飛びかかってきた竜殺紳士を格闘術で迎え撃つ――素振り。
でも実はこれはローゼの策略。オクスに構えて切っ先を下げ、とんがりの先を撫でて挑発する。不意に刃を回転させてツベルクハウ(プロペラの様に回す斬撃)で額を襲う。そのままグリップを離して、右下に落ちていたドラゴンキラーを拾い上げる。めっちゃ重いけど、エミリアに手伝ってもらいながら全身の力を使ってなんとかフォムターグ(といってもなんとか担いだ感じ)に一瞬構えて、腰をバウンドさせて飛び上がってきた竜殺紳士を迎え撃った。
実際はポメルを地面に落として、竜殺紳士に向かって表刃を向けただけ。それを後ろからエミリアが「やあっ!」と猛烈キック。勢いよくドラゴンキラーを発射する。
凄まじい金属音が鳴り響いて、さすがのローゼも勝ちを得たかと思ったが、ドラゴンのツノを粉砕できない。逆にドラゴンキラーの刃が砕けた。ローゼは「これじゃないのか!」と叫ぶ。
地面に叩きつけられる竜殺紳士。ローゼは、捕まえてやれば何とかなるかも、と浅はかな思い込みでマウントを取る。だがしかし、エミリアと二人掛かりでも殴られ蹴られるの大惨敗。めっちゃつえー。
「エミリア、お願い」
と、堪らずローゼはエミリアを残して戦線離脱。
「ローゼさん、わたし一人じゃ無理ですよぅ」とめっちゃでかいタンコブで左目が腫れあがったお岩さん状態のエミリアが叫ぶ。右の鼻から鼻血だらだら。
「大丈夫よ、増し増しだから」とローゼ親指を立てて、ビシッと決める。
ほんと大丈夫か? 顔の腫れ方本気かギャグか分からない微妙さ。「でも大丈夫」と鼻血ブー太郎のローゼが微笑む。足にきていて膝がガクガク。
訳が分からない様子のエミリアに、ローゼは説明してあげた。
「とんがりパンツ穿かされてる男たちは、あれのサイズによってとんがりの大きさが違うでしょ? ということは、竜殺紳士はうたまろ並よ」
俄然やる気が出てきたエミリア、闘志で瞳に火がついた。
「なっ、どういうことだ! 戦闘能力が増していく」と驚く竜殺紳士。
「潰してみせます。未来のために!」
男を絶滅危惧種に追いやるつもり。会心の進撃は止まらない。たちまちのうちに、エミリアは竜殺紳士と対等となるまでに戦闘力を高めていく。
竜殺紳士は恐れ慄きながら、震える声を絞り出す。
「止めねば! 全人類の半数(男)のためにも、今ここで止めねば!」
エミリア、ボルテージMAX。金に輝く霊気帯びてるの肉眼で見える。
「二人が戦っているうちに、わたしはっ――」とローゼは城型ゴーレムの残骸に向かって走って行く。「ちょっと、手伝って」とそばにいた男を一人連れて中に入った。ちなみに名前はマッシモ君。
大広間。
「ダンスでもする場所かしら?」と呟くローゼに、連れてきたマッシモ君が「ここでドラゴンキラーの試し切りをするんですよ。ドラゴンのツノや骨を使って」と言う。
「なるほどー」
幾つかの部屋を抜けて、階段を見つけた。二階三階をくまなく探すが、これといってめぼしい武器は見つからない。
四階は炉があって鍛冶の道具がそろっている。位置の低い金床や三人くらいじゃないと動かせなさそうな研磨盤(グラインダー。刃を研ぐ道具)。ここでドラゴンキラーを作っているようだ。
マッシモ君の話によると、大抵は高名なソードスミス(剣匠)に作らせているようだが、自分でも作る趣味があるらしい。一歩間違えば、偉大なソードスミスだったかも。
奥の部屋にたくさんのドラゴンキラー。この中のどれかで、あのツノを打ち砕けないか、と物色する。
見た目はドラゴンスレーヤーなのに、どれも本物じゃない。鉄?……でもなさそう。訊くと、鉄を超える鉄が作られた、という情報を仕入れては、錬金術師に大枚はたいて錬金した金属の塊を買ってきて剣にしているらしい。
なんかローゼは半信半疑。
「大枚って、そんなにお金がありそうには見えないんだけど」
「とんがりパンツをあげるんですよ」
「いらないわね」
「でも、まがりなりにもドラゴンのツノですよ。用途はどうであれ、マテリアルとしては相当な価値です」
確かにそうだ。ドラゴンの種類やツノの大きさによっては、金のブリオン(延べ棒)とでも交換できるだろう。竜殺紳士が着ていたとんがりなら、お城くらい買えるかも。本当にブラックドラゴンのならば、だけど。
置いてあった剣にあらかた目を通したローゼがため息をつく。
「でも、ここにあるのじゃ、あのツノには勝てそうもないわね」
全部鉄に毛が生えた程度のもの。鋼よりは強度はあるかもしれないが、先人が生みだしたレアメタルには程遠い。
「わたしにはあなたを殺す理由はないわ(そもそも勝てそうにないし)。もし、盗んだ通商手形を持っていたら返してよ。返してくれたら、わたしたちは退散しますから」
それを聞いた周りの男たちが、「えーっ、そんなー」と騒ぎだす。「こいつを倒して、我々を救ってくださいよ!」
「えー、いやよ。だってわたしじゃ勝てないもん」
「なんて無責任な」「ぶーぶー」(被害者一同)
「うっさいわね」
ブラックドラゴンの話の真偽は定かではないが、何十メートルもあるドラゴンを退治できる実力があるのは間違いない。実力だけなら伝説級の強者だろう。とんがりパンツが仇となった。
「まあ、通商手形がないなら、わたし帰りますね。いこっエミリア」
とローゼが背を向けようとした瞬間を止めて、竜殺紳士が言った。
「ご婦人方に用がなくとも、私の方にはあるのだよ」
「へ?」とローゼ。
「ここにちょうど、良いとんがりちちバンドがあるのだ」
そう言って、どんな装いにもよく合うノーマルちちバンドを拾い上げる。パラッパ~ンと、どこからともなくラッパが鳴った。背景旭日、てかてか回る。
「うえ? そんなっ」と言ったローゼは間髪入れずに「エミリアどーぞ」と生贄に捧げる。
「何言っているんですか、サイズ的にローゼさんでしょ」
「成長期はちょっと大きめでも大丈夫なの」
「ちょっとどころじゃないですよ。そう言えば、ローゼさんて刀剣市に出かけてきたんですよね? 今までで一番の最強装備ですよ」
それを聞いた竜殺紳士が嬉々として言った。
「そう言うことなら、超レアグッズだぞ。対霊術、神術、魔術耐性があって、火や水、氷、雷などの攻撃にも耐性があるからな。少なくとも、今の肩当てやマントより随分と強力だぞ」
言い終えた竜殺紳士は、にやけりながらにじり寄って問答無用でローゼたちを襲う。
慌ててレイピアを抜くローゼだったが、ドラゴンキラーを持たない竜殺紳士のスピードについて行けない。避けるので精いっぱいだ。
エミリアの正拳突きもまるで歯が立たない様子。ドラゴンのツノに傷一つつけられない。
ローゼは「ううー」顔をしかめて唸るが、「突っ込んでくる前に先手必勝」と泣きながら、グリップを頭上に掲げて切っ先を下方に向けるガーダントに構える。そして突撃してきた竜殺紳士をマントで叩いてくるりとよけて、速攻で仕切り直し。即座に位置を勝ち得て、その直後に切っ先を突きだして第四に構えた。頭、右手、右足、左足、左手、と楕円を描いて次々に撫で切りを試みる。だが、かすりもしない。
ローゼの追い込みをバックステップでかわす竜殺紳士を捉え切れずに、ローゼ断念。飛びかかってきた竜殺紳士を格闘術で迎え撃つ――素振り。
でも実はこれはローゼの策略。オクスに構えて切っ先を下げ、とんがりの先を撫でて挑発する。不意に刃を回転させてツベルクハウ(プロペラの様に回す斬撃)で額を襲う。そのままグリップを離して、右下に落ちていたドラゴンキラーを拾い上げる。めっちゃ重いけど、エミリアに手伝ってもらいながら全身の力を使ってなんとかフォムターグ(といってもなんとか担いだ感じ)に一瞬構えて、腰をバウンドさせて飛び上がってきた竜殺紳士を迎え撃った。
実際はポメルを地面に落として、竜殺紳士に向かって表刃を向けただけ。それを後ろからエミリアが「やあっ!」と猛烈キック。勢いよくドラゴンキラーを発射する。
凄まじい金属音が鳴り響いて、さすがのローゼも勝ちを得たかと思ったが、ドラゴンのツノを粉砕できない。逆にドラゴンキラーの刃が砕けた。ローゼは「これじゃないのか!」と叫ぶ。
地面に叩きつけられる竜殺紳士。ローゼは、捕まえてやれば何とかなるかも、と浅はかな思い込みでマウントを取る。だがしかし、エミリアと二人掛かりでも殴られ蹴られるの大惨敗。めっちゃつえー。
「エミリア、お願い」
と、堪らずローゼはエミリアを残して戦線離脱。
「ローゼさん、わたし一人じゃ無理ですよぅ」とめっちゃでかいタンコブで左目が腫れあがったお岩さん状態のエミリアが叫ぶ。右の鼻から鼻血だらだら。
「大丈夫よ、増し増しだから」とローゼ親指を立てて、ビシッと決める。
ほんと大丈夫か? 顔の腫れ方本気かギャグか分からない微妙さ。「でも大丈夫」と鼻血ブー太郎のローゼが微笑む。足にきていて膝がガクガク。
訳が分からない様子のエミリアに、ローゼは説明してあげた。
「とんがりパンツ穿かされてる男たちは、あれのサイズによってとんがりの大きさが違うでしょ? ということは、竜殺紳士はうたまろ並よ」
俄然やる気が出てきたエミリア、闘志で瞳に火がついた。
「なっ、どういうことだ! 戦闘能力が増していく」と驚く竜殺紳士。
「潰してみせます。未来のために!」
男を絶滅危惧種に追いやるつもり。会心の進撃は止まらない。たちまちのうちに、エミリアは竜殺紳士と対等となるまでに戦闘力を高めていく。
竜殺紳士は恐れ慄きながら、震える声を絞り出す。
「止めねば! 全人類の半数(男)のためにも、今ここで止めねば!」
エミリア、ボルテージMAX。金に輝く霊気帯びてるの肉眼で見える。
「二人が戦っているうちに、わたしはっ――」とローゼは城型ゴーレムの残骸に向かって走って行く。「ちょっと、手伝って」とそばにいた男を一人連れて中に入った。ちなみに名前はマッシモ君。
大広間。
「ダンスでもする場所かしら?」と呟くローゼに、連れてきたマッシモ君が「ここでドラゴンキラーの試し切りをするんですよ。ドラゴンのツノや骨を使って」と言う。
「なるほどー」
幾つかの部屋を抜けて、階段を見つけた。二階三階をくまなく探すが、これといってめぼしい武器は見つからない。
四階は炉があって鍛冶の道具がそろっている。位置の低い金床や三人くらいじゃないと動かせなさそうな研磨盤(グラインダー。刃を研ぐ道具)。ここでドラゴンキラーを作っているようだ。
マッシモ君の話によると、大抵は高名なソードスミス(剣匠)に作らせているようだが、自分でも作る趣味があるらしい。一歩間違えば、偉大なソードスミスだったかも。
奥の部屋にたくさんのドラゴンキラー。この中のどれかで、あのツノを打ち砕けないか、と物色する。
見た目はドラゴンスレーヤーなのに、どれも本物じゃない。鉄?……でもなさそう。訊くと、鉄を超える鉄が作られた、という情報を仕入れては、錬金術師に大枚はたいて錬金した金属の塊を買ってきて剣にしているらしい。
なんかローゼは半信半疑。
「大枚って、そんなにお金がありそうには見えないんだけど」
「とんがりパンツをあげるんですよ」
「いらないわね」
「でも、まがりなりにもドラゴンのツノですよ。用途はどうであれ、マテリアルとしては相当な価値です」
確かにそうだ。ドラゴンの種類やツノの大きさによっては、金のブリオン(延べ棒)とでも交換できるだろう。竜殺紳士が着ていたとんがりなら、お城くらい買えるかも。本当にブラックドラゴンのならば、だけど。
置いてあった剣にあらかた目を通したローゼがため息をつく。
「でも、ここにあるのじゃ、あのツノには勝てそうもないわね」
全部鉄に毛が生えた程度のもの。鋼よりは強度はあるかもしれないが、先人が生みだしたレアメタルには程遠い。
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