DEVIL FANGS

緒方宗谷

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第四十九話 野望絶大? 挫け女の敵

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 「助けてー!」ローゼの悲鳴が木霊する。
 「待ってーローゼちゅわ~ん♡♡」
 鼻息をプンプン噴射して飛んで追い回すカトワーズ。
 「クリオの男爵を黙らせるその血統。おむつジジイとエイドリアンを倒すその強さ。僕の奥さんに相応しい」
 「黙らせたのはアリアスなんですけどー。なんか勘違いされてるー!」
 時折攻撃に転じるローゼだったが、その度に超能力に捕まって身動きが取れなくなる。なんとか自力で金縛り状態から脱っするが、体力が持ちそうもない。
 カトワーズ「もうすぐ息切れだね。でも安心して、僕が人工呼吸してあげるからぁ」ムチュ~~。
 「せめてレイピア、レイピアがあれば――もう! わたしの服はどこー?」
 「あははははー」と笑い声が聞こえて振り返ると、カトワーズの超能力で発生した暴風に乗って遊ぶエミリアがいる。
 「わたし飛んでるー。見てーわたし飛んでるー」
 「いつでも僕んちに遊びにおいでー」カトワーズも大はしゃぎ。「お嫁さんのお友だちならいつでもどこでも大歓迎さ」
 「ほんとー? 嬉しー」
 楽しみすぎだよ。超ポジティブ。そんなあんたが羨ましい。上手く結婚話しをぼやかして、わたしもあんなにはしゃぎたい。
 「ちょっと、メイドの人、わたしの服どこよ?」
 ローゼは、視界に入った着替えを手伝ってくれたメイドの腕を掴んで一緒に走らせて、服の在り処を問いただす。
 「あれは別のメイドが持っていきました」
 「どこ?」
 「今頃焼却炉かと」
 「焼却?」
 焼却炉の場所を訊き出して、ローゼは一心不乱に館の隅まで走って行った。大理石で囲われた土間の小部屋があって、正に服が燃やされる寸前。ゴミ担当のメイドを押しのけて、服と防具とレイピア奪還。未だにウエディングドレスのままではあるが、ついにローゼ、反撃ののろしを上げる。
 「ようやくですか?」エミリアもズボンの紐を結び直した。
 剣士&空手家 VS エスパー対決。
 アルバー(下段)の構えから切り上げるレイピアで超能力を裂き分けて、ローゼ憤激(撫で斬り)。続けざまに「どりゃー」と刺突するも、全部軌道を反らされる。ローゼは懐に駆けこんでマウントを取ろうとするが、超能力で床に叩き落とされる。
 エミリアも奮闘するが捕まえられない。サイコキネシスで押さえつけられるローゼに、フライヤーで飛んで突進してくるカトワーズ。そこに後ろからエミリアが飛びかかる。カトワーズがエミリアの動きに気がついた瞬間、ローゼの金縛りが解けた。代わりにエミリア動けない。そこでローゼが気がついた。
 (コイツ、複数攻撃できないのか?)
 エミリアが金縛りにされている間に撫で斬ろうとするが、カトワーズの動きに間に合わない。そうこうする内に、カトワーズにレイピアを取り上げられて丸腰となった。
 「ぎゃー」と逃げまどうローゼは、エミリアが捕まっている間にお屋敷から出ようと、窓やドアをこじ開けようとするが、全くあかない。超能力で監禁されている。
 「いえ」とセバスチャン。「鍵がかかっているだけです」
 「なら、窓割って逃げてやる」
 「高額ですよ。ご実家に請求させて頂きます」
 「むぐぐぐぐ~」ローゼ閉口。
 でも「そうだ」と気がついた。落ち着いて考えれば、装備をつければ良いんだ。抱えていただけでも、カトワーズの超能力の効きは悪くなっていたけれど、装着したほうが効果が高い。
 カトワーズが追いついてくる前に個室を借りたローゼは、メイドの協力でウエディングドレスを脱ぎ捨てて、いつもの服装に着替える。
 「ああ、やっぱりこの格好が一番落ち着く」とローゼ一言言って、戦闘再開。「でもわたし武器ないじゃん」格闘術で何とかならないか? やっぱり無理。超能力攻撃を大幅カットできても、やっぱりサイコキネシスは強力だ。だが、全く動けなくなることはなくなった。
 間を詰められてしまうようになったカトワーズは、新しい技を繰り出してくる。
 『ソニックブレッド!』
 「痛っ痛っ痛いっ」
 光る音波の弾丸が飛んできて、バシュバシュバシュッ、とローゼに当る。銀装備に守られているとはいえ、涙ちょちょぎれ超痛い。でもなんか変。“ソニック~”は確かに超能力の一つだし、エスプス(サイコラークの超能力軍の名称)の技の一つだけれど、正真正銘のサイキックではない。
 宮廷学校で訓練を受けた騎士などが使う基本技の一つ。高度なサイキックは、技の頭に“サイコ”とつくものが多い。つかないものもたくさんあるが、少なくとも“ソニック”とつくものは、エグザイミー(高校卒業試験受験資格者の称号)かエスパーなどの下級兵が使う技だ。
 正式に訓練した兵士ではないようだ、と察したローゼは、なんとか隙を突けないかと、あの手この手と技を繰り出す。
 「でもやっぱり無理~」と逃げ出すローゼ。諦めるのちょ~早い。でもそれがローゼの良い所でもある。無理に同じことを繰り返すのはバカの一つ覚え、逃げている間に打開策を考える。
 「そういえば――」とローゼが思い出した。入り口で使用人に渡した荷物。自分のには武器になりそうなものは入っていないけれど、エミリアのカバンには何か入っているかも? と入り口に走る。預かり物を保管する部屋に押し込み、エミリアの雑嚢(肩掛けカバン)をひっくり返した。
 それを見たエミリア「あ~‼」と叫ぶ。「何でわたしのカバンにクラゲ野郎が入ってるんですかぁ!」
 「ばれたか」とローゼ。メリケンサックくらい入っていれば、と期待したが、なんにもなし。武器は軟弱、と決めつけるエミリアなんだから当然か。
 エミリアがまくしたてる。
 「そういえば、ローゼさん早い段階からクラゲ野郎持っていませんでしたよね? ずっとわたしこれ持たされていたなんて……」と言って「あっ」と気がついた。
 「わたしのおやつどうしたんですか?」とローゼに詰め寄る。エミリアのカバンには、お菓子が満載だったはず。
 「大丈夫よ、わたしが全部食べたから」
 「そんなぁ、ドロボー!」
 「人聞き悪いわね、お金は盗ってないわよ」
 「お金より甘いものー!」
 そこら辺の発想はやっぱ子供だ。
 「そこにいたか」とカトワーズ。この部屋には出入り口は一つしかない。窓は上げ下げする窓で、棒状の金具をまわして開けるタイプだからめんどくさい。実質逃げ道一切なし。窓破りは絶対しない。破ればトンデモ請求受けるから。
 挟み撃ちされないように入り口から動かないカトワーズは、交互に二人をねじ伏せながら、二人の距離を縮めていく。そうすることで一度の技で二人とも抑え込んでしまうつもりのようだ。
 「むぎぎぎぎ~」とローゼが唸る。何度か交互に金縛りを受けた後、ローゼは指先に当ったクラゲ野郎を手に取った。藁をも掴む思いで、クラゲ野郎の胴体をかぶって身を伏せる。
 「ん?」
 なんかサイキックの圧が超ゆるい。「あれ?」もしかしたら? とクラゲ野郎をバックラー代わりにして、ローゼ前進。
 カトワーズ唖然。
 「それは――まさかエイドリアンか⁉」
 サイコエネルギーの出力を上げるが、完全無効化状態。
 「くそっ。超能力が効かないなんて! 人間を超越しようとした実験でクラゲになった魔導士って噂は本当だったのか?」
 やや顔を見合わせるローゼとエミリア。
 「――でもまあいける! 超楽勝」ローゼが「ふん」と鼻を鳴らした。
 「うそー、わたしもやらせて~」とエミリアが駄々をこねる。
 しょうがないので渡してやった。
 「ほんとだー」
 クラゲを使ってサーフィン開始。「上手くやると、好きなところに飛んで行けるー」とはしゃぐエミリア。
 カトワーズは、「んじゃー、これはどうだ」と腕をまわして嵐を起こす。
 「きゃっきゃ」と笑うエミリア「もっともっとー」と気分はジェットコースター。
 「どうだ、面白いだろー?」
 「カトワーズのおじ様、もっと遊んでー」
 仲良しかお前ら。求婚相手のわたし放るってどういうことよ? 絶対ごめんなさいの求婚なのに、なんでこんなに悲しくなるんだろう? と思うローゼはとても孤独であった。



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