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第九話 カンケーないけど、ドイツにトキオってスゲー歌手いたの知ってる? ちなみにホテルのほうじゃないよ。
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深夜の岩山の頂上、平坦な地面の上をただ走り回っているだけなので、だいぶはしょられて今に至った今日この頃。塩と鷹の爪を塗られた後にリーサルウエポンとリーサルリーサルウエポンを立て続けに使ったものだから、オントワーンが持ってきたコショウとかお酢とかはもはや役立たず。一応使ったけれど駄目でした。
瀕死の生人間は、顎が外れたかのように口を開いて舌をだらしなく垂らしている。叫び過ぎたんだ。むいた白目は透き通るような白さです。
走るペースも落ちてきて、「むー」とエミリアが悩む。「どうやって走らせよう?」ってまだ走らせる気なんですか? 死んじゃうよ。エミリアとオントワーンが話し合うが、妙案は浮かばない。お前ら敵同士なの分かってる?
万策尽きたオントワーンが、「こんにゃろう」と空っぽの壺を投げつける。皮いそー――じゃなかった可哀想ー―― あ、転んだ。大丈夫ですか? 悲惨過ぎ。ついに地獄マラソンに終止符が打たれた。やって来た後ろ手の手下たちが運んでいく。担架もない。こんな時くらい手かせはずせよ。
「あのー、あの人どこに連れていかれたんですか?」とエミリアがオントワーンに訊く。
「使えねーやつは殺すのみさ」
そう言って嗜虐的な笑みを浮かべるオントワーンは、ゼイゼイ言いながら合流してきたローゼを見やりながら続ける。
「でも、ただじゃ殺さねぇ。この俺が直々爪をはいだり、トンカチで歯を叩いて折ったり、楽しんでから殺してやるんだ」
えげつねー! どうしてこんなになっちゃったの?
「実は子供の頃な――」
また回想かよ。パークだけでもうコリゴリ。でも一応聞いてやろう。今度はなーに?
ほあほあほふぁ~ん、のんびりイン。町との往来もなさそうな、地上の孤島的な人里離れた辺鄙な所。幾百年もの樹齢を重ねたであろう木々に囲まれて家々がある。エルフの隠れ里と見まがうほどだ。なのに木組みとレンガの組み合わせ。町ほどではないにしても、そこそこ大っきい村の一角。
そんな風景を思い描いて、オントワーンが口を開く。
「――俺は南西向きの角部屋の隅で一人膝の瘡蓋をいじっているような子供だった」
寂しーな、おい。でもエミリア肯定的「南西向きってことは、お部屋とっても明るいですね」
確かに。そしてめっちゃ暑い。
「ある時思い切って剥がしてみた瘡蓋の臭いこと臭いこと」オントワーンは顔をしわくちゃにして続ける。「俺は羨望の眼差しを向けたね」
羨望? 瘡蓋相手に?
「俺は友達をいじめるふりしてみんなの瘡蓋を剥がして集めて回ったんだ。バケツいっぱいな」
「どんな自由研究よ」ローゼがピシャリ。
「夏休みだからな」
夏休みに家回ったのかよ。迷惑なガキだな。
「はたち越えてた」
「大人かよ」
「ダーククォーターエルフは人生なげーんだ」
ちなみに今七十八歳。年齢も育ち(故郷の村)も中途半端だな。もう人間でいんじゃね? お母さんお叱りの電話(←電話って何? 電話ねーべやさ)さぞ苦労したろうな。――て塩の壺に“母より”って書いてあるよ。何に使ってんだよ⁉ せっかく送ってもらったのに。そうつっこむローゼは、落ちていた手紙を見つけて拾う。
「――前略――この塩は大きく結晶化していてチクチクするので、生剥ぎさんにはうってつけですよ――後略――」」
親子そろって拷問好きかよ。誰だよ生剥ぎさんて。
「生人間のことだ」オントワーンが真面目に答える。
分かってるよ。分かってて言ったんだよ。ローゼは手紙を地面に叩きつけた。そして投げやりに言った。
「どうせあれなんでしょ? 集めた瘡蓋体に塗りたくったんでしょ?」
「惜しい。実は、その時大好きだった女子にプレゼントしようと思って、学校裏に呼び出したんだ」
なんて迷惑。超迷惑。
「彼女を見つけた俺は、喜び勇んで駆け寄った――」
来たのか、夏休みにわざわざ。
「――その時こけちまってな。放り出しちまったんだ、バケツを。目で追ったバケツは弧を描いて、その子の頭を飲みこんだ。彼女、臭かったのなんのって、尋常じゃなかったね。
俺は興奮して、その柔肌に汁っ気を塗りたくって――」
とオントワーンが言ったところで、両手を大きく振ってローゼが止める。雲が散るように消えていく回想。
「待って! 待って! Rに引っ掛かるからよしてよ」
「そうか? じゃあセンコーにヘンコー」テキトーだな。「韻踏んでますね」とエミリア。チェキラッチョー。
突然暗転。マイク片手にスポットライト浴びるオントワーン。
🎼ヘイ ヨー ホゥオゥー ヘイ ヨー ホゥオゥー
傷ついた俺 包むアイツ 傷つくために 突き放す俺
ヘイ ヨー ホゥオゥー ヘイ ヨー ホゥオゥー
飛び入り参加の 笑み 笑み エミリア DJエミリア🎼
🎼セイヤー ホッオー セイヤー ホッオー
集まる気持ち 赤く染めるぜ 溜まって膨らみ はじけ飛ぶっ
セイヤー ホッオー セイヤー ホッオー🎼
オントワーンが引き継いで、軽いリズムで前に出る。
🎼お次は ヒロイン DJローゼ 本編最強 剣士のお出まし🎼
「えぇっ? わたし? わたし?――
🎼ヘイー ヨーホー ヘイー ヨーホー♪
赤い髪は 情熱の証 名前のローゼはバラのこと♪
ヘイー ヨー🎼――て何でわたし一人だけ‼‼⁉」
ローゼは地面にマイク(←なぜにマイクが?)を叩きつけた。誰もいない。
遠くでみんながシラ~としてる。
「エミリア、どう思う?」とオントワーン。
「いい子ぶっちゃってつまんねーの、くちゃくちゃ(ガム食ってる)」
「シラケるよなー」と言いながらオントワーンがあおると、そこら中から大ブーイング。えぐるような視線がめっちゃ痛い。居た堪れなくてローゼわなわな。お前ら、それでいつまでグラサンかけて肩揺らしてんじゃ。
怒声を浴びせるローゼからエミリアを庇うように、オントワーンが間に割って入った。
「ローゼリッタ、そのラップ瘡蓋関係ねーだろ」
くちゃくちゃガム噛みながら舌打ちしたオントワーンが真っ向指摘。
「エミリアのだって関係ないでしょ!」ローゼは反論した。
するとエミリア反駁。「わたしのは内出血ですから」
うんうん、じゃないよ、オントワーン! こえーよ。瘡蓋と内出血主語にして歌思い返すと、スッゲーこえーよ。
敵同士なのに結託する二人。肩組んでめっちゃ自信ありげでへの字口。ヘイ ヨー ホゥウォー♪
瀕死の生人間は、顎が外れたかのように口を開いて舌をだらしなく垂らしている。叫び過ぎたんだ。むいた白目は透き通るような白さです。
走るペースも落ちてきて、「むー」とエミリアが悩む。「どうやって走らせよう?」ってまだ走らせる気なんですか? 死んじゃうよ。エミリアとオントワーンが話し合うが、妙案は浮かばない。お前ら敵同士なの分かってる?
万策尽きたオントワーンが、「こんにゃろう」と空っぽの壺を投げつける。皮いそー――じゃなかった可哀想ー―― あ、転んだ。大丈夫ですか? 悲惨過ぎ。ついに地獄マラソンに終止符が打たれた。やって来た後ろ手の手下たちが運んでいく。担架もない。こんな時くらい手かせはずせよ。
「あのー、あの人どこに連れていかれたんですか?」とエミリアがオントワーンに訊く。
「使えねーやつは殺すのみさ」
そう言って嗜虐的な笑みを浮かべるオントワーンは、ゼイゼイ言いながら合流してきたローゼを見やりながら続ける。
「でも、ただじゃ殺さねぇ。この俺が直々爪をはいだり、トンカチで歯を叩いて折ったり、楽しんでから殺してやるんだ」
えげつねー! どうしてこんなになっちゃったの?
「実は子供の頃な――」
また回想かよ。パークだけでもうコリゴリ。でも一応聞いてやろう。今度はなーに?
ほあほあほふぁ~ん、のんびりイン。町との往来もなさそうな、地上の孤島的な人里離れた辺鄙な所。幾百年もの樹齢を重ねたであろう木々に囲まれて家々がある。エルフの隠れ里と見まがうほどだ。なのに木組みとレンガの組み合わせ。町ほどではないにしても、そこそこ大っきい村の一角。
そんな風景を思い描いて、オントワーンが口を開く。
「――俺は南西向きの角部屋の隅で一人膝の瘡蓋をいじっているような子供だった」
寂しーな、おい。でもエミリア肯定的「南西向きってことは、お部屋とっても明るいですね」
確かに。そしてめっちゃ暑い。
「ある時思い切って剥がしてみた瘡蓋の臭いこと臭いこと」オントワーンは顔をしわくちゃにして続ける。「俺は羨望の眼差しを向けたね」
羨望? 瘡蓋相手に?
「俺は友達をいじめるふりしてみんなの瘡蓋を剥がして集めて回ったんだ。バケツいっぱいな」
「どんな自由研究よ」ローゼがピシャリ。
「夏休みだからな」
夏休みに家回ったのかよ。迷惑なガキだな。
「はたち越えてた」
「大人かよ」
「ダーククォーターエルフは人生なげーんだ」
ちなみに今七十八歳。年齢も育ち(故郷の村)も中途半端だな。もう人間でいんじゃね? お母さんお叱りの電話(←電話って何? 電話ねーべやさ)さぞ苦労したろうな。――て塩の壺に“母より”って書いてあるよ。何に使ってんだよ⁉ せっかく送ってもらったのに。そうつっこむローゼは、落ちていた手紙を見つけて拾う。
「――前略――この塩は大きく結晶化していてチクチクするので、生剥ぎさんにはうってつけですよ――後略――」」
親子そろって拷問好きかよ。誰だよ生剥ぎさんて。
「生人間のことだ」オントワーンが真面目に答える。
分かってるよ。分かってて言ったんだよ。ローゼは手紙を地面に叩きつけた。そして投げやりに言った。
「どうせあれなんでしょ? 集めた瘡蓋体に塗りたくったんでしょ?」
「惜しい。実は、その時大好きだった女子にプレゼントしようと思って、学校裏に呼び出したんだ」
なんて迷惑。超迷惑。
「彼女を見つけた俺は、喜び勇んで駆け寄った――」
来たのか、夏休みにわざわざ。
「――その時こけちまってな。放り出しちまったんだ、バケツを。目で追ったバケツは弧を描いて、その子の頭を飲みこんだ。彼女、臭かったのなんのって、尋常じゃなかったね。
俺は興奮して、その柔肌に汁っ気を塗りたくって――」
とオントワーンが言ったところで、両手を大きく振ってローゼが止める。雲が散るように消えていく回想。
「待って! 待って! Rに引っ掛かるからよしてよ」
「そうか? じゃあセンコーにヘンコー」テキトーだな。「韻踏んでますね」とエミリア。チェキラッチョー。
突然暗転。マイク片手にスポットライト浴びるオントワーン。
🎼ヘイ ヨー ホゥオゥー ヘイ ヨー ホゥオゥー
傷ついた俺 包むアイツ 傷つくために 突き放す俺
ヘイ ヨー ホゥオゥー ヘイ ヨー ホゥオゥー
飛び入り参加の 笑み 笑み エミリア DJエミリア🎼
🎼セイヤー ホッオー セイヤー ホッオー
集まる気持ち 赤く染めるぜ 溜まって膨らみ はじけ飛ぶっ
セイヤー ホッオー セイヤー ホッオー🎼
オントワーンが引き継いで、軽いリズムで前に出る。
🎼お次は ヒロイン DJローゼ 本編最強 剣士のお出まし🎼
「えぇっ? わたし? わたし?――
🎼ヘイー ヨーホー ヘイー ヨーホー♪
赤い髪は 情熱の証 名前のローゼはバラのこと♪
ヘイー ヨー🎼――て何でわたし一人だけ‼‼⁉」
ローゼは地面にマイク(←なぜにマイクが?)を叩きつけた。誰もいない。
遠くでみんながシラ~としてる。
「エミリア、どう思う?」とオントワーン。
「いい子ぶっちゃってつまんねーの、くちゃくちゃ(ガム食ってる)」
「シラケるよなー」と言いながらオントワーンがあおると、そこら中から大ブーイング。えぐるような視線がめっちゃ痛い。居た堪れなくてローゼわなわな。お前ら、それでいつまでグラサンかけて肩揺らしてんじゃ。
怒声を浴びせるローゼからエミリアを庇うように、オントワーンが間に割って入った。
「ローゼリッタ、そのラップ瘡蓋関係ねーだろ」
くちゃくちゃガム噛みながら舌打ちしたオントワーンが真っ向指摘。
「エミリアのだって関係ないでしょ!」ローゼは反論した。
するとエミリア反駁。「わたしのは内出血ですから」
うんうん、じゃないよ、オントワーン! こえーよ。瘡蓋と内出血主語にして歌思い返すと、スッゲーこえーよ。
敵同士なのに結託する二人。肩組んでめっちゃ自信ありげでへの字口。ヘイ ヨー ホゥウォー♪
応援ありがとうございます!
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