16 / 35
鬼胎
金メダル
しおりを挟む
一人の高跳びの選手が、一人の連れを伴って細胞研究所のドアを叩いた。国際的な賞をとった世界的な細胞研究の権威である博士に、ある頼みごとをするためだ。
選手は言った。
「今の技術なら、遺伝子を操作して強化人間を作る事くらい出来るでしょう」
「ああ、出来るとも」博士は言った。
「僕を改造してください。国際大会で金メダルを取りたいんです。薬じゃばれる恐れがありますが、遺伝子操作ならばれないでしょう。僕はノミのように高く飛びあがりたいんです。誰よりも高くです」
博士は視線をあげて少し考えてから、選手の男に視線を戻してから言った。
「うむ、不可能ではないな。どうしてもと言うのならしてやろう。だが、一億二億じゃとてもじゃないが――」「大丈夫です」選手は博士の言葉を遮って言った。「金をとれば、CMだのなんだの引っ張りだこですから。それに……」と言いかけて、後ろにいた連れの男を見上げる。濃い紺色のスーツを着た男。スポンサー企業の担当のようだった。
「うむ」博士は頷いて、後日また来るように日時を指定した。
その日やって来た選手は、すぐに手術台に寝かされて、麻酔注射を打たれた。即効性がある強力なやつだ。選手はすぐさま意識が混濁して気を失った。
目を覚ました選手は、もうろうとする意識を押して起き上がる。フラフラで立ち上がれず、そのまままた手術台に横になった。
しばらくして体調の回復した選手は、自分の四肢をマジマジと見た。これと言って体躯に変化はない。見た目は同じだった。
博士は言った。
「ノミ程ではないが、バッタくらいは飛べるだろうな」
選手は喜び勇んで外に出て、駐車場でウォーミングアップを始めた。しばらくして上下の服を脱ぐ。下にはユニホームを着ていた。
満を持して構える。選手は走り出して、ホップ、ステップ、ジャンプで、力いっぱい跳躍を試みる。眼下には、五階建ての研究所の屋上があった。周りの家々の屋根を見下ろす。
選手は思わず歓喜の声をあげた。
「やった。これなら間違いない。金メダルだ。夢の大舞台で金メダルだ」
ガッツポーズをとって喜びに歯を食いしばる選手は、頭を逆さにして落ちていった。そしてスイカが割られたような音がした。その原因になった物は、スイカと同じようになっていた。
選手は言った。
「今の技術なら、遺伝子を操作して強化人間を作る事くらい出来るでしょう」
「ああ、出来るとも」博士は言った。
「僕を改造してください。国際大会で金メダルを取りたいんです。薬じゃばれる恐れがありますが、遺伝子操作ならばれないでしょう。僕はノミのように高く飛びあがりたいんです。誰よりも高くです」
博士は視線をあげて少し考えてから、選手の男に視線を戻してから言った。
「うむ、不可能ではないな。どうしてもと言うのならしてやろう。だが、一億二億じゃとてもじゃないが――」「大丈夫です」選手は博士の言葉を遮って言った。「金をとれば、CMだのなんだの引っ張りだこですから。それに……」と言いかけて、後ろにいた連れの男を見上げる。濃い紺色のスーツを着た男。スポンサー企業の担当のようだった。
「うむ」博士は頷いて、後日また来るように日時を指定した。
その日やって来た選手は、すぐに手術台に寝かされて、麻酔注射を打たれた。即効性がある強力なやつだ。選手はすぐさま意識が混濁して気を失った。
目を覚ました選手は、もうろうとする意識を押して起き上がる。フラフラで立ち上がれず、そのまままた手術台に横になった。
しばらくして体調の回復した選手は、自分の四肢をマジマジと見た。これと言って体躯に変化はない。見た目は同じだった。
博士は言った。
「ノミ程ではないが、バッタくらいは飛べるだろうな」
選手は喜び勇んで外に出て、駐車場でウォーミングアップを始めた。しばらくして上下の服を脱ぐ。下にはユニホームを着ていた。
満を持して構える。選手は走り出して、ホップ、ステップ、ジャンプで、力いっぱい跳躍を試みる。眼下には、五階建ての研究所の屋上があった。周りの家々の屋根を見下ろす。
選手は思わず歓喜の声をあげた。
「やった。これなら間違いない。金メダルだ。夢の大舞台で金メダルだ」
ガッツポーズをとって喜びに歯を食いしばる選手は、頭を逆さにして落ちていった。そしてスイカが割られたような音がした。その原因になった物は、スイカと同じようになっていた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説


傷心中の女性のホラーAI話
月歌(ツキウタ)
ホラー
傷心中の女性のホラー話を500文字以内で。AIが考える傷心とは。
☆月歌ってどんな人?こんな人↓↓☆
『嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す』が、アルファポリスの第9回BL小説大賞にて奨励賞を受賞(#^.^#)
その後、幸運な事に書籍化の話が進み、2023年3月13日に無事に刊行される運びとなりました。49歳で商業BL作家としてデビューさせていただく機会を得ました。
☆表紙絵、挿絵は全てAIイラスです
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
赤い部屋
山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。
真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。
東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。
そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。
が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。
だが、「呪い」は実在した。
「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。
凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。
そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。
「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか?
誰がこの「呪い」を生み出したのか?
そして彼らはなぜ、呪われたのか?
徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。
その先にふたりが見たものは——。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる