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シーツの下に蠢く夜話
腫瘍整形
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パトカーの赤いランプが点灯している。ラブホテルのワンフロワ。制服の警察官が配備されたテープで仕切られた一角で、数人の刑事が床に横たわるホトケを見下ろしていた。
視線の先には、下半身が千切れた男の死体が転がっている。
「こりゃひでぇ」刑事が下半身を見て言った。
「おい、身元を洗い出せ」別の刑事が部下に言う。
「はい」
高校時代、ある女子が同じテニス部の大好きな男子に一生懸命つくしていた。
クラスでも部活でもとても人気のある格好良い男子だったから、いつもたくさんの女子に囲まれている。
どうせ彼女もいるのだろうと、この女子は思っていた。目立たないし、暗いし、可愛くないわたしのことだから、告白してもどうせフラれるに決まっている、と決めつけていた。
だけれども、つくしていさえすれば、いつかは想いに気が付いてくれる。性格を好きになってくれるのではないかと、淡い期待を秘めて過ごしていた。
だが、1年経っても2年経っても、大好きな男子は振り向いてくれない。
想いが募って我慢できなくなったこの女子は、高3の3学期に勇気を振り絞って告白した。
想いを寄せていた男子は、醜いものでも見て誹謗中傷した時のような憎たらしい笑みを見せて良い放った。
「何で俺が、お前なんかと!? ブス、話しかけんな!!」
この女子は、こっぴどくフラれた。浴びせられた言葉が信じられず、ラブレターを差し出した両手が固まって動かない。フラれる覚悟はしていたが、まさか、こんな酷いフラれ方をするとは思ってもみなかった。
「どこがダメなの?」彼女は訊いた。
「どこがって、鏡見たことあるのかよ。全部だよ、全部!! 眉も、目も、鼻も、口も、全部なんだよ!! 全部不細工なんだよ」
その日から、この女子は不登校になった。
10年後に開かれた同窓会にも、その女子は出席しなかった。
「聞いた? あの子の話」誰かが言った。
「整形の事でしょ? 知ってる」
「すんごい顔になったらしいよ」
「失敗したんでしょ?」
同疎開の席は、唯一欠席したあの女子のことで持ちきりだった。当時告白された男も、面白おかしく、その話を聞いている。
この男子は学校を卒業すると、あの女子から告白されたことなど、きれいさっぱり忘れてしまっていた。
大学でもモテたため、彼女が途切れたことはない。社会人になってからも毎週合コン三昧で、不特定多数の女性と付き合っている。一夜限りの関係もしばしばだ。
それからまた数年がたった金曜日の夜、いつものように合コンに出席していた男がトイレからでると、廊下ですれ違った女が微笑んだ。目配せをした女を追って、男が振り返ると、女も振り返って立ち止まっている。
とても美人な女だ。
「どこかで会わなかった?」
男が問うと、女が言った。
「そうね、以前、お酒の席であったわ」
「そうか、そうだったね、確かあった気がする」
思い出せなかったが、男は覚えているふりをして、女に近寄る。
「いいの? こんなところにいて。合コンしているんでしょう?」
「構わないさ、だって、あの子たちよりも君の方が魅力的なんだから」
女は、瞳を伏せて笑った。
「うそでも嬉しい」
もう一度瞳をあげて目を合わせ、女はそう言った。そして、抜け出そうと言う女の誘いに、男は乗った。
他愛も無い会話をしながら、夜の繁華街を歩いた。男は何も言わなかったが、この先はホテル街だ。
見ると、女もそれに気が付いている様子である。ホテルのそばで立ち止まって、男が顎で合図を送ると、女もまんざらでもなさそうだ。
軋むベッドの上で、男は女の美しさに違和感を覚えていた。全く自然な美しさではない。二重も鼻も整形しているのだろう。
胸の感触もどことなく硬い。仰向けになれば、胸は普通重力に引かれるものだが、ゴムまりのように形が崩れない。だが、酔った男には、そんなことどうでもよかった。薄暗い部屋で見る作られた妖艶な美しさは、十分に魅力的だ。
そればかりか、この女はとても積極的だった。行為になれているはずの男をリードし、ついには騎上位に持ち込んで、鍛えられた肉体を弄び始める。
夢のような快楽にふけって大分時間が過ぎた時、女の下半身から胸へ向かって舐めるように見上げた男は、驚愕した。なんと、女の顔がブクブクと膨れだしたのだ。
「うわぁあ! 化け物!!」
慌てて逃げ出す男の腕を掴んで、女が言った。
「何で逃げるの? わたし綺麗でしょ? 綺麗でしょ?」
そう呟きながら男を引き戻し、男の両手を取って愛撫を迫る。
「やめろ! 離せ」
ベッドから転げ落ちた男は、浴室にある服を取りに走った。
「来るな! 来るな!」
そう叫びながら、急いで服を着ようとするが、上手く着られない。
ゆっくりと近づく女が言った。
「ひどい、こんなに綺麗になったのに! あなたに捧げたのに!」
段々と女は語気を荒げ始め、ついには狂乱しだす。
「どんなにわたしがあなたを好きでいるか知ってる? 誰よりも好きなのよ!!
どんなにひどく言われても、好きなのよ!! 誰にも渡さない! 渡さないんだから!!」
人間の頭を一飲みに出来るほど大きく口を開けて、萎えた男の下半身を食いちぎった。
「ぎゃーーーー!!」
男は仰向けに倒れて、血が噴き出る股間を抑えて、泣き叫んでいる。
「これで浩哉君はわたしの物♡」
女は恍惚の笑みを浮かべている。食いちぎったモノを味わいながら、顔をかきむしり始めた。
「はあはあ、何度も何度も噛んでいると、だんだん興奮してくる」
かきむしる指の動きは、徐々に激しさを増していく。血が出てきた。
「痒い痒い痒い痒い!!」
どんどんと膨らんでいく頭は、ついに破裂してしまった。
噴水のような血しぶきを上げて、女は仰向けに倒れて死んだ。
高校を卒業してから、この女はアルバイトでお金を溜めては、美容整形を繰り返した。しかし、いくら整形しても、美神だと言われても、満足する気配を見せなかった。
1000万円以上費やしても飽き足らず、大人になってからも整形を続けていた。病的なまでに整形手術に固執していたのだ。
もはや欲望は留まることを知らず、目が嫌、頬が嫌、鼻が嫌、唇が嫌、全部嫌。何度も何度も同じ個所を繰り返し整形して続けた。顔への不満が止まらない。
そして、満足を得られぬまま、女は姿を消した。そして、同窓会で噂されるだけの存在になった。
警察が駆けつけた時、女の死体は無かった。
女は顔の疼きをおさめるために、次の男を探している。
視線の先には、下半身が千切れた男の死体が転がっている。
「こりゃひでぇ」刑事が下半身を見て言った。
「おい、身元を洗い出せ」別の刑事が部下に言う。
「はい」
高校時代、ある女子が同じテニス部の大好きな男子に一生懸命つくしていた。
クラスでも部活でもとても人気のある格好良い男子だったから、いつもたくさんの女子に囲まれている。
どうせ彼女もいるのだろうと、この女子は思っていた。目立たないし、暗いし、可愛くないわたしのことだから、告白してもどうせフラれるに決まっている、と決めつけていた。
だけれども、つくしていさえすれば、いつかは想いに気が付いてくれる。性格を好きになってくれるのではないかと、淡い期待を秘めて過ごしていた。
だが、1年経っても2年経っても、大好きな男子は振り向いてくれない。
想いが募って我慢できなくなったこの女子は、高3の3学期に勇気を振り絞って告白した。
想いを寄せていた男子は、醜いものでも見て誹謗中傷した時のような憎たらしい笑みを見せて良い放った。
「何で俺が、お前なんかと!? ブス、話しかけんな!!」
この女子は、こっぴどくフラれた。浴びせられた言葉が信じられず、ラブレターを差し出した両手が固まって動かない。フラれる覚悟はしていたが、まさか、こんな酷いフラれ方をするとは思ってもみなかった。
「どこがダメなの?」彼女は訊いた。
「どこがって、鏡見たことあるのかよ。全部だよ、全部!! 眉も、目も、鼻も、口も、全部なんだよ!! 全部不細工なんだよ」
その日から、この女子は不登校になった。
10年後に開かれた同窓会にも、その女子は出席しなかった。
「聞いた? あの子の話」誰かが言った。
「整形の事でしょ? 知ってる」
「すんごい顔になったらしいよ」
「失敗したんでしょ?」
同疎開の席は、唯一欠席したあの女子のことで持ちきりだった。当時告白された男も、面白おかしく、その話を聞いている。
この男子は学校を卒業すると、あの女子から告白されたことなど、きれいさっぱり忘れてしまっていた。
大学でもモテたため、彼女が途切れたことはない。社会人になってからも毎週合コン三昧で、不特定多数の女性と付き合っている。一夜限りの関係もしばしばだ。
それからまた数年がたった金曜日の夜、いつものように合コンに出席していた男がトイレからでると、廊下ですれ違った女が微笑んだ。目配せをした女を追って、男が振り返ると、女も振り返って立ち止まっている。
とても美人な女だ。
「どこかで会わなかった?」
男が問うと、女が言った。
「そうね、以前、お酒の席であったわ」
「そうか、そうだったね、確かあった気がする」
思い出せなかったが、男は覚えているふりをして、女に近寄る。
「いいの? こんなところにいて。合コンしているんでしょう?」
「構わないさ、だって、あの子たちよりも君の方が魅力的なんだから」
女は、瞳を伏せて笑った。
「うそでも嬉しい」
もう一度瞳をあげて目を合わせ、女はそう言った。そして、抜け出そうと言う女の誘いに、男は乗った。
他愛も無い会話をしながら、夜の繁華街を歩いた。男は何も言わなかったが、この先はホテル街だ。
見ると、女もそれに気が付いている様子である。ホテルのそばで立ち止まって、男が顎で合図を送ると、女もまんざらでもなさそうだ。
軋むベッドの上で、男は女の美しさに違和感を覚えていた。全く自然な美しさではない。二重も鼻も整形しているのだろう。
胸の感触もどことなく硬い。仰向けになれば、胸は普通重力に引かれるものだが、ゴムまりのように形が崩れない。だが、酔った男には、そんなことどうでもよかった。薄暗い部屋で見る作られた妖艶な美しさは、十分に魅力的だ。
そればかりか、この女はとても積極的だった。行為になれているはずの男をリードし、ついには騎上位に持ち込んで、鍛えられた肉体を弄び始める。
夢のような快楽にふけって大分時間が過ぎた時、女の下半身から胸へ向かって舐めるように見上げた男は、驚愕した。なんと、女の顔がブクブクと膨れだしたのだ。
「うわぁあ! 化け物!!」
慌てて逃げ出す男の腕を掴んで、女が言った。
「何で逃げるの? わたし綺麗でしょ? 綺麗でしょ?」
そう呟きながら男を引き戻し、男の両手を取って愛撫を迫る。
「やめろ! 離せ」
ベッドから転げ落ちた男は、浴室にある服を取りに走った。
「来るな! 来るな!」
そう叫びながら、急いで服を着ようとするが、上手く着られない。
ゆっくりと近づく女が言った。
「ひどい、こんなに綺麗になったのに! あなたに捧げたのに!」
段々と女は語気を荒げ始め、ついには狂乱しだす。
「どんなにわたしがあなたを好きでいるか知ってる? 誰よりも好きなのよ!!
どんなにひどく言われても、好きなのよ!! 誰にも渡さない! 渡さないんだから!!」
人間の頭を一飲みに出来るほど大きく口を開けて、萎えた男の下半身を食いちぎった。
「ぎゃーーーー!!」
男は仰向けに倒れて、血が噴き出る股間を抑えて、泣き叫んでいる。
「これで浩哉君はわたしの物♡」
女は恍惚の笑みを浮かべている。食いちぎったモノを味わいながら、顔をかきむしり始めた。
「はあはあ、何度も何度も噛んでいると、だんだん興奮してくる」
かきむしる指の動きは、徐々に激しさを増していく。血が出てきた。
「痒い痒い痒い痒い!!」
どんどんと膨らんでいく頭は、ついに破裂してしまった。
噴水のような血しぶきを上げて、女は仰向けに倒れて死んだ。
高校を卒業してから、この女はアルバイトでお金を溜めては、美容整形を繰り返した。しかし、いくら整形しても、美神だと言われても、満足する気配を見せなかった。
1000万円以上費やしても飽き足らず、大人になってからも整形を続けていた。病的なまでに整形手術に固執していたのだ。
もはや欲望は留まることを知らず、目が嫌、頬が嫌、鼻が嫌、唇が嫌、全部嫌。何度も何度も同じ個所を繰り返し整形して続けた。顔への不満が止まらない。
そして、満足を得られぬまま、女は姿を消した。そして、同窓会で噂されるだけの存在になった。
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