ホラー短編集

緒方宗谷

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シーツの下に蠢く夜話

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 ある日の夜に男は目を覚めた。男の話し声が聞こえる。ロシア語のようだ。その日は眠くて放っておいたが、毎日毎日聞こえるようになった。
 男は窓から外を窺ったが誰もいない。1人暮らしだから、家の中には自分しかいない。ラジオはついていないし、テレビもついていない。だが、毎日そのロシア語は聞こえた。

「誰か……いるんですか?」

 横になったまま勇気を振り絞って男が訊いてみると、突然そのロシア語は聞こえなくなった。
 その日一晩聞こえなかったが、次の日からまた聞こえる。夜になると必ず聞こえた。
 よく聞いていると、その声は誰かと会話をしているようだ。2人か3人いるが、1人が一方的に話している。
 毎日聞いていると、だんだんと聞いているのが楽しくなってきた。ロシアのパインを使った家だから、外国の妖精を連れてきたのかと思うようになったからだ。男は、このロシア語を子守唄にして寝るようになった。
 3月に竣工して数か月したある日、遂にもう1人の声が聞こえるようになった。2、3人だとは思っていたが、2人だった。しかし、同時にバサバサバサという音が毎晩聞こえるようになった。
 この音に慣れることの出来なかった男は、聞こえる度に電気をつけたが、音の主は分からない。
 何日も音に起こされては電気をつけて探し回り、見つからずにまた消して寝ていた。
 しばらくしたある日、遂に音の主を発見した。
 手のひら大の大きな蛾が2匹、寝室を飛び回っている。悍ましい気持ちになって、急いで殺虫剤を持ってきた男は、2匹の蛾に狙いを定めて噴射した。
 バサバサバサとのた打ち回る蛾が死ぬのを待って、男はトイレットペーパーでくしゃくしゃに包んで、窓から捨てた。
 その日以来、ロシア語は聞こえなくなった。
 男が住んでいる家は、ロシアで角ログに加工されてから日本に持ち込まれたものだった。輸入時にたまたま蛾の卵がついていて、それが孵化したのだろう。
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