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モモタとママと虹の架け橋
第百二十四話 トラウマはトラと馬じゃないよ
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モモタたちは、風を切って高速道路を走る観葉植物を乗せたトラックの荷台に乗っていました。
祐ちゃんのお家に戻った時のように人間のふりをして新幹線に乗ってしまえば良かったのに、どうしてなのでしょう。実は、この間乗った新幹線で一悶着あったので、乗るのはもうコリゴリなのでした。
あの日、実はこんなことがあったのです。
帰巣本能を発揮したモモタは、東京にある上野駅が祐ちゃんのお家に近い駅だと感じて、そこで下りることにしました。ですが、上野駅の新幹線ホームは地下にあるので、カンタンたちは空に飛び立つことが出来ません。しかも、ウロウロしている間に乗車しようとする乗客とぶつかって、カンタンが転んでしまいました。
潰されてはたまらないと飛び立ったアゲハちゃんに、人々の注目が集まりました。その下には、かぶっていた帽子が落ちています。トレンチコートの裾がめくれていました。カンタンの長いくちばしとお尻と足が丸見えです。
地面に叩きつけられてびっくりしたモモタとチュウ太が、カンタンの口の中から慌てて這い出てきました。それを見たホームにいた人々は大絶叫。
その悲鳴で怖くなったのでしょうか。カンタンの背中にいたキキが、大慌てでトレンチコートの中から出てきて、間髪入れずに飛び立ちました。一人の人間がばらけて色々な動物に分裂していくそのさまに、その場にいた人たちは大パニック。その声でモモタたちも大パニック。人間よりも身長の高いカンタンまで飛び立つ始末でしたから、大騒ぎとなりました。
キキとカンタンは空を探しましたが、どこにもありません。チュウ太は、ホームの下に逃げて隠れてしまいました。アゲハちゃんは、柱の上のほうにとまって難を逃れたようです。
困ったのはモモタでした。チュウ太と一緒に隠れてしまいたかったのですが、キキとカンタンを見捨てるわけにもいきません。そもそも、ホームからどうやって外に出られるか分かりませんし、もともとの予定はお空に飛んで逃げる、というものでしたから、キキとカンタンの動向を見守る必要があったのです。
二羽が、外へと繋がる道を見つけてくれさえすれば、自分の跳躍力で外に出る自信もありました。
人間になれているモモタでさえ怯えているのですから、ほとんど人間に会ったことのないキキとアゲハちゃんは、とても怖かったでしょう。しかも空も見えない地下のホーム。恐怖は極限にまで達している様子でした。
キキは、人間たちの刺すような視線に耐えられないのでしょう。捕まえようとする駅員さんから、叫びながら逃げ回っています。人間に免疫のあるカンタンでさえ、慌てふためいて飛び回っていました。
モモタは、長いエスカレーターを見つけて叫びました。
「みんな、動く階段があるよ。上の階に行けるから、もしかしたら窓があるかもしれないよ」
その声を聞いて、Uターンしてきたカンタンが、真っ先に階上目指してエスカレーターの上を飛んでいきます。キキは、柱から舞い上がったアゲハちゃんを見つけて背中にとまらせました。その間に、ホームの上に上がってきたチュウ太をモモタがくわえます。
チュウ太をくわえてエレベーターを駆けあがるモモタと共に、キキも一緒に階上へと飛んでいきました。それでも難儀は過ぎ去りません。まだまだ地下だったのです。階下と同じように人間たちが大パニックになる中を、モモタたちはエスカレーターを見つけ出して、さらに階上へと急ぎました。
そしてようやく一階まで上がってくると、一目散に改札に向かいます。みんな外が見えていたわけではありませんが、改札がある方向に外がある、と本能的に察したのでしょう。においや風の流れでそう気がつけたのかもしれません。
ですが、外に出たら出たで大変でした。大量の車は行き交っているわ、たくさんの人がいるわ、けたたましい音が鳴り響いているわ、猛獣たちの匂いは漂ってくるわで、みんな戦々恐々です。
しかも、コンクリートに囲まれた大都会でしたから、カンタンのように大きな鳥は大変目立ちました。瞬く間にみんなの大注目を浴びてしまいます。
カンタンは、モモタたちを地に残して上空を旋回していました。どうしていいか分からないのでしょう。飛んでいくことも戻ってくることも出来ずに、延々と道路に囲まれた広場の上を飛び続けています。みんなのもとに戻りたそうにもしていますが、怖くて怖くて戻ってくることも出来ない様子です。
キキが飛んでいって言いました。
「カンタン、落ち着いて。ほらあそこに小さな林があるだろう? 見て、線路の向こう。とりあえず向こうに行こう」
キキは、カンタンを優しく誘導して、とある公園のほうに飛んでいきます。それを見たモモタは、チュウ太をくわえたままついていきました。
さすがにモモタは、珍しくもないただの茶トラ猫でしたから、外に出てしまえば人間の関心を買うことはありません。誰一人として、モモタに興味の眼差しを向ける者はいませんでした。
モモタが線路を横断して、ある美術館の林に入りましたが、キキもカンタンも見当たりません。どうしたんだろう、とモモタがチュウ太と一緒にキョロキョロしていると、アゲハちゃんが飛んできて言いました。
「モモちゃん、モモちゃん、むこうに動物がたくさん住んでいるお家があるの。カンタンがそっちのほうに飛んでいってしまったから、キキは追いかけていったわ」
チュウ太がモモタに言います。
「ここはだいぶ自然が多いけど、人でごった返してるね。野生の人間もいるんだな」
「本当だね。たまにいるけど、ほとんどの人間は森の中や水の中では生活できないのかと思ってた。けど違うんだね」
アゲハちゃんが言いました。
「本当は、人間も森の中で生活したいのよ。だって、みんなハイキングに来て楽しんでいるでしょう?」
そこに、キキが戻ってきました。
「なんの話をしてるの?」アゲハちゃんに訊きました。
「人間は、本当は自然の中で生活したいんじゃないかなって」
チュウ太が付け加えます。
「自然の中で生活したければすればいいのに。なにも、石ばかりでやかましいところに住んでいなくてもいいのにさ」
すると、キキが言いました。
「ムリだよ。人間の体は大きいけれど、そんなに強いわけではないからね。この大冒険でそう思うようになったよ。だって、ツキノワグマのほうが小さいけど、人間より強いんじゃないかな」
モモタが言います。
「でも、クマさんは人間を怖がってる様子だよ」
「人間のほうが頭がいいからさ。力で勝てても頭で負けるから怖いんだ」
「なら、頭のよさを使って森に住めるんじゃないの?」とアゲハちゃんが訊きます。
「どんなに頭がよくても、誰も近寄ってこなければ、頭のよさは発揮できないだろう? そうなったらごはんが獲れないよ。人間は、ごはんを怯えさせる声で吠えられないし、爪も牙もないじゃない? 足だって遅いよ。だから、森の中では生活できないんだ」
みんなとカンタンのいる動物園に向かいながら、モモタが話し始めました。
「でも、石ばかりの中で生活できるなんてすごいね。それなのにごはんに困っている様子もないし。僕たち猫や他のたくさんの動物と一緒に生活してるんだよ。チュウ太だってそうでしょう?」モモタがチュウ太を見やります。
「ん? ああ、そうだね。僕の場合は許可取ってないけどね(笑)」
さすがは動物園です。来園していた動物大好きっ子のみんなは、珍しいオオタカのキキに興味津々で、とても温かい眼差しを向けてくれました。カンタンにも怯える様子を見せずに、一緒に写真を撮ったりしています。
カンタンは動物園生まれでしたから、動物のことが好き好き大好きな人間の優しさを知っていました。ですから、とてもリラックスしているようでした。
「やっと来たのかい? モモタ」カンタンが翼を広げます。「さあ、ここからどう飛んでいけば、祐ちゃんのお家に行けるのかな? 新幹線と違ってここは大空がいっぱいだから、どこへだって飛んでいけるよ」
そう言えば――と思い出したモモタが辺りを見渡します。
「あっちのほう」
そう言って鼻先を向けました。
「よおぅーし! それじゃあさっそく出発だー」
カンタンが掛け声をかけて、モモタをお口に誘います。少し翼を羽ばたかせてウォーミングアップをしたカンタンは、意気揚々と飛び立ちました。
みんなはすぐに祐ちゃんの家に辿り着けるものと思っていましたが、動物園からだいぶ長い時間を飛ぶ破目になりました。
――そのような顛末があったので、モモタたちは、もう新幹線はコリゴリだと思って、車で大冒険へと復帰することにしたのでした。
祐ちゃんのお家に戻った時のように人間のふりをして新幹線に乗ってしまえば良かったのに、どうしてなのでしょう。実は、この間乗った新幹線で一悶着あったので、乗るのはもうコリゴリなのでした。
あの日、実はこんなことがあったのです。
帰巣本能を発揮したモモタは、東京にある上野駅が祐ちゃんのお家に近い駅だと感じて、そこで下りることにしました。ですが、上野駅の新幹線ホームは地下にあるので、カンタンたちは空に飛び立つことが出来ません。しかも、ウロウロしている間に乗車しようとする乗客とぶつかって、カンタンが転んでしまいました。
潰されてはたまらないと飛び立ったアゲハちゃんに、人々の注目が集まりました。その下には、かぶっていた帽子が落ちています。トレンチコートの裾がめくれていました。カンタンの長いくちばしとお尻と足が丸見えです。
地面に叩きつけられてびっくりしたモモタとチュウ太が、カンタンの口の中から慌てて這い出てきました。それを見たホームにいた人々は大絶叫。
その悲鳴で怖くなったのでしょうか。カンタンの背中にいたキキが、大慌てでトレンチコートの中から出てきて、間髪入れずに飛び立ちました。一人の人間がばらけて色々な動物に分裂していくそのさまに、その場にいた人たちは大パニック。その声でモモタたちも大パニック。人間よりも身長の高いカンタンまで飛び立つ始末でしたから、大騒ぎとなりました。
キキとカンタンは空を探しましたが、どこにもありません。チュウ太は、ホームの下に逃げて隠れてしまいました。アゲハちゃんは、柱の上のほうにとまって難を逃れたようです。
困ったのはモモタでした。チュウ太と一緒に隠れてしまいたかったのですが、キキとカンタンを見捨てるわけにもいきません。そもそも、ホームからどうやって外に出られるか分かりませんし、もともとの予定はお空に飛んで逃げる、というものでしたから、キキとカンタンの動向を見守る必要があったのです。
二羽が、外へと繋がる道を見つけてくれさえすれば、自分の跳躍力で外に出る自信もありました。
人間になれているモモタでさえ怯えているのですから、ほとんど人間に会ったことのないキキとアゲハちゃんは、とても怖かったでしょう。しかも空も見えない地下のホーム。恐怖は極限にまで達している様子でした。
キキは、人間たちの刺すような視線に耐えられないのでしょう。捕まえようとする駅員さんから、叫びながら逃げ回っています。人間に免疫のあるカンタンでさえ、慌てふためいて飛び回っていました。
モモタは、長いエスカレーターを見つけて叫びました。
「みんな、動く階段があるよ。上の階に行けるから、もしかしたら窓があるかもしれないよ」
その声を聞いて、Uターンしてきたカンタンが、真っ先に階上目指してエスカレーターの上を飛んでいきます。キキは、柱から舞い上がったアゲハちゃんを見つけて背中にとまらせました。その間に、ホームの上に上がってきたチュウ太をモモタがくわえます。
チュウ太をくわえてエレベーターを駆けあがるモモタと共に、キキも一緒に階上へと飛んでいきました。それでも難儀は過ぎ去りません。まだまだ地下だったのです。階下と同じように人間たちが大パニックになる中を、モモタたちはエスカレーターを見つけ出して、さらに階上へと急ぎました。
そしてようやく一階まで上がってくると、一目散に改札に向かいます。みんな外が見えていたわけではありませんが、改札がある方向に外がある、と本能的に察したのでしょう。においや風の流れでそう気がつけたのかもしれません。
ですが、外に出たら出たで大変でした。大量の車は行き交っているわ、たくさんの人がいるわ、けたたましい音が鳴り響いているわ、猛獣たちの匂いは漂ってくるわで、みんな戦々恐々です。
しかも、コンクリートに囲まれた大都会でしたから、カンタンのように大きな鳥は大変目立ちました。瞬く間にみんなの大注目を浴びてしまいます。
カンタンは、モモタたちを地に残して上空を旋回していました。どうしていいか分からないのでしょう。飛んでいくことも戻ってくることも出来ずに、延々と道路に囲まれた広場の上を飛び続けています。みんなのもとに戻りたそうにもしていますが、怖くて怖くて戻ってくることも出来ない様子です。
キキが飛んでいって言いました。
「カンタン、落ち着いて。ほらあそこに小さな林があるだろう? 見て、線路の向こう。とりあえず向こうに行こう」
キキは、カンタンを優しく誘導して、とある公園のほうに飛んでいきます。それを見たモモタは、チュウ太をくわえたままついていきました。
さすがにモモタは、珍しくもないただの茶トラ猫でしたから、外に出てしまえば人間の関心を買うことはありません。誰一人として、モモタに興味の眼差しを向ける者はいませんでした。
モモタが線路を横断して、ある美術館の林に入りましたが、キキもカンタンも見当たりません。どうしたんだろう、とモモタがチュウ太と一緒にキョロキョロしていると、アゲハちゃんが飛んできて言いました。
「モモちゃん、モモちゃん、むこうに動物がたくさん住んでいるお家があるの。カンタンがそっちのほうに飛んでいってしまったから、キキは追いかけていったわ」
チュウ太がモモタに言います。
「ここはだいぶ自然が多いけど、人でごった返してるね。野生の人間もいるんだな」
「本当だね。たまにいるけど、ほとんどの人間は森の中や水の中では生活できないのかと思ってた。けど違うんだね」
アゲハちゃんが言いました。
「本当は、人間も森の中で生活したいのよ。だって、みんなハイキングに来て楽しんでいるでしょう?」
そこに、キキが戻ってきました。
「なんの話をしてるの?」アゲハちゃんに訊きました。
「人間は、本当は自然の中で生活したいんじゃないかなって」
チュウ太が付け加えます。
「自然の中で生活したければすればいいのに。なにも、石ばかりでやかましいところに住んでいなくてもいいのにさ」
すると、キキが言いました。
「ムリだよ。人間の体は大きいけれど、そんなに強いわけではないからね。この大冒険でそう思うようになったよ。だって、ツキノワグマのほうが小さいけど、人間より強いんじゃないかな」
モモタが言います。
「でも、クマさんは人間を怖がってる様子だよ」
「人間のほうが頭がいいからさ。力で勝てても頭で負けるから怖いんだ」
「なら、頭のよさを使って森に住めるんじゃないの?」とアゲハちゃんが訊きます。
「どんなに頭がよくても、誰も近寄ってこなければ、頭のよさは発揮できないだろう? そうなったらごはんが獲れないよ。人間は、ごはんを怯えさせる声で吠えられないし、爪も牙もないじゃない? 足だって遅いよ。だから、森の中では生活できないんだ」
みんなとカンタンのいる動物園に向かいながら、モモタが話し始めました。
「でも、石ばかりの中で生活できるなんてすごいね。それなのにごはんに困っている様子もないし。僕たち猫や他のたくさんの動物と一緒に生活してるんだよ。チュウ太だってそうでしょう?」モモタがチュウ太を見やります。
「ん? ああ、そうだね。僕の場合は許可取ってないけどね(笑)」
さすがは動物園です。来園していた動物大好きっ子のみんなは、珍しいオオタカのキキに興味津々で、とても温かい眼差しを向けてくれました。カンタンにも怯える様子を見せずに、一緒に写真を撮ったりしています。
カンタンは動物園生まれでしたから、動物のことが好き好き大好きな人間の優しさを知っていました。ですから、とてもリラックスしているようでした。
「やっと来たのかい? モモタ」カンタンが翼を広げます。「さあ、ここからどう飛んでいけば、祐ちゃんのお家に行けるのかな? 新幹線と違ってここは大空がいっぱいだから、どこへだって飛んでいけるよ」
そう言えば――と思い出したモモタが辺りを見渡します。
「あっちのほう」
そう言って鼻先を向けました。
「よおぅーし! それじゃあさっそく出発だー」
カンタンが掛け声をかけて、モモタをお口に誘います。少し翼を羽ばたかせてウォーミングアップをしたカンタンは、意気揚々と飛び立ちました。
みんなはすぐに祐ちゃんの家に辿り着けるものと思っていましたが、動物園からだいぶ長い時間を飛ぶ破目になりました。
――そのような顛末があったので、モモタたちは、もう新幹線はコリゴリだと思って、車で大冒険へと復帰することにしたのでした。
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