猫のモモタ

緒方宗谷

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モモタとママと虹の架け橋

第百十九話 新しい首輪

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 祐ちゃんのお部屋で遊び疲れたモモタは少し落ち着いてきて、不意に祐ちゃん危篤のお話を思い出しました。そばにいたさゆりちゃんに振り向いて、まくしたてます。

 「そうだ、祐ちゃんが病気だって聞いて、急いで飛んで走って戻ってきたんだ。車にも轢かれて、屋根から落ちて、お家からも追い出されたって聞いて、心配してたんだよ」

 さゆりちゃんは、はてな? と首を傾げます。

 「わたしは、祐ちゃんがお風邪だから、モモちゃんと一緒にいるアゲハちゃんに、美味しい蜜をお土産に持ってきてって頼んだだけよ?」

 「ええ~? そうなの~??」モモタはびっくり。

 そこに、「きゃぁー」という祐ちゃんママの叫び声が、外から聞こえました。

 モモタを抱きかかえていた祐ちゃんが、窓からお庭を覗いてみると、祐ちゃんママより背の高い大きな鳥がいるではありませんか。しかもタカとネズミと大きな揚羽蝶がいます。

 祐ちゃんは興奮して、急いでお庭に下りていきました。

 「凄い、凄い! 何この鳥? ほんとに鳥ー!?」

 怯える祐ちゃんママをしり目に、祐ちゃんは楽しそう。

 そんな祐ちゃんに、カンタンがご挨拶。

 「初めまして、僕カンタンだよ」

 そう言って、祐ちゃんのホッペやTシャツを甘噛みします。

 祐ちゃんはびっくりしながらも喜んでカンタンに抱きつき、わしゃわしゃわしゃー、と撫でまわしました。

 チュウ太が、舞い飛んでいたさゆりちゃんに訊きました。

 「祐ちゃんピンピンしてるじゃない。僕たち祐ちゃんが死にかけてるって聞いて戻ってきたのに」

 チュウ太とキキは、さゆりちゃんに説明を求めます。

 「死にかけてる? わたしそんなこと言っていないわよ」

 キキは呆れました。

 「誰? 病気になって、車に轢かれて、屋根から落ちて、お家から追い出されて死にかけているなんて言ったのは?」

 確かにちょっと体調が悪かった時期はあったようですが、ただの風邪だったようです。

 「きゃっきゃ」とはしゃぐ祐ちゃんに、「タカだー! 格好良いー!」と叫ばれてもみくしゃにされながらぼやいたキキに、さゆりちゃんが説明してあげました。

 「蝶々の言伝は、9割引きで聞かなきゃダメよ」

 アゲハちゃんもその通りだと頷きます。

 「どうして?」

 そう訊くキキに、アゲハちゃんが言いました。

 「だって色々な蝶々を介して伝わってくるんだもの、伝言が伝わっていく途中で色々変わっていくのは当たり前よ」

 アゲハちゃんとさゆりちゃんは顔を見合わせて、笑顔で「ねー」と一緒に言いました。

 キキが、「アゲハちゃんは分かってて黙っていたのか」とつっこみます。

 「別に元の内容を知っていたわけではないわよ。だいぶ違うんだろーなーって思っただけ」

 そう笑うアゲハちゃんに、キキが呆れて言いました。「…言えよ」って。

 アゲハちゃんは、「じゃあ訊きなさいよ。ぷんぷん」と怒ります。

 モモタは、「まあまあまあ」と二匹をなだめました。

 チュウ太を前にたじろぐ祐ちゃんママでしたが、モモタのお友達だと察したのか、退治しようとはしてきません。

 みんなは祐ちゃんに招かれて、祐ちゃんのお部屋に遊びに行きました。

 お部屋にはベージュのカーペットが敷いてあってベッドと勉強机がありました。まんがと図鑑ばかりが並んだ本棚があって、タンスの上には、格好良いプラモデルが並んでいます。

 部屋に入るなり、チュウ太は気がついて言いました。

 「なあ、あれ見てよ、あれ虹の雫じゃないか?」

 祐ちゃんの机の上を見ると、蓋の隙間から赤く輝く光が漏れる小さな箱が置いてありました。

 虹の雫そのものが見えていたわけではありません。ですが、今まで五つも集めてきたのです。ですからみんなには、その光が虹の雫が発するものだとすぐに分かりました。

 モモタは祐ちゃんの机のそばに駆けていって、「にゃあにゃあ」鳴いておねだりします。

 祐ちゃんは、頬をほころばせて言いました。

「あ、これ、とてもきれいでしょう?」そう言って、モモタを机の上に抱き上げます。そして、箱のふたを開けてくれました。

 眩い光が、部屋全体を照らします。みんな眩しくて、目を閉じました。しばらくして目をあげた祐ちゃんが、モモタに語りかけました。

 「僕、モモタのためにこれを使った新しい首輪を作っているんだ」

 みんなで覗き込んだ箱の中には、涙型をした赤色の宝石が入っています。間違いありません。虹の雫発見です。

 祐ちゃんは椅子に座って、何やら準備を始めました。

 「こないだね、デパートみたいに大きなホームセンターで、これを買ってきたんだ」

 そう言いながら、お店の袋をひっくり返して、中身を机の上に出しました。見ると、小さなバックルと、エノキダケの頭のような形とドーナツ型の小さな黒い金属、先の凹んだ鉄の棒に、小さなトンカチです。

 一体何に使うのでしょう。

 祐ちゃんは、首を傾げるみんなに説明してくれました。

 「これを使って、僕、モモタに新しい首輪を作ってあげようと思っていたんだ」

 おんなじお店の別の袋を手に取って、中に入っていた赤い首輪をモモタに見せます。

 とても嬉しくなったモモタは、顔を華やかせて祐ちゃんを見上げ、「にゃ~ん」と何度もお礼を言います。嬉しさを鳴き声で伝えきれなくて、全身を使って祐ちゃんにすり寄りました。

 気持ちは祐ちゃんに伝わったようです。

 祐ちゃんは言いました。

 「嬉しい? 待ってて、今から作ってあげるから」

 そう言いながら、首輪に添付されていた『皮細工の作り方』と書かれた小さなポケットガイドを広げて、難しそうな文字と睨めっこ。何度もポケットガイドと机に広げた道具を交互に見やっています。

 祐ちゃんは、どう首輪を作っていけばいいか、段取りを理解しようとしているようです。分からない様子でしたが、しばらくしてモモタに言いました。

 「僕ね、あるお話をクラスメイトの颯花(ふうか)ちゃんから聞いたんだ。覚えてる? 前にその紋白蝶が頭にとまって、リボンみたいになった女の子。あの子から『宝石懸想』(ほうせきけそう)って物語を聞いて、これを作ることを思いついたの」

 そうして祐ちゃんは、『宝石懸想』を話して聞かせてくれました。






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