猫のモモタ

緒方宗谷

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モモタとママと虹の架け橋

第百十七話 どの道を進むべきかは、結果と同じくらい大事

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 モモタは、居ても立ってもいられませんでした。なんせ、大好きな祐ちゃんが危篤だという知らせを聞いたのですから。お家まで陸続きでないにもかかわらず、モモタは慌てて走って帰ろうとします。

 それを見てチュウ太が、モモタのしっぽを引っ張って止めました。

 「ちょっと待ってよ。虹の雫はどうするんだい? 目と鼻の先にあるんだよ。先に取りに行こうよ。このままじゃ焼けてなくなっちゃうぞ」

 「そうよ」とアゲハちゃんも言いました。「もうあと二つだけなのよ。あと二つ集めれば、モモちゃんはママに会えるでしょう? それからでも遅くないんじゃないかしら。

  モモちゃんは、ずっとママに会うことを願ってきたのよ。それがもうすぐ叶うのに、虹の雫を諦めてしまうなんて、捨ててしまうのとおんなじだわ。そんなことをして、祐ちゃんは喜ぶかしら? もしこのことを知ったら、『僕のせいでモモちゃんが不幸になった』って悲しむんじゃないかしら」

 チュウ太が、モモタの前に立ちはだかります。

 「僕もここに残るべきだと思うよ。モモタは強い決意を持ってここまで大冒険を続けてきたんだ。だから、更に強い決意も持ってここに踏み止まるべきだよ。そして、前に進むべきなんだ。

  モモタは、たくさん旅行してきたな中で、時々お家には帰っていたんだろ? その度にまた旅行に出ていたんだ。でも祐ちゃんは止めなかった。一緒にいたいはずなのに、止めなかったんだよ。それは、旅行がモモタにとってとても大切なことだって分かっていたからじゃないかな。

  確かに今祐ちゃんは大変な事態に巻き込まれてるかもしれないけど、祐ちゃんは祐ちゃんで頑張ってるんだ。祐ちゃんだけじゃない。僕たちだって頑張ってきたんだよ。モモタの夢を叶えさせてあげようって。その気持ちも大切にしておくれよ。

  モモタが本当に幸せになってくれなきゃ、僕たちは報われない。モモタに再会しても、モモタが幸せじゃなかったら、祐ちゃんも報われないよ」

 キキも、モモタは残るべきだという考えを持っていました。

 「どんなにつらくても、今は進むべきだと思う。僕たちは知っているじゃないか。七色の少女も、虹の雫のお話も、イルカとジュゴンの物語も、ジュエリー・マーメイドも、全部悲しい結末の物語だったけれど、でもその悲しみの先には幸せが待っているんだって。それを信じられたじゃないか。

  もしかしたら、君と祐ちゃんは永延に別れてしまうことになるかもしれないけど、その先にある幸せを手に入れられるかどうかが、真実の愛情なんじゃないかな。

  僕たちが聞いてきたお話は、長い長い歴史の中で起こったことでしょ? 何百年、何千年って時の彼方で起こった出来事だよ。でも彼らの愛情は色あせていない。途切れず今まで語り継がれてきた。ニーラのように愛情の結晶が今も王子と姫の愛の巣を守っているように、どこかの西の海で、アルトゥールから生まれたサンゴ礁も誰かに守られてるんじゃないかな。

  生と死は愛を別つものではない。それは、どのお話にも共通することだよ。当然、モモタと祐ちゃんの愛情も別れることはないだろうね。そして永遠に残るんだ。そこにママとの愛情も加えるんだよ。真心はもっと光り輝いて、大きくなるんじゃないかな。

  僕たちとの友情も加えるんだ。いつかこういう話が出たことがあったじゃない。愛情は無限だけど僕たちは永遠じゃないから、無限の愛情を有限の形に収めなければならないって。僕たちの大冒険の物語も完結させなければならない。そうすることで、僕たちが理解できる永遠性を持たせなければならないと思うんだ」

 モモタは、静かにみんなの意見を聞いていました。そして、迷いもせずに言いました。

 「ありがとう、みんな。みんなの友情は何にも代えがたい大切なものだよ。いつかは、この物語も完結させないといけないと思う。だけれけども、僕の考えてるエンディングは違うんだ。もう少し長いお話になると思うけれど、一緒に見て、聞いてほしい。

  確かに僕は、ママに会いたくて冒険の旅に出ることを決意したけど、目的だけが大切なことじゃないと思う。その目的に向かうまでの道のりにも同じくらい大切なものがあるんだと思う。

  それに、僕はママに会いたいと思ってるけど、その気持ちよりも祐ちゃんの命のほうが大切だもん。もちろんママへの気持ちも、祐ちゃんへの気持ちやみんなへの気持ちと同じくらい大切だけど、会いたいって気持ちは二の次。だから、ママには会いたいけれど、でも代わりに祐ちゃんを失うなんて嫌だよ」

 チュウ太が、「そこを堪えて前に突き進むのが男だぞ」と発破をかけました。

 「なら、男になれなくてもいいよ。僕、祐ちゃんを助けたい。もし虹の雫がなくなったのなら、虹に頼らずに、自分でママを探し出すよ。だって生きていれば、いつか必ず見つけられるもん。

  でも、祐ちゃんが死んじゃったら、もう二度と会えないでしょ。そんなのやだよ」

 それを聞いて、みんなは静まり返ります。その沈黙を破って、チュウ太は笑いました。

 「そうだな…それでこそ男だ。自分の望みを諦めてでも、親友を守ろうとする友情の心は、何にも代えがたいんだ」

 アゲハちゃんが、話しに割って入ります。

 「モモちゃんは諦めていないわ」

 「そうだ、そうだね」チュウ太が言います。「モモタは男の中の男だ。よーし、祐ちゃん助けに向かって特攻だー」

 盛り上がるチュウ太に、キキが言いました。

 「でもどうやって帰るんだ? だいたいの方向しか分からないのに」

 満を持してカンタンが口を開きます。

 「そこは僕の出番だよ。さあさ、お口に入った入った」

 「えー? またー?」とチュウ太がぼやきます。

 モモタもちょっとためらいました。

 「妙案があるんだよ」と、カンタンが急かします。

 顔を見合わせるモモタたちに、カンタンが続けて言いました。

 「友情のために特攻じゃないの?」

 「わたしは小さいから、背中に乗るわ」アゲハちゃんは、一抜けたー、といったふうにカンタンの背中にヒラヒラと飛んでいきます。

 それを見てチュウ太が言いました。

 「アゲハちゃんずるい。僕も背中」

 「え~? 僕一匹?」モモタが「にゃー」と鳴きました。

 キキがチュウ太に言います。

 「チュウ太、一緒に口に入ってやれよ。モモタの第一の親友なんだろ?」

 「そうだ、僕はそうだった。もちろん、お口の特等席に座るさ」

 「ありがとー」とモモタがチュウ太にお礼を言います。

 みんなの準備が万端整って、カンタンが言いました。

 「お腹ペコペコだけど、頑張るよ」

 チュウ太はびっくりです。

 「もし嘘ついて僕たちを食べたら、この鋭い前歯で、お腹の中を噛みちぎって、穴をあけてやるぞ」

 「外から僕もついばんでやる」と、キキも言いました。

 アゲハちゃんが無邪気に笑います。

 「外と中が繋がれば、お外には出られるけれど、その前に落ちちゃうわね」

 モモタが怯えて言いました。

 「穴開ける時は、地面の上でにしてね」

 チュウ太も心配そうに言います。

 「僕外見れないよ」

 キキが言いました。

 「安心して。僕がカンタンを鷹掴みにして、土の上に押さえつけて食べてやるから」

 カンタンが悲鳴をあげました。

 「だから、食べないって」とっても困り顔です。

 モモタとチュウ太は、笑いながらカンタンのお口に入りました。

 何度か翼を羽ばたかせてウォーミングアップしたカンタンが元気に声を張り上げます。

 「出発進行ー」

 事は急を要します。一刻の猶予もありません。モモタは、眉が焦げる思いで急いでお家へと向かいました。
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