猫のモモタ

緒方宗谷

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モモタとママと虹の架け橋

第百十五話 ×と+は無限の力

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 「僕だったらどうするんだろう」キキが神妙な面持ちで言いました。「王者にとって傷跡は男の勲章だよ。とても誇るべきものだと思う。でも、もし僕がそんな大変な状況に陥って、目の前に助けないといけない誰かがいた時、助けに行けるかな。もしかしたら身がすくんでしまうかも」

 キキは、「もし僕なら…」と、想像をめぐらせます。「森の中で山火事に遭って、炎にまかれて全身大やけどを負って羽も黒焦げ。もう一生飛べなくなっても、誇れるのかな」

 「難しい問題だな」とチュウ太が呻きます。「僕のお家がある人間のお家が火事になって、もしねず子ちゃんが火の海の中に取り残されたら、僕は必ずまっさきに助けにいく。でも、その時のことを想像すると、気持ち悪くて死んでしまいそうだよ。全身が焼かれるなんて。もしかしたら、本当にそうなってないから、『必ず助ける』って言えるのかも。・・・自信がない・・・・・」

 キキが言いました。

 「今なら僕だって、助けられる。もし飛べなくなっても、自分の姿を誇れるって言えるけど、実際大空を失ってそう思えるかどうか・・・」

 カンタンが言いました。

 「助けられるよ。そして誇れるさ、キキは。だって君は、それを真剣に考えているんだもん。君はそういう王者の道を歩んでいくんだと思うよ。もちろんチュウ太もね」

 キキが言います。「カンタン・・・、君は結構侮れないな」

 「喉の袋は伊達じゃないんだぞ、エッヘン!」

 モモタが言いました。

 「楽しいことも悲しいことも慣れていくんだよ、きっと。初めてお友達ができた時の感動とか、初めてのお別れとか、とても僕の心を動かしたけど、たくさんの出会いの中でそれが当然のように感じるようになったよ。そう感じることも分からなくなるよ。だって、初めての感動をふと思い出した時、とても新鮮な気持ちになるもの。

  だから、キキが大変な目に遭ってアルトゥールのように死にたくなったとしても、いつか傷は癒えて楽しい毎日に戻れるような気がする。飛べなくなったって、楽しいことはたくさんあるよ。だって、僕たちといる時あまり飛ばないじゃない。それでも楽しく思ってくれてるでしょ?」

 アゲハちゃんが言います。

 「飛べないから不幸だって考えが正しいとすると、飛べないモモちゃんとチュウ太は不幸のどん底ってことよね。でも幸せそうよ。だから、そんな心配する必要ないんだわ」

 ツマベニチョウのあっちゃんは、綺麗な翅を失ってもなお幸せそうでした。そればかりか、美しかった頃よりも更に綺麗に見えましたし、更に幸せになったことでしょう。

 アゲハちゃんは、同じ蝶々としてとても感動したことを覚えています。キキの心配事は杞憂なのだと思いました。

 アゲハちゃんが続けます。

 「それに、飛べるからこそ不幸だってこともあるでしょう?」

 アゲハちゃんは、クジラの背中でお世話になっていた時に見たトビウオの話をしました。

 初めはみんな、お魚なのにお空が飛べて凄いなぁ、と思っていましたが、飛んできた鳥にパクッとつままれてしまったお話です。みんなはそのことを思い出して、幸も不幸も表裏一体だと思いました。

 カンタンが口を開きます。

 「真心が合わさる時って、もしかしたらママが卵を温めるのに似ているのかも。ママのお腹には、ちょうど卵は収まるくらいのへこみがあって柔らかいでしょ? してほしいこととしてあげたいことが合わさった時に、ちょうど温まるんじゃない?」

 「確かに」とアゲハちゃんは言って「でも、それは卵だからでしょう? まだ生まれてもいなくて何もできないから仕方ないじゃない。卵とママの関係を大人のお友達に当てはめるのはどうかしら」

 アゲハちゃんは、納得がいかないようです。続けて言いました。

 「愛し合っているなら、お互いがちゃんと愛し合わないと。一緒の目標に向かって歩んで行けないといけないわ」

 「進む道は違うけど、目標は一緒だよ」カンタンが言いました。

 「でも、お互い違う方向を見ているわ」

 「なんで? 違う道だからって到着するところが違うとは限らないんじゃない? おんなじほうを向いていることだってあるよ。

  アルトゥールとククルは別々のほうを向いてたけど、目的は一緒。幸せになりたかったんだ。そして相手を幸せにしたかったんだよ。アルトゥールはククルのほうを、ククルはアルトゥールのほうを向いてるよね。真逆を向いてるよ」

 モモタが言いました。

 「世界は二枚貝に包まれているんでしょ? なら、ククルが泳いで行った方とは反対のほうに泳いで行けば、反対側の空と海が交わるところに辿り着いて、そのまま天空を泳いで、お空の真ん中でまた再会できるじゃない。遠回りだけど、生と死、真逆に進んでいってみたら距離を縮められたんじゃないかな。ううん、真逆を向いていたからこそ最短距離だったのかも」

 「どう言うこと?」カンタンが訊きます。

 「向いている前の世界が全てじゃないよ。見えないけど真後ろにも世界はある。背を重ねることで、とてつもない距離を波で流したんだ。二人に距離なんてなかったんだ。

  背中を合わせるとこで、世界の中心に二人がいることになるでしょ? 僕は、初めてこの話を聞いた時、とても悲しいお話で涙が出てきたけど、今はとても幸せなお話だと思う。確かに悲しい結末だけど、でも違うんだ。僕は二人のいる中心から離れているんだね、きっと」

 アゲハちゃんが、モモタのお腹の上で寝返りを打って言いました。

 「もし手を繋いでいれば、向いている方向が違くても、進んでいる方向が違くても、離ればなれにはならないわね。世界は二人を中心に広がっているのだから、道に迷うこともないわ。だって二人がいるべき場所は、今その時いる場所なのだから。

  それに、二人の進む方向が違えは、その力が影響し合って新しい進む道も生まれるかもしれないものね」

 それからアゲハちゃんは、加えて言いました。

 「でも、やっぱりお返しは欲しいわ。大好きな人から自分が望むことをしてほしいって思うのも愛あればよ」

 確かにそうです。みんなも同じように思いました。

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