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モモタとママと虹の架け橋
第百一話 欠けた愛情が現れる時
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ニーラが燐光してくれているおかげで、真っ暗な廊下を泳いでいく破目には陥りませんでした。
海中に沈んだ幅広の階段を上がって空気のある廊下に出て、ニーラを先頭に歩いていきます。
モモタが言いました。
「どうして人魚のみんなは、真実の愛を知っていたのに、バラバラなことを言っていたんだろう」
モモタの頭の上にとまったアゲハちゃんも、疑問に思っていたようです。
「そうよね、愛の悟りを開いていたのなら、みんな同じ結論を導き出すんじゃないかしら。だって真実の愛を知っているんですもの」
ニーラが答えて言いました。
「真実の愛は一つではないわ。無限にあるのよ。みんなは、心の内から溢れる愛情をそれぞれのやり方で示したのね」
キキが言いました。
「みんなで同じ形で示せばよかったんじゃない? 協力し合った方が力になるよ。僕たちだってみんなで頑張ってきたから、ここまでこれたんだし」
アゲハちゃんとチュウ太が頷きます。
ニーラが微笑みました。
「愛の発露を変えさせられた者たちが示したものは愛なのかしら。変えるように迫ったほうは満足なんでしょうけれど」
玉響の時が流れました。
沈黙したモモタたちに、ニーラがある伝説を話して聞かせました。伝説の名は『クガニティーラのイハナシ』といいました。黄金の太陽伝説という意味です。
内容は、モモタがゾウガメじいちゃんから聞いた母星と子星のお話と大変よく似ていました。母星はアンマーほうし、子星はワラバーほうしと呼ばれていました。
ですが、結末は全く違っています。ワラバーたちは、それぞれが愛情をアンマーに示して、宇宙の彼方へと旅立っていくのです。誰もひきとめません。残る者は残りましたし、戻ってくるものは戻ってきました。常に、喜びが込められた送迎歌と凱旋歌が響き渡る日々の中。
聞き終って、チュウ太がニーラに言いました。
「来るもの拒まず、出ていくもの引きとめず? それってお互いを尊重しているように見えて、ただの無関心なんじゃないの?」
「理解に溢れているから、そのように見えるだけ。この伝説も、モモタたちが知っているものと話が違っているでしょう? たぶん他にもたくさんあるし、みんなの解釈もそれぞれ違うのでしょうね。
それもそのはず、だってわたしたちは、海や地上から見上げて思いを馳せるしか出来ないのだから。星々の真意は測りきれないわ。
でも、わたしたちは信じているの。天に煌めく全ての星は、愛情に満ち溢れているから、ヒカリゴケのように輝いているんだって。
遠い遠い昔々のお話にも星々は必ず出てくるわ。わたしはそんな星々を想像して必ず思うの。遠い昔、幼い時分に見たあの夜空は、真実の愛情に満ちているから美しい思い出として、今も消えることなく心にとどまり続けているのじゃないかしらって。
宇宙は永遠に広がり続け、星は無限に増え続ける。だってそうでしょう? ニライカナイがサンゴに覆われる長い時間を遡った前よりも更に昔から、天空は星に埋め尽くされていたのだから」
アゲハちゃんが、チュウ太の問いに話を戻しました。
「自分よがりの愛情は、未成熟ってことなのかしら。赤ちゃんはいつも泣いてママを呼ぶでしょう? 赤ちゃんたちは愛されることを求めるけれど、愛することは求めないわ。
サナギに変わる前あたりに、芋虫ちゃんたちは、ママやパパにお花を摘んで持っていってあげたりするの。それって、愛することを求め始めたってことだと思うの」
キキがアゲハちゃんに言いました。
「僕は、野ネズミをとても美味しいって思っているけれど、それはそれでネズミへの愛情なんだろうね。でもネズミたちはそんな愛情は望んでいない。僕に食べられるのを拒むことで、もし僕が怒るなら、それは押しつけがましい愛情を示したってこと?」
「そうね、フカの谷のサメたちのように?」
「うん。あそこには覇道の理っていうのがあって、それで治まっていた部分も大きいはずだけど、そうとう我慢我慢を強いる世界だったように思う」キキはそう言って、ニーラに視線を投げました。「でも、それで得られる愛情もあるんじゃないかな。嫌なことは嫌だけど、でも嫌がなくなることなんてないじゃない? 誰かと一緒にいれば、相手に合せないといけないこともあるよ」
ニーラが言いました。
「愛情を自分にも向けてみて。キキ、あなたの深層はそのようなことを思っていないわ。色々なものが心についているからそう思ってしまうだけ。でも大丈夫よ。ここの水は愛に満ちているから、ゆっくりとだけれど、色々なものを洗い流してくれるから」
モモタが、「どう言うこと?」と、ニーラに訊きました。
「キキは、誰かに合せたり合わせて貰ったりすることで愛憎を感じているのではなくて、自分の真相と表層の差異に憂悶しているだけなのよ。その差異を埋められないから、その負荷によって生まれた情動を相手や自分に向けて苦しんでいるの。
でもそれは乗り越えられるわ。尊重を理解に変えて受け入れることができれば、なんだって乗り越えられるの」
「とても難しい」とチュウ太が根をあげました。
アゲハちゃんが、「だから、人魚は減ってしまったのね。色々なお友達が人魚に寄りそおうとやってきたけれど、真実の愛を理解していなかったから」
ニーラが言います。
「知ってはいるのよ。心の奥深くにその宝玉はしまわれているの。あとは磨いて光り輝かせるだけなのだけれど――」
アゲハちゃんが引き継ぎます。
「一方的な愛情に対しても人魚たちは愛を示したと思うわ。でもみんなは理解できなかったのね。たぶん、理解できない者同士でも争いが起こったんじゃないかしら」
「その通りだと思うわ」ニーラが悲しげに俯きます。「争う者同士は、互いを悪だと決めつけて、自分は正義だと思っているけれど、本当の悪なんてどこにもいやしないわ。悪だと思っている相手だって、信じる正義があって戦っていたのだから。自分の愛は正義だと信じていたからこそ、みんな争いを始めたのね」
ニーラは、チュウ太をチラリと見てから視線を前に戻して続けます。
「なんかごはんのようなチュウ太ちゃんを食べてみたい、と思うわたしの気持ちも愛情なのよね。でもチュウ太ちゃんはそんなわたしをよく思わないわ。そればかりか、逃げることが正義だと言わんばかりに逃げ回るでしょうね。生への愛情を如何なく発揮して」
チュウ太、苦笑いです。
「なんか、ここに来てからの僕の扱いひどくない? いつか見返してみせるからね、海ネズミの存在を証明して」
ウミヘビの存在を知ったチュウ太は、なぜか海ネズミにご執心でした。
海中に沈んだ幅広の階段を上がって空気のある廊下に出て、ニーラを先頭に歩いていきます。
モモタが言いました。
「どうして人魚のみんなは、真実の愛を知っていたのに、バラバラなことを言っていたんだろう」
モモタの頭の上にとまったアゲハちゃんも、疑問に思っていたようです。
「そうよね、愛の悟りを開いていたのなら、みんな同じ結論を導き出すんじゃないかしら。だって真実の愛を知っているんですもの」
ニーラが答えて言いました。
「真実の愛は一つではないわ。無限にあるのよ。みんなは、心の内から溢れる愛情をそれぞれのやり方で示したのね」
キキが言いました。
「みんなで同じ形で示せばよかったんじゃない? 協力し合った方が力になるよ。僕たちだってみんなで頑張ってきたから、ここまでこれたんだし」
アゲハちゃんとチュウ太が頷きます。
ニーラが微笑みました。
「愛の発露を変えさせられた者たちが示したものは愛なのかしら。変えるように迫ったほうは満足なんでしょうけれど」
玉響の時が流れました。
沈黙したモモタたちに、ニーラがある伝説を話して聞かせました。伝説の名は『クガニティーラのイハナシ』といいました。黄金の太陽伝説という意味です。
内容は、モモタがゾウガメじいちゃんから聞いた母星と子星のお話と大変よく似ていました。母星はアンマーほうし、子星はワラバーほうしと呼ばれていました。
ですが、結末は全く違っています。ワラバーたちは、それぞれが愛情をアンマーに示して、宇宙の彼方へと旅立っていくのです。誰もひきとめません。残る者は残りましたし、戻ってくるものは戻ってきました。常に、喜びが込められた送迎歌と凱旋歌が響き渡る日々の中。
聞き終って、チュウ太がニーラに言いました。
「来るもの拒まず、出ていくもの引きとめず? それってお互いを尊重しているように見えて、ただの無関心なんじゃないの?」
「理解に溢れているから、そのように見えるだけ。この伝説も、モモタたちが知っているものと話が違っているでしょう? たぶん他にもたくさんあるし、みんなの解釈もそれぞれ違うのでしょうね。
それもそのはず、だってわたしたちは、海や地上から見上げて思いを馳せるしか出来ないのだから。星々の真意は測りきれないわ。
でも、わたしたちは信じているの。天に煌めく全ての星は、愛情に満ち溢れているから、ヒカリゴケのように輝いているんだって。
遠い遠い昔々のお話にも星々は必ず出てくるわ。わたしはそんな星々を想像して必ず思うの。遠い昔、幼い時分に見たあの夜空は、真実の愛情に満ちているから美しい思い出として、今も消えることなく心にとどまり続けているのじゃないかしらって。
宇宙は永遠に広がり続け、星は無限に増え続ける。だってそうでしょう? ニライカナイがサンゴに覆われる長い時間を遡った前よりも更に昔から、天空は星に埋め尽くされていたのだから」
アゲハちゃんが、チュウ太の問いに話を戻しました。
「自分よがりの愛情は、未成熟ってことなのかしら。赤ちゃんはいつも泣いてママを呼ぶでしょう? 赤ちゃんたちは愛されることを求めるけれど、愛することは求めないわ。
サナギに変わる前あたりに、芋虫ちゃんたちは、ママやパパにお花を摘んで持っていってあげたりするの。それって、愛することを求め始めたってことだと思うの」
キキがアゲハちゃんに言いました。
「僕は、野ネズミをとても美味しいって思っているけれど、それはそれでネズミへの愛情なんだろうね。でもネズミたちはそんな愛情は望んでいない。僕に食べられるのを拒むことで、もし僕が怒るなら、それは押しつけがましい愛情を示したってこと?」
「そうね、フカの谷のサメたちのように?」
「うん。あそこには覇道の理っていうのがあって、それで治まっていた部分も大きいはずだけど、そうとう我慢我慢を強いる世界だったように思う」キキはそう言って、ニーラに視線を投げました。「でも、それで得られる愛情もあるんじゃないかな。嫌なことは嫌だけど、でも嫌がなくなることなんてないじゃない? 誰かと一緒にいれば、相手に合せないといけないこともあるよ」
ニーラが言いました。
「愛情を自分にも向けてみて。キキ、あなたの深層はそのようなことを思っていないわ。色々なものが心についているからそう思ってしまうだけ。でも大丈夫よ。ここの水は愛に満ちているから、ゆっくりとだけれど、色々なものを洗い流してくれるから」
モモタが、「どう言うこと?」と、ニーラに訊きました。
「キキは、誰かに合せたり合わせて貰ったりすることで愛憎を感じているのではなくて、自分の真相と表層の差異に憂悶しているだけなのよ。その差異を埋められないから、その負荷によって生まれた情動を相手や自分に向けて苦しんでいるの。
でもそれは乗り越えられるわ。尊重を理解に変えて受け入れることができれば、なんだって乗り越えられるの」
「とても難しい」とチュウ太が根をあげました。
アゲハちゃんが、「だから、人魚は減ってしまったのね。色々なお友達が人魚に寄りそおうとやってきたけれど、真実の愛を理解していなかったから」
ニーラが言います。
「知ってはいるのよ。心の奥深くにその宝玉はしまわれているの。あとは磨いて光り輝かせるだけなのだけれど――」
アゲハちゃんが引き継ぎます。
「一方的な愛情に対しても人魚たちは愛を示したと思うわ。でもみんなは理解できなかったのね。たぶん、理解できない者同士でも争いが起こったんじゃないかしら」
「その通りだと思うわ」ニーラが悲しげに俯きます。「争う者同士は、互いを悪だと決めつけて、自分は正義だと思っているけれど、本当の悪なんてどこにもいやしないわ。悪だと思っている相手だって、信じる正義があって戦っていたのだから。自分の愛は正義だと信じていたからこそ、みんな争いを始めたのね」
ニーラは、チュウ太をチラリと見てから視線を前に戻して続けます。
「なんかごはんのようなチュウ太ちゃんを食べてみたい、と思うわたしの気持ちも愛情なのよね。でもチュウ太ちゃんはそんなわたしをよく思わないわ。そればかりか、逃げることが正義だと言わんばかりに逃げ回るでしょうね。生への愛情を如何なく発揮して」
チュウ太、苦笑いです。
「なんか、ここに来てからの僕の扱いひどくない? いつか見返してみせるからね、海ネズミの存在を証明して」
ウミヘビの存在を知ったチュウ太は、なぜか海ネズミにご執心でした。
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