猫のモモタ

緒方宗谷

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モモタとママと虹の架け橋

第九十四話 谷を統べる者

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 第二景 サメの色恋沙汰

(抱きしめ合うオーサンとシルチを見つけたイルカ王とジュゴン王)

ジュゴン王
    「ええい、シルチ、あの者(イルカ)たちは、
     我らの営みを乱す者。
     知っているのか、あやつらの早さを、
     とてもじゃないが我らの浅瀬では、暮らしていけはしないだろう」

イルカ王「ジュゴンはノロマで動かぬ者たち、
     とても入り組む珊瑚の合間を縫って泳げぬノロマな輩、
     だから藻しか食えぬのだ」

ジュゴンの家臣たち  
    (イルカに迫って合唱)
    「白くないなど許せないこと」

イルカの家臣たち
    (ジュゴンに迫って合唱)
    「青くないなど許せないこと」

ジュゴンの家臣たち
    (イルカに迫って合唱)
    「髭がない」

イルカの家臣たち
    (ジュゴンに迫って合唱)
    「背びれがない」

イルカ王とジュゴン王
    (合唱)
    「我らの姿かたちは違いすぎる、全く以て相容れぬもの」

オーサン(イルカ王とジュゴン王に向かって)
    「いいえそれは違います、ただ互いを知らぬだけ」

イルカ王とジュゴン王
    (合唱)
    「ひと時の遊びならいざ知れず、長きを共にするのだから、
     同じものでならねばならぬ」

シルチ 「いいえそれは違います。違うからこそ閃きがある」

オーサンと《シルチ》
    「その閃きは瞬いて、《幾億もの輝きとなりましょう》
     その輝きは満天の星空さながら、
     《我らのもとを照らしましょう》」

(中央奥の幕から現れる三匹の大きなサメ、前列にホオジロザメのタッチュー、後列下手にアオザメのガッパイ、上手にイタチザメのワタブー)

タッチュー
    (一泳ぎ進んで二泳ぎ戻るを繰り返しながら)
    「なんだ、うるせぇ、騒々しい、いったい何が起こっているんだ」

ガッパイ「イルカとジュゴンがもめているのか」

ワタブー「いったいなんでもめているんだ」

上手下手の様々なサメたち口々に
    「ただの」「下賤な」「親子喧嘩」「惚れた」「腫れた」「の」
    「恋愛騒動」「ただ」「ここには」「いない者たち」
    「普段見れない」「ばかげた話」
    「だから見るのも一興だろう」

タッチュー
    「俺はこの谷を治める覇者ホオジロザメだ、
     俺より強いやつなどいいやしない、
     シロナガスクジラでさえオダブツだ」

ガッパイ「あそこにいるのはジュゴンの王だ、一番大きな入り江の王だ。
     ならばそこにいるのはジュゴンの姫か、
     あの美貌なら間違いないぞ」

ワタブー「食べてしまいたいほどの美しさ、
     雑魚(サメたち)どもが群がる中にあってもなお、
     ひときわ輝く美しさ。
     兄貴(タッチュー)、あれは俺がいただく、
     一目ぼれっていうやつさ」

タッチュー
    「いいや渡さぬ、お前が欲しいというのであれば、
     敢えて俺が貰ってやろう、それが強者と弱者を分けるもの、
     ここの秩序を改めて知れ」

ガッパイ「それでここの平和が保たれる、従いたるが安寧の儀式」

上手下手の様々なサメたち
(合流して)
            
       「我らを司る唯一の調べ」

(中央奥の幕から新たに現れる三匹のメスのサメ、前列にタッチューの妹ボーチラ、後列上手に召使いのオオメジロザメ・クンジュンと、下手にトゥリトール) 

ボーチラ(一泳ぎ進んで二泳ぎ戻るを繰り返しながら、オーサンを見て)
    「あらそちらの殿方はどちらの方? 
     外界の海の水面の如く、青き姿の勇気ある流星」

クンジュン
    「あれは西のサンゴ礁に住むイルカ、
     王子オーサンでございましょう」

トゥリトール
    「あれこそ妹ザメに相応しい男、雑魚(サメたち)なんかじゃ、
     百年経っても捕えることなど適わぬ獲物」

ボーチラ「ええ、まさに征服させるに相応しい、流がれるようなあの姿。
     すぐに捕らえて、わたしのお家に、引きずり込んであげましょう」

ジュゴン王
    「ああ何たることだ、シルチの前に立ちはだかるは、巨大ザメ。
     誰かいないか、戦う者は」

家臣たち「いいえ、誰もいはしないでしょう、ホオジロザメが相手では、
     我らは嚙まれて千切れてしまう」

イルカ王「戻ってくるのだ、オーサンよ、あの者が欲するはジュゴン姫、
     お前のことなど目もくれぬ」

ボーチラ「あーら、そんなことなくってよ、オーサン様はわたしがいただく、
     フカの谷の王子にするのよ」 

(誰にも知れずに姿を消すキキ)






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