猫のモモタ

緒方宗谷

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モモタとママと虹の架け橋

第九十話 第一勘

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 第四景 募る想い

(シルチとアゲハちゃん、チムが、気を失ったオーサンを岩場に隠し、看病して行ったり来たり)

シルチ 「わたしは健気な女の子、献身的にお世話する。
     わたしは可愛い女の子、見ず知らずのイルカを助けるの」

侍女合唱「トゥルットゥー、トゥルットゥー」 
    
シルチ 「海草をたくさん持ってきて」

侍女合唱             「はい」

シルチ 「藻をたくさん持ってきて」

侍女合唱            「はい」

シルチ 「誰にも見つからないように、海藻で姿を隠しましょう。
     大丈夫よ、ここはわたしの遊び場なんだもの、誰も来やしないから」
(侍女たちに)
    「まだ足りないわ、姿が見えてしまいます」
(オーサンを撫でながら)     
    「体も冷たい、温めてあげなければ」
(体を寄せる)
    「ああ、可愛い寝顔ね、これが平穏の中ででしたなら、
     どんなによかったことでしょう」
(空を見上げて)
    「でも本当に、このイルカはいずこから来たの? 
     一番近いイルカの住処、それも深みのずっと向こう。
     フカの谷を越えた向こうだから、大嵐に遭ってさえなお、
     死なずにここまで流されてくることなんてありえない」

アゲハちゃん                     
       「まさか嵐の中を?」

チム  「ありえないわ(泳いできたなんて)」

シルチ 「もしそうだとしたのなら、なんという冒険心でしょう。
     憧れてしまうわ、だってわたしじゃ大海には泳ぎだせないもの。
     とても端整な顔立ちね、荒くれ者なんかじゃないのは確か、
     華奢なようでしっかししてるし、
     背びれと胸びれの曲線美、素朴であるのに優雅過ぎる、
     尾びれの優しいさまといったら、心を表しているようだわ」

アゲハちゃん
    「…もう陽が暮れる」

チム  「…空が茜色に変わり始める」

アゲハちゃん
    「シルチ様、シルチ様、もう帰りましょう、
     予定よりだいぶ太陽が傾きました」

チム  「両陛下もご心配なされていることでしょう」

シルチ 「そうね、夜の間に、流されないように、しっかりくるめてあげましょう」

アゲハちゃん
    「お会いする約束だった方々は、今どうしていることでしょう?」

シルチ 「はてそれは、誰のことだったかしら…、…、…、…
     そう言えば婿選び? だったかしら…。
     忘れていたけど、まあいいわ」

アゲハちゃん
    「ああ哀れ」

チム  「ああ哀れ」


 第五景 確信

(オーサンが隠されている岩場。夜更け。満天の星が天に瞬く)

オーサン「ああ、昼間の天使は夢だったのか、
     とても可憐で優しい声が囁いていた、赤子をあやすように。
     三枚に下ろされた姿をした死神どもから、
     身を挺して僕を守った、あの温もりは、微睡の中だけれども、
     しっかりと肌に残る感覚、とても夢とは思えない。
     暖かい水面のせいなのか、いいや違う、断じて違う、
     降り注いだ日差しが、残していった情けなのか、いいや違う、
     断じて違う」
(体に巻き付いた海藻を解こうと回転しながら)
    「夢じゃない、幻でもない、間違いない、現実だ、
     天使は本当にいたんだ、ここに。
     月明かりに照らされた、海にはサンゴが開いて広がり、
     岩に囲まれた浅瀬の内は、波穏やかな優しいゆりかご。
     あの大嵐の時でさえ、僕がもまみまかれて投げられたほどの、
     大波渦巻かなかったはず。
     こんなに豊かな海であるなら、イルカが住んでいてもおかしくない。
     僕を癒すために天使は、傷を塞ぐために天使は、
     この体に海藻を撒きつけたんだ」
(北の方角にひときわ輝く星を見やりながら)
    「北極星があそこなら、僕のお家は向こうの方だ。
     星の配列、月の満ち欠け、だいぶ遠くに流されたようだが、
     これならまだ帰れるぞ。
     朝一番で出発だ、まずは帰って傷を癒す、
     天使が…、微睡む瞳に焼き付いた天使が…、
     僕を救ってくれたのだ。
     まだ死ぬなってことだろう、これこそ運命、
     冒険の向こうに、まだ見ぬ君、待っていてくれ。
     僕を助けたのは、海に溶けた君の優しさ、
     君は気付かないうちに、僕を助けたんだ、そして奪った僕の心を」
(眠りにつく)

(徐々に暗転して、幕が下りる)
     








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