猫のモモタ

緒方宗谷

文字の大きさ
上 下
436 / 495
モモタとママと虹の架け橋

第八十八話 おてんばシルチ

しおりを挟む
 第四幕 看病

 サンゴ礁に囲まれた浅瀬の外。白い砂地の海底がどこまでも広がる遠浅の海。
 大きなサンゴ礁が散見される。中には水面に達するまで大きく育った浜珊瑚が横に広がって、テーブルのようになっているものもある。
 上手には岩場が広がっている

 第一景 シュモクザメ

(下手の岩と浜珊瑚が点在する中を泳ぐ十匹のシュモクザメ。
 長男ビナヒチャイを先頭に、二男クジウチュンと三男オーサビーが並んでいる。
 上手の端の岩場で、オーサンが臥せっている。)

ビナヒチャイ
    「トンカチ、トンカチ、頭を振るうはシュモクザメー」

シュモクザメたち合唱
    「シュモクザメー」

ビナヒチャイ
    「トンカチ、トンカチ、頭を振るうはシュモクザメー」

シュモクザメたち合唱
    「シュモクザメー」

ビナヒチャイ
    「どこからともなく香る香り、ジューシー芳醇血の匂い、
     鼻先撫でるはイルカの血」

オーサビー
    「昨日の嵐で、海が深く大きくかき混ぜられた。
     多くの魚が集まってくるぞ、口を開ければごはんだらけだ」

クジウチュン
    「そんな小物は放っておけよ、今は大きなイルカ狙いだ。
     どうせ昨日の大きな嵐で、岩場に打ち付けられたのだろうよ」

ビナヒチャイ
    「俺たちの縄張りに入ったが最後、俺たちゃ絶対のがさない。
     すばしっこいだけが取り柄のあいつらだから、
     ふだんは口には出来ないけれど、怪我しているなら食い放題」
(オーサンを探し回る)

(景色が下手に回り始めて、シュモクザメたちと共に下手に消える。
 岩場が回り出して、伏せるオーサンを中央に据える)


第二景 純白の献身

(上手に現れるシルチと侍女アゲハちゃん、チム。
 随分と遊び回った様子で、休憩する場所を探している)

シルチ 「わたしは何にでも興味津々、こないだなんて、
     波打ち際を歩いていたヤシガニに、ひれを出して挟まれたのよ」

アゲハちゃん
    「きれいなお手が台無しです」

チム  「黙っていればおきれいなのに、自ら品位を落とすとは…」

シルチ 「あら、わたしの品位は上がっているわ、
     だってあなたたちは知っていて? 
     ヤシガニのハサミが強力なことを」

アゲハちゃん
    「そんなの見れば分かります」

チム               「分かります」

シルチ 「でも見た目以上に痛いのよ」

侍女合唱             「そんなの知りたくもありません」

シルチ 「わたしは尊敬をいだいたわ、
     いと小さき者たちにだって、なにものさえもを覆す、
     大いなる力があるんだって。
     わたしは、ヤシガニを食べないけれど、
     もしサメだったら食べていたかもしれないでしょう?
     でも、サメだって食べないわ、
     だって鼻先が千切られてしまうもの。
     だからヒレを鋏まれて、わたしはとっても幸せなのよ」
(オーサンの背びれに気がついて)
    「あら、あれは何かしら? この辺りでは見ない群青…」

侍女たち(ひきとめる)

シルチ (縮こまる侍女たちを連れて、群青のもとへ)
    「あら、この方はイルカの方ね、たいそうな怪我をしている様子」

アゲハちゃん
    「昨日の嵐でやられたのでは?…」

チム  「この辺りでは見ない顔です、死んでいるのではないですか?」

シルチ 「いいえ、そんなことはありません、いだくと息吹を感じます」

アゲハちゃん
    「どうするおつもりで?」

チム             「静かに。
     向こうからシュモクザメがやってきます」


しおりを挟む

処理中です...