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モモタとママと虹の架け橋
第八十話 本当の意味での成長
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ここにいるいきさつを話していたウーマク君が、海面上に胸びれを広げて言いました。
「でも、暗い通路を泳いでいる時に、僕たちの真上をクークブアジハーが泳いでいったんだ。びっくりしたのなんのって、息を殺して潜んでいるしか出来なかったよ。
でも、あいつ、ずっと行ったり来たり何かを探している様子だったんだ。たぶん、僕たちが入ってきたことににおいで気がついたんだろうね。サメは鼻が鋭いから。どんなに遠くにいたって、切傷から漂い出る血の匂いに気がついて、やって来るっていうし」
ウーマク君はその時の恐怖を思い出した様子で、ちゃくちゃくちゃんと見つめ合います。
ちゃくちゃくちゃんが言いました。
「そう、わたしたち隠れていたのだけれど、さすがに息が続かなくなってしまったの。それで勇気を出して、階段の上に広がっていた海に戻ろうとしたのだけれど、階段を泳いでいる時に見つかって、追いかけられたのよ」
ウーマク君が引き継ぎます。
「海藻や建物の陰に隠れたりしながら、なんとか壁の階段に辿り着いて、内側に入ったんだ」
間一髪だったそうです。うんしょうんしょ、と階段を上るちゃくちゃくちゃんめがけて、クークブアジハーが突撃してきましたが、ギリギリちゃくちゃくちゃんの尾びれに届かない距離で、鋭い歯がかち合います。凄まじい音が鳴り響きました。
ちゃくちゃくちゃんが無事に壁の上に上れたことを確認したウーマク君は、身をよじらせて海に戻るクークブアジハーの横を矢のように走って、階段の上をスライディング。勢いそのままに階段を上りきり、内側の水路に落ちました。
ウーマク君が語り続けます。
「助かったのはいいんだけれど、あいつずっと僕らを捕まえようと外にいるんだ。だから、ここから出られなくなっちゃったんだよ」
続けてちゃくちゃくちゃんが「もう何日もここにいるのよ。でもずっと日が沈まないから、何日経ったか分からないわ」と言いました。
そんなことがあったんだ、と話に聞き入るモモタたちに、今度はちゃくちゃくちゃんが訊きました。
「あなたたちは、どうしてここまで来たのかしら? さすがに陸のお友だちが海を潜ってここでバカンスっていうのも冒険しすぎよね」
モモタは、ゾウガメじいちゃんから聞いた太陽のお話と、今までの大冒険を聞かせてあげました。
「へぇ、それは不思議な話だね」ウーマク君が言いました。「僕だったらこう思うな」そう言って続けます。
「最後に残った月は、弱くなんてなかったんじゃないかな。だって旅立てなくて残ったんじゃないもの。子星が全員旅立ったら、お母さん一つになってしまうでしょう? それが可哀想で耐えられなかったんだよ。だからあえて自分は残るって決めたの。
それってすごいことじゃないかな。普通、僕たちは成長する過程で色々なことを経験するし、挑戦もする。自分を試したいって思うのが普通じゃないか。そうやって自分の居場所を見つけていくんだ。でも月は、何もかもをすっ飛ばして自分の居場所を見つけていたんだよ。
自分がすべきことが分かっていたんだ。使命っていうのかな? 母星が一つになって悲しんだりさせないために、一身を捨てて一緒にいる道を選んだんだよ」
ウーマク君は空を見上げました。
「ここにはなぜか夜はないし星も見えないけれど、星々は夜空一面に散りばめたように別々に瞬いているよ。それは、星が大人になったらどこかに旅立つってことじゃないかな。
それなのに、月は自分だけ旅立たないって決心をしたんだ。すごいことだよ。自分だけ違うことをできるなんてすごいことだよ」
くるりと横に回転して、ウーマク君は続けます。
「それに、生んでくれた家族から旅立つことだけが子供のすべき目標でもないよ。僕たちイルカは、親戚もみんな近くに住んでいるしね。どこかに一頭で旅立つなんてしない。みんなでいるからこそ得られる力だってあるよ」
突然、ウーマク君が申し訳なさそうな表情で、ちゃくちゃくちゃんを見やります。
「僕は、月の気持ちが分かるよ。だって僕、今月と同じ気持ちだから。僕は、一生ここにいたっていいって思えているからね。僕のせいでこんな目にあわせてごめんね、ちゃくちゃくちゃん。
ちゃくちゃくちゃんは、僕にとって太陽だよ。母星が子星を探し続けているように、僕を追って危険なクークブアジハーのお家まで来てくれたんだ。そんなちゃくちゃくちゃんを見捨てて、自分だけここから逃げられないよ。恩返しに僕は一生ここに住む。君の月になってあげるよ」
「ウーマク君・・・」
ちゃくちゃくちゃんが、ウーマク君の胸びれに引き寄せられて、頬を朱に染めました。
二頭から、桃色ハートが舞い上がるのが見えるようです。あまりのイチャイチャぶりに、モモタたちは蚊帳の外。とても話しかけられる雰囲気ではありません。
しばらくして、ちゃくちゃくちゃんが言いました。
「わたし、お月様はまだ旅立つ時じゃなかったって思うわ。ママが、わたしたちに息継ぎを教えたり、泳ぐ練習をさせたりするのと同じように、お母さん星は、残った子星に闇夜で輝く術を学ばせようとしたんじゃないかしら。
でも、お月様は練習するのが嫌だったのよ。どこにでもいるでしょう? そう言う子」
そう言いながら、ちらりとウーマク君を見やります。
「あはは」と笑うウーマク君。「僕みたい」
ちゃくちゃくちゃんが続けます。
「でも、練習しないからっていけないわけじゃないのよね。日々の生活の中で学びっていくらでもあるし、練習以外から学べることもたくさんあるわ。ウーマク君は全然お魚捕る練習しなかったけれど、でもとってもお魚捕るの上手じゃない。親戚のお兄ちゃんたちと、いつも追いかけっこして遊んでいたからよ。
練習の仕方や教え方も色々。お母さん星の教え方は、たまたまお月様には合わなかったんじゃないかしら。だから、お月様は『いやいや』をしたのよ。
お母さん星は、駄々をこねるお月様を追いかけまわしているのね。虹の雫も、お月様をあやして出てこさせるために落としたんじゃないかしら。だって、色鮮やかな雫だなんてとてもきれいだもの。悲しみは沈んだ色は一色だとわたしは思うわ」
チュウ太が訊きます。
「じゃあ、月には何が必要だったんだろう? 母星は何をしてあげればいいんだろう」
「お母さん星はもうしてあげているわ。お月様は、鬼ごっこがしたかったのよ。お月様自身が、それに気がついていたか分からないけれど、お月様にとってそれが一番大切なことだったの」
「旅立つために?」
「旅立たなくてもいいのさ」とウーマク君。
チュウ太は「何の目的に?」と訊き返します。
答えたのは、ウーマク君ではなくちゃくちゃくちゃんでした。
「幸せになるためよ。鬼ごっこするのが幸せだったの。それが一番大切なことよ。お月様にはそれが一番大切なことだったのよ。思い出して、お月様はとても優しく輝いているわ。モモタ君の話では、子星たちは輝いていないのに。
輝けるようになったのよ。その輝きは太陽とも違う力を持っているわ。だってわたしたちは、月があるから眠れるのだもの。だってそうでしょう? まったく光の届かない暗闇の中で、わたしたちは眠れないわ。ほんの少しの光明もない中では、わたしたちは死んでしまうもの。怖くて怖くて。すごい力よ。お月様はとても強いの。
成長はみんなそれぞれ、遅いからって早い子に追いつけないわけではないわ。今は、お母さん星と鬼ごっこしたりかくれんぼしたりしていても、いつか変わるわ。旅立つのか残るのか別の何かかは分からないけれど、鬼ごっこやかくれんぼを卒業するの」
ウーマク君が言いました。
「確かに、赤ちゃんだった頃、泳ぐのが得意でなかった子が、何年かして、その時得意だった子よりも速く泳げるようになっていることもあるもんね。
僕、赤ちゃんの頃から泳ぐのもお魚捕るのも得意だよ。今も得意だけど、昔僕より取れなかった子で、僕より得意になっている子もいる。その子、僕より泳ぐの遅いのに、なぜか僕より上手にお魚を捕るんだ」
最後に、ちゃくちゃくちゃんがみんなに言いました。
「成長は誰かと比べるものじゃないわ。比べたくなるのだろうけれど、比べても仕方ないでしょう? 上には上がいるし、下には下がいるわ。隣のお友だちと比べても、お互い下のほうかもしれないでしょう? 大事なのは自分と比べること。昨日の自分より成長できたかが大事なのよ」
ちゃくちゃくちゃんの言葉は、みんなの心に沁み入りました。
「でも、暗い通路を泳いでいる時に、僕たちの真上をクークブアジハーが泳いでいったんだ。びっくりしたのなんのって、息を殺して潜んでいるしか出来なかったよ。
でも、あいつ、ずっと行ったり来たり何かを探している様子だったんだ。たぶん、僕たちが入ってきたことににおいで気がついたんだろうね。サメは鼻が鋭いから。どんなに遠くにいたって、切傷から漂い出る血の匂いに気がついて、やって来るっていうし」
ウーマク君はその時の恐怖を思い出した様子で、ちゃくちゃくちゃんと見つめ合います。
ちゃくちゃくちゃんが言いました。
「そう、わたしたち隠れていたのだけれど、さすがに息が続かなくなってしまったの。それで勇気を出して、階段の上に広がっていた海に戻ろうとしたのだけれど、階段を泳いでいる時に見つかって、追いかけられたのよ」
ウーマク君が引き継ぎます。
「海藻や建物の陰に隠れたりしながら、なんとか壁の階段に辿り着いて、内側に入ったんだ」
間一髪だったそうです。うんしょうんしょ、と階段を上るちゃくちゃくちゃんめがけて、クークブアジハーが突撃してきましたが、ギリギリちゃくちゃくちゃんの尾びれに届かない距離で、鋭い歯がかち合います。凄まじい音が鳴り響きました。
ちゃくちゃくちゃんが無事に壁の上に上れたことを確認したウーマク君は、身をよじらせて海に戻るクークブアジハーの横を矢のように走って、階段の上をスライディング。勢いそのままに階段を上りきり、内側の水路に落ちました。
ウーマク君が語り続けます。
「助かったのはいいんだけれど、あいつずっと僕らを捕まえようと外にいるんだ。だから、ここから出られなくなっちゃったんだよ」
続けてちゃくちゃくちゃんが「もう何日もここにいるのよ。でもずっと日が沈まないから、何日経ったか分からないわ」と言いました。
そんなことがあったんだ、と話に聞き入るモモタたちに、今度はちゃくちゃくちゃんが訊きました。
「あなたたちは、どうしてここまで来たのかしら? さすがに陸のお友だちが海を潜ってここでバカンスっていうのも冒険しすぎよね」
モモタは、ゾウガメじいちゃんから聞いた太陽のお話と、今までの大冒険を聞かせてあげました。
「へぇ、それは不思議な話だね」ウーマク君が言いました。「僕だったらこう思うな」そう言って続けます。
「最後に残った月は、弱くなんてなかったんじゃないかな。だって旅立てなくて残ったんじゃないもの。子星が全員旅立ったら、お母さん一つになってしまうでしょう? それが可哀想で耐えられなかったんだよ。だからあえて自分は残るって決めたの。
それってすごいことじゃないかな。普通、僕たちは成長する過程で色々なことを経験するし、挑戦もする。自分を試したいって思うのが普通じゃないか。そうやって自分の居場所を見つけていくんだ。でも月は、何もかもをすっ飛ばして自分の居場所を見つけていたんだよ。
自分がすべきことが分かっていたんだ。使命っていうのかな? 母星が一つになって悲しんだりさせないために、一身を捨てて一緒にいる道を選んだんだよ」
ウーマク君は空を見上げました。
「ここにはなぜか夜はないし星も見えないけれど、星々は夜空一面に散りばめたように別々に瞬いているよ。それは、星が大人になったらどこかに旅立つってことじゃないかな。
それなのに、月は自分だけ旅立たないって決心をしたんだ。すごいことだよ。自分だけ違うことをできるなんてすごいことだよ」
くるりと横に回転して、ウーマク君は続けます。
「それに、生んでくれた家族から旅立つことだけが子供のすべき目標でもないよ。僕たちイルカは、親戚もみんな近くに住んでいるしね。どこかに一頭で旅立つなんてしない。みんなでいるからこそ得られる力だってあるよ」
突然、ウーマク君が申し訳なさそうな表情で、ちゃくちゃくちゃんを見やります。
「僕は、月の気持ちが分かるよ。だって僕、今月と同じ気持ちだから。僕は、一生ここにいたっていいって思えているからね。僕のせいでこんな目にあわせてごめんね、ちゃくちゃくちゃん。
ちゃくちゃくちゃんは、僕にとって太陽だよ。母星が子星を探し続けているように、僕を追って危険なクークブアジハーのお家まで来てくれたんだ。そんなちゃくちゃくちゃんを見捨てて、自分だけここから逃げられないよ。恩返しに僕は一生ここに住む。君の月になってあげるよ」
「ウーマク君・・・」
ちゃくちゃくちゃんが、ウーマク君の胸びれに引き寄せられて、頬を朱に染めました。
二頭から、桃色ハートが舞い上がるのが見えるようです。あまりのイチャイチャぶりに、モモタたちは蚊帳の外。とても話しかけられる雰囲気ではありません。
しばらくして、ちゃくちゃくちゃんが言いました。
「わたし、お月様はまだ旅立つ時じゃなかったって思うわ。ママが、わたしたちに息継ぎを教えたり、泳ぐ練習をさせたりするのと同じように、お母さん星は、残った子星に闇夜で輝く術を学ばせようとしたんじゃないかしら。
でも、お月様は練習するのが嫌だったのよ。どこにでもいるでしょう? そう言う子」
そう言いながら、ちらりとウーマク君を見やります。
「あはは」と笑うウーマク君。「僕みたい」
ちゃくちゃくちゃんが続けます。
「でも、練習しないからっていけないわけじゃないのよね。日々の生活の中で学びっていくらでもあるし、練習以外から学べることもたくさんあるわ。ウーマク君は全然お魚捕る練習しなかったけれど、でもとってもお魚捕るの上手じゃない。親戚のお兄ちゃんたちと、いつも追いかけっこして遊んでいたからよ。
練習の仕方や教え方も色々。お母さん星の教え方は、たまたまお月様には合わなかったんじゃないかしら。だから、お月様は『いやいや』をしたのよ。
お母さん星は、駄々をこねるお月様を追いかけまわしているのね。虹の雫も、お月様をあやして出てこさせるために落としたんじゃないかしら。だって、色鮮やかな雫だなんてとてもきれいだもの。悲しみは沈んだ色は一色だとわたしは思うわ」
チュウ太が訊きます。
「じゃあ、月には何が必要だったんだろう? 母星は何をしてあげればいいんだろう」
「お母さん星はもうしてあげているわ。お月様は、鬼ごっこがしたかったのよ。お月様自身が、それに気がついていたか分からないけれど、お月様にとってそれが一番大切なことだったの」
「旅立つために?」
「旅立たなくてもいいのさ」とウーマク君。
チュウ太は「何の目的に?」と訊き返します。
答えたのは、ウーマク君ではなくちゃくちゃくちゃんでした。
「幸せになるためよ。鬼ごっこするのが幸せだったの。それが一番大切なことよ。お月様にはそれが一番大切なことだったのよ。思い出して、お月様はとても優しく輝いているわ。モモタ君の話では、子星たちは輝いていないのに。
輝けるようになったのよ。その輝きは太陽とも違う力を持っているわ。だってわたしたちは、月があるから眠れるのだもの。だってそうでしょう? まったく光の届かない暗闇の中で、わたしたちは眠れないわ。ほんの少しの光明もない中では、わたしたちは死んでしまうもの。怖くて怖くて。すごい力よ。お月様はとても強いの。
成長はみんなそれぞれ、遅いからって早い子に追いつけないわけではないわ。今は、お母さん星と鬼ごっこしたりかくれんぼしたりしていても、いつか変わるわ。旅立つのか残るのか別の何かかは分からないけれど、鬼ごっこやかくれんぼを卒業するの」
ウーマク君が言いました。
「確かに、赤ちゃんだった頃、泳ぐのが得意でなかった子が、何年かして、その時得意だった子よりも速く泳げるようになっていることもあるもんね。
僕、赤ちゃんの頃から泳ぐのもお魚捕るのも得意だよ。今も得意だけど、昔僕より取れなかった子で、僕より得意になっている子もいる。その子、僕より泳ぐの遅いのに、なぜか僕より上手にお魚を捕るんだ」
最後に、ちゃくちゃくちゃんがみんなに言いました。
「成長は誰かと比べるものじゃないわ。比べたくなるのだろうけれど、比べても仕方ないでしょう? 上には上がいるし、下には下がいるわ。隣のお友だちと比べても、お互い下のほうかもしれないでしょう? 大事なのは自分と比べること。昨日の自分より成長できたかが大事なのよ」
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