猫のモモタ

緒方宗谷

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モモタとママと虹の架け橋

第四十一話 海ガメの卵から孵った子供

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 しばらくして、海ガメおばさんの体調が回復してきました。やはり原因は、クラゲと間違えて飲み込んだコンビニ袋だったようです。海中から海面を見上げると、海を漂うコンビニ袋が、クラゲに見えてしまう場合があるようなのです。

 ようやく喋られるようになってみんなにお礼を言った海ガメおばさんに、モモタが言いました。

 「お家に帰った方がいいよ。一頭でこんなところにいたら、またいつ誰が食べに来るか分からないし。ほら――」と言って道路の電線を見やって、続けて言います。「カラスもこっちを見てるよ。たぶん、チュウ太か海ガメおばさんを狙ってるんだよ」

 すると、海ガメおばさんが言いました。

 「だめなの。わたし子供を探しているのよ」

 「子供? 産卵じゃなくて?」モモタが訊き返します。

 「わたしまだ海に帰ることができないの。実は、今年この浜で産卵した時、どうしても生まれてくる我が子に会いたくて、ずっと砂浜近くの海にいたの。

  それから幾日も過ぎて、ようやく赤ちゃんが孵る日を迎えたわ。わたし以外にも沢山のママが産卵していたから、浜辺は赤ちゃんでいっぱいよ」

 「わぁ素敵」とアゲハちゃんが喜びました。身を乗り出して、海ガメおばさんの話に聞き入ります。

 「わたしの赤ちゃんも砂の中から頑張って這い出してきたのだけれど、なぜか一匹だけ出てこなかった。

  心配になってずっと待っていたのだけれど、一向に出てこなかったわ。そうこうする内に月日が流れてしまって、今日までこの海にいたの。

  でも、わたしたち海ガメは、いつまでもこの浜にはいられない。だから、もう南の海に行かないといけないのだけれど、最後に産んだ卵にお別れをしたくて、生んだ場所を探しに浜に上がってきたの」

 モモタが「それで会えたの?」と訊きくと、海ガメおばさんは首を横に振って悲しそうな顔で言いました。

 「どこに産んだか分からなくなってしまって・・・。
  わたしたち海の動物は、陸上では長く動けないでしょう。それなのに昼間海岸に上がったから、乾燥に耐えられなかったのね。それに、もともと体調が悪かったのに無理したから、動けなくなってしまって」

 「そこまで無理しなくても、また来年探せばよかったのに」とチュウ太が言いました。

 「それはダメ。だって来年になったら、また産卵の時期を迎えた海ガメがやってきて卵を産んでしまうから。そうなると、わたしの卵があるところも掘り起こされてしまうかもしれないわ。そうなる前に、卵の中から起こして出してやらないと」

 「そうか」とチュウ太。「もしかしたら、卵の殻が硬くて割れないのかも」

 チュウ太は、ニワトリの卵のような硬い卵を想像しているようです。

 モモタが言いました。

 「それに、砂が重くて出てこられないかもしれないね」

 アゲハちゃんとキキは、チュウ太とモモタが言ったことに納得です。

 アゲハちゃんが言いました。 

 「それなら、早く出してやらないと大変だわ。そうしないとお腹を空かせて死んじゃうわ」

 モモタたちは、海ガメおばさんと一緒に砂浜の中央辺りにやってきました。

 海ガメおばさんが言いました。

 「この辺りに産んだのよ。ああ…でも分からないわ。この辺りのどこかなのよ」

 海ガメおばさんはオロオロし出して、ハラハラ泣き始めます。

 可哀想になったモモタたちは、みんなで探してあげることにしました。

 掘っても掘っても砂で埋まってしまう穴を何ヵ所か掘った時に、穴の奥に入れたモモタの前足に、卵の感触が伝わりました。

 モモタが叫びます。

 「あった。あったよ。海ガメおばさん、ここ掘ってよ」

 海ガメおばさんが一生懸命掘り始めます。しばらくすると、割れた卵の殻が幾つか出てきました。そして、まだ割れていないまんまる卵が顔を出しました。

 海ガメおばさんが穴の中へ首を突っ込みます。

 「あった…ようやく見つけた…わたしの赤ちゃん」

 安堵溢れる声でそう呟き、くちばしで卵をノックして「赤ちゃん早く出ておいで」と声をかけます。ですが、返事がありません。

 チュウ太が、恐る恐る言いました。

 「もう死んでんじゃないのか?」

 「縁起でもないこと言わないの!」とアゲハちゃんがたしなめます。

 モモタが、優しくつついてみると、卵の中からコロコロと音がしました。海ガメおばさんを見やりますが、何だか分からない様子です。

 アゲハちゃんが卵のそばに舞い降りて、「何かしら?」耳をあててみます。

 みんなで「あーかちゃーん、ママですよーぅ」と声をかけてみますが、やっぱり返事はありません。

 キキが「割ってみよう」と言いました。

 「割って死んじゃったらどうするの?」とモモタが止めます。

 「生きていれば、もう殻を割っても大丈夫だよ。逆に卵の中にいたらお腹がすいて死んじゃうさ。割って確認してみよう」

 モモタが海ガメおばさんを見やると、海ガメおばさんは頷きました。  

 同意を得たキキが穴の中に入って、卵をつつきます。まんまる卵は、鳥の卵のように固くはなかったので、簡単に割れました。

 するとどうでしょう。つつかれて空いた穴から、紫色の光の筋が射しました。殻を開けてみると、中には虹の雫が入っていました。

 海ガメおばさんが、涙型をした紫色の石を見やって言いました。

 「何でこんなものが?」

 「そうか、分かった」とモモタが叫んで、みんなに言いました。

 「海ガメおばさんの赤ちゃんは、お星さまになったんだ」

 「どういうこと?」アゲハちゃんが訊き返します。

 モモタは、答えて言いました。

 「僕たちは死ぬと、お星さまになって旅に出るんだよ。流れ星は、そうして旅立ったお星さまなんだって」

 「なるほどー」と言ったチュウ太は、考え込んでいる様子です。ややあって、モモタの話を遮って言いました。

 「そのお話だと、空の星たちは死んで生まれ変わったお友達ってことだね。てことは、太陽も月もそういうことなんだ。前にキキは、『ここも星では?』 って言っていたから、もしかしたらここもご先祖様の生まれ変わりかもしれないね」

 アゲハちゃんが「まあ素敵」喜びました。「大地が温かくて実り豊かなのは、子供や孫たちを想ってのことなのね」

 モモタは「虹の雫をくれませんか?」と、海ガメおばさんにお願いしました。

 海ガメおばさんは躊躇している様子です。それも仕方がありません。なんせ、自分の産んだ卵から出てきたのですから、もしかしたら自分の子供かもしれないのです。姿かたちが変わろうとも、我が子は我が子。おいそれとあげるわけにはいかないでしょう。

 愛おしそうに虹の雫に頬を寄せる海ガメおばさんを見て、みんなは“助けたのだからおくれ”とは言えません。みんなは、モモタの背中を見つめました。

 これは、モモタの願いを叶えるための冒険です。みんなはそれをお手伝いしたくて一緒に旅してきましたが、虹の雫を前にしてそれをどうするかは、モモタ次第です。モモタがしようとしないのに、協力する自分がするのはおかしな話です。

 みんなは、モモタの決断を待ちました。そして、それがどのような結果であっても、全力で支持しよう、と心に誓っていました。

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