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モモタとママと虹の架け橋
第二十六話 オオタカのキキとクマハチのミーナ
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強い日差しが照りつける天空を切り裂くかのごとく、二羽のタカが舞い飛んでいます。
とても広い空であるはずなのに、二羽の存在感が凄まじすぎて、他の鳥たちは畑から逃げ出しました。
かろうじてカラスが残りましたが、みんな二羽のタカを刺激したくないのでしょう。キキたちを気にしながら、隅っこでごはんをついばんでいます。
タカの女の子は、自分を追って舞い上がってきたキキを見やって言いました。
「あらあなた、飛べたのね。あの子たちのお友だちのようだから、もしかして飛べないのかしらって思っていたのよ」
キキは、言いました。
「さっきなんで笑った。二回も僕を笑っただろう」
「そうだったかしら。でも、笑うしかないわね。だって猫やネズミなんかと仲良くしているんですもの。食べずにいるなんておかしいものね」
「モモタたちを悪く言うと、僕が許さないぞ」
タカの女の子は、ツンとした表情でキキを見やります。
キキは続けました。
「見たところタカのようだけど、オオタカではないな。君はいったい何者だい?」
「わたし? わたしはミーナ。空の王者クマハチのミーナよ」
キキはびっくりして言いました。
「王者? 空の王者だって? ちゃんちゃら可笑しいな。だってそうだろう。空の王者はオオタカさ。つまりはこの僕。クマハチなんて聞いたことないな」
ミーナは笑います。
「小さな体で元気なこと」
キキは、ムスッとして言い返します。
「大きければいいってもんじゃないさ。もしかして君は、オオタカを見たことがないのかい? 僕は、ずっと君が狩りをするところを見ていたけれど、僕には全く敵わないよ。だって、僕よりも飛ぶのは遅いし目もよくなさそうだからね。何より、くちばしだって小さいじゃないか」
「うふふ、そうね、確かにそうだわ。でも慢心は禁物よ。だってそれは勘違いだもの」
「勘違い? 僕より早く飛べるって言うのかい?」
「そうではないわ。あなたがオオタカでいれるのは、逃げ足が速いからよ。わたしたちがいないところに逃げられるから。目がいいおかげで弱く小さいごはんを見つけられるから。だから、わたしたち強者が見向きもしないところでも生きていけるのでしょう?
そう言う意味では、あなたたちは王者かもね。敗者の中の王者」
「なにを!」
キキは、勢いよく上方向に立旋回をしてミーナの上につき、その背に影を落としました。明らかに激怒しています。今まで誰にも見せたことがないほど、全身の羽が逆立っていました。
キキは、大きく「ヒューーーイーーー」と鳴きました。その声は遠くまで響いて、畑に身をひそめていた小さな動物たちが身を縮ませます。カラスも身をかがめて見上げました。
「“大”を冠する鷹である僕によくもそんなことを。勝負だ。どちらがすごい獲物を捕まえられるか勝負をしよう」
「“大”を冠する?」ミーナは一瞬考える素振りを見せて言いました。
「あはははは、可笑しいわね。あなたが冠しているのは“大”じゃないわ。冠しているのは“蒼”(あお)よ。光の加減で蒼ぽく見えるから、“蒼鷹(オオタカ)”っていうのよ。
そうかぁ、“大”と勘違いしていたのね。だから自分が王者だって勘違いしちゃったのね」
キキは、無理に言葉を吐こうとしましたが、なにも出せずにわなわな震えます。
勝ち誇ったかのようにミーナが言いました。
「わたし、何度かオオタカを見たことあるけれど、わたしがいる時にオオタカはここには出てこないわ。見てごらんなさい。大空にはわたし以外いないもの」
言い終わって、ミーナがキキを見やります。
「いいわ。勝負してあげましょう。あなたにここを飛ぶ資格がないってことを教えてあげるわ」
そう言って、ミーナは持っていた獲物を持って下りていきます。その先には人間がいました。
キキは、信じられない光景を目の当たりにしました。なんたることでしょう。高潔たるタカの一種であるミーナが、人間の腕にとまったのです。更には、せっかく仕留めたウサギを丸ごと渡してしまいました。キキには全く信じられません。
上空を旋回しながらキキが見ていると、男の人は、ナイフでウサギの肉を削ぎ落して、ミーナに与えました。ミーナは、それを足で押さえつけて、美味しそうについばんでいます。
王者だと豪語していたミーナは、自らの獲物を人間に渡し、小さな肉片を分け与えてもらっているばかりか、それに喜びを覚えているようでした。人間に頭を撫でられて、ミーナは手のひらにすり寄っています。
しばらくすると、人間はミーナを乗せた手を高々と掲げました。一瞬の静寂が人間とミーナを包みます。そして、二人息を合わせてアクションを起こします。ミーナは再び大空へと飛び立ちました。
舞い上がってきたミーナに、キキが訊きました。
「なぜあんな大物を人間にあげたんだ。まさかとは思うけど、人間に飼われているのか?人間に飼われているなんて情けない」
「飼われているわけじゃないわ。わたしたちは戦友よ。わたしとあの人間で協力し合って、狩りをしているの」
キキには信じられません。
天空を駆ける二羽のタカが、それぞれの存在を示すかのごとく声高々に咆哮を上げます。
鋭い眼光を放つ黄色の虹彩を持つ目に睨まれて、カラスたちも逃げ出しました。キキの旋回範囲が広がって、カラスをも射程に収めたからです。
カラスはくちばしも大きく爪も鋭いのですが、猛禽類には及びません。同じくらいの大きさのキキを相手にしても、力では全く敵わないのです。
キキが自らを空の王者と称するだけのことはあります。キキには、カラスすら一撃で仕留めてごはんにしてしまうほどの、圧倒的な力がありました。
キキとは違う軸で旋回していたミーナは、必死に獲物を選別しています。
ミーナには勝算がありました。実は、飛び立つ前からすでにある程度の目星がついていたのです。今日一日何度も上空から獲物の位置を観察していましたし、人の腕から飛び立つときには、すでに目標をある程度定めていたからです。
(ネズミ、トカゲ、カエル、どれも違うわ。――イタチ、あれだわ!)
ミーナの瞳がイタチを捉えた瞬間、狙いを定めるために小さく左旋回して、照準が定まると同時に、イタチめがけて下降を開始しました。
悠然と舞うキキは、ミーナの動きを鷹揚に見やってから、前を向きました。そして、突然右上方に弧を描いて舞い上がって背を下にしたかと思うと、ひらりと下方向にUターンして、そのまま地面へと一直線に突入していきます。
弾丸のようなスピードです。ミーナの耳に風を切る音が聞こえたかと思うと、一瞬にして自分を追い越していくキキの背中が見えました。
信じられない速さです。モモタたちでさえ、あんなにも早く飛ぶキキを見たことがありません。
一生懸命走って逃げるイタチですが、もはや運命は決していました。姿を上空から捕えられてはなす術もありません。瞬く間に距離を縮められて、一瞬でキキに鷹掴みにされてしまいました。
しかも、ミーナがウサギを捕まえた時のようにもんどりうって取っ組み合うことなく、飛行体勢を崩さず、高々と飛翔していきます。
ミーナは、狩りにおいて全くキキの足元にも及びませんでした。
とても広い空であるはずなのに、二羽の存在感が凄まじすぎて、他の鳥たちは畑から逃げ出しました。
かろうじてカラスが残りましたが、みんな二羽のタカを刺激したくないのでしょう。キキたちを気にしながら、隅っこでごはんをついばんでいます。
タカの女の子は、自分を追って舞い上がってきたキキを見やって言いました。
「あらあなた、飛べたのね。あの子たちのお友だちのようだから、もしかして飛べないのかしらって思っていたのよ」
キキは、言いました。
「さっきなんで笑った。二回も僕を笑っただろう」
「そうだったかしら。でも、笑うしかないわね。だって猫やネズミなんかと仲良くしているんですもの。食べずにいるなんておかしいものね」
「モモタたちを悪く言うと、僕が許さないぞ」
タカの女の子は、ツンとした表情でキキを見やります。
キキは続けました。
「見たところタカのようだけど、オオタカではないな。君はいったい何者だい?」
「わたし? わたしはミーナ。空の王者クマハチのミーナよ」
キキはびっくりして言いました。
「王者? 空の王者だって? ちゃんちゃら可笑しいな。だってそうだろう。空の王者はオオタカさ。つまりはこの僕。クマハチなんて聞いたことないな」
ミーナは笑います。
「小さな体で元気なこと」
キキは、ムスッとして言い返します。
「大きければいいってもんじゃないさ。もしかして君は、オオタカを見たことがないのかい? 僕は、ずっと君が狩りをするところを見ていたけれど、僕には全く敵わないよ。だって、僕よりも飛ぶのは遅いし目もよくなさそうだからね。何より、くちばしだって小さいじゃないか」
「うふふ、そうね、確かにそうだわ。でも慢心は禁物よ。だってそれは勘違いだもの」
「勘違い? 僕より早く飛べるって言うのかい?」
「そうではないわ。あなたがオオタカでいれるのは、逃げ足が速いからよ。わたしたちがいないところに逃げられるから。目がいいおかげで弱く小さいごはんを見つけられるから。だから、わたしたち強者が見向きもしないところでも生きていけるのでしょう?
そう言う意味では、あなたたちは王者かもね。敗者の中の王者」
「なにを!」
キキは、勢いよく上方向に立旋回をしてミーナの上につき、その背に影を落としました。明らかに激怒しています。今まで誰にも見せたことがないほど、全身の羽が逆立っていました。
キキは、大きく「ヒューーーイーーー」と鳴きました。その声は遠くまで響いて、畑に身をひそめていた小さな動物たちが身を縮ませます。カラスも身をかがめて見上げました。
「“大”を冠する鷹である僕によくもそんなことを。勝負だ。どちらがすごい獲物を捕まえられるか勝負をしよう」
「“大”を冠する?」ミーナは一瞬考える素振りを見せて言いました。
「あはははは、可笑しいわね。あなたが冠しているのは“大”じゃないわ。冠しているのは“蒼”(あお)よ。光の加減で蒼ぽく見えるから、“蒼鷹(オオタカ)”っていうのよ。
そうかぁ、“大”と勘違いしていたのね。だから自分が王者だって勘違いしちゃったのね」
キキは、無理に言葉を吐こうとしましたが、なにも出せずにわなわな震えます。
勝ち誇ったかのようにミーナが言いました。
「わたし、何度かオオタカを見たことあるけれど、わたしがいる時にオオタカはここには出てこないわ。見てごらんなさい。大空にはわたし以外いないもの」
言い終わって、ミーナがキキを見やります。
「いいわ。勝負してあげましょう。あなたにここを飛ぶ資格がないってことを教えてあげるわ」
そう言って、ミーナは持っていた獲物を持って下りていきます。その先には人間がいました。
キキは、信じられない光景を目の当たりにしました。なんたることでしょう。高潔たるタカの一種であるミーナが、人間の腕にとまったのです。更には、せっかく仕留めたウサギを丸ごと渡してしまいました。キキには全く信じられません。
上空を旋回しながらキキが見ていると、男の人は、ナイフでウサギの肉を削ぎ落して、ミーナに与えました。ミーナは、それを足で押さえつけて、美味しそうについばんでいます。
王者だと豪語していたミーナは、自らの獲物を人間に渡し、小さな肉片を分け与えてもらっているばかりか、それに喜びを覚えているようでした。人間に頭を撫でられて、ミーナは手のひらにすり寄っています。
しばらくすると、人間はミーナを乗せた手を高々と掲げました。一瞬の静寂が人間とミーナを包みます。そして、二人息を合わせてアクションを起こします。ミーナは再び大空へと飛び立ちました。
舞い上がってきたミーナに、キキが訊きました。
「なぜあんな大物を人間にあげたんだ。まさかとは思うけど、人間に飼われているのか?人間に飼われているなんて情けない」
「飼われているわけじゃないわ。わたしたちは戦友よ。わたしとあの人間で協力し合って、狩りをしているの」
キキには信じられません。
天空を駆ける二羽のタカが、それぞれの存在を示すかのごとく声高々に咆哮を上げます。
鋭い眼光を放つ黄色の虹彩を持つ目に睨まれて、カラスたちも逃げ出しました。キキの旋回範囲が広がって、カラスをも射程に収めたからです。
カラスはくちばしも大きく爪も鋭いのですが、猛禽類には及びません。同じくらいの大きさのキキを相手にしても、力では全く敵わないのです。
キキが自らを空の王者と称するだけのことはあります。キキには、カラスすら一撃で仕留めてごはんにしてしまうほどの、圧倒的な力がありました。
キキとは違う軸で旋回していたミーナは、必死に獲物を選別しています。
ミーナには勝算がありました。実は、飛び立つ前からすでにある程度の目星がついていたのです。今日一日何度も上空から獲物の位置を観察していましたし、人の腕から飛び立つときには、すでに目標をある程度定めていたからです。
(ネズミ、トカゲ、カエル、どれも違うわ。――イタチ、あれだわ!)
ミーナの瞳がイタチを捉えた瞬間、狙いを定めるために小さく左旋回して、照準が定まると同時に、イタチめがけて下降を開始しました。
悠然と舞うキキは、ミーナの動きを鷹揚に見やってから、前を向きました。そして、突然右上方に弧を描いて舞い上がって背を下にしたかと思うと、ひらりと下方向にUターンして、そのまま地面へと一直線に突入していきます。
弾丸のようなスピードです。ミーナの耳に風を切る音が聞こえたかと思うと、一瞬にして自分を追い越していくキキの背中が見えました。
信じられない速さです。モモタたちでさえ、あんなにも早く飛ぶキキを見たことがありません。
一生懸命走って逃げるイタチですが、もはや運命は決していました。姿を上空から捕えられてはなす術もありません。瞬く間に距離を縮められて、一瞬でキキに鷹掴みにされてしまいました。
しかも、ミーナがウサギを捕まえた時のようにもんどりうって取っ組み合うことなく、飛行体勢を崩さず、高々と飛翔していきます。
ミーナは、狩りにおいて全くキキの足元にも及びませんでした。
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