猫のモモタ

緒方宗谷

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モモタとママと虹の架け橋

第二十五話 タカの女の子

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 モモタたちは、とある田舎へとやってきました。

 遠くの山のすそ野まで畑が広がっていて、今正に収穫時の葉野菜が青々としています。

 アカシジミから「おしゃぶりちゅっちゅーじゃないかしら?」と言われたアゲハちゃんが、「虹の雫は向こうに大切にしまわれているらしいわ」と言うのでここまで来ましたが、正直みんな(アゲハちゃん以外)、ホントかなぁ? と思っていました。

 事実上、当てもなく進んできましたから、モモタはそろそろ情報が欲しいところです。

 太陽の通り道を辿れば、どこかで見つかる、と思ってはいるものの、季節によって太陽の通り道はだいぶ違います。ですから、二つ目の雫の在り処を見落として通り過ぎてしまったのかもしれない、と思うようになっていたのです。

 遠くに、「ヒュー、ウー」というタカのようの鳴き声が聞こえました。見ると、遠くの空に一羽の鳥が飛んでいます。キキだけには、飛んでいる鳥がタカだと分かりました。

 キキは、自分と同じオオタカ以外のタカを見たことがありません。ですが本能的に分かったのです。

 キキは言いました。

 「へえ、ここいらには狩場があるらしいな。人里が近いのに何がいるんだろうな」

 「ネズミじゃない?」とモモタが言うと、キキは「まあそうだろうな」と答えて、「ちょっと見ていこうよ。あの娘(こ)オオタカじゃないみたいだからさ」と言いました。

 「あの娘(こ)って・・・」チュウ太が感心したように唸ります。「ゴマ粒くらいの大きさにしか見えないのに、よく女の子って分かるな」

 アゲハちゃんが、「なんてタカなの?」と訊きましたが、キキは「知らない」と答えました。キキは、「オオタカ以外のタカを見たことがない」とぽつりと付け加えます。

 そのあとすぐに、キキが自慢げに言いました。

 「あの山(キキの住処)に他のタカは来れないさ。だってオオタカの縄張りを奪いに来られるタカはいないもんね。奪えるとしたら、同じオオタカだけさ」

 翼を広げて、みんなに自分の大きさを見せてやります。

 モモタたちが、タカの女の子が飛んでいた辺りにやってきました。ここいら辺の畑は既に収穫されて土がむき出しになっています。所々に、葉の部分や、虫食いや傷んだ実が捨てられていました。

 ネズミの気配や虫の気配が、いたるところから感じられます。見渡すと、カラスが何やらついばんでいました。田畑は、人が作り出した楽園ですが、動物たちにとっても楽園です。

 山や森の木々や草花のように野菜が生えているばかりか、川のように水路が張り巡らされて、そこには小動物や虫、メダカやドジョウ、オタマジャクシがたくさん住んでいました。鳥までやってきます。集まるお友だちが各々お好みのごはんをお腹いっぱい食べても、食べ切れません。

 野生ですから、食べられてしまう危険もありましたが、総じてみんな幸せに暮らせているように、モモタは思っていました。

 村によっては、全然虫がいない田畑もあって、鼻がしぶくなる匂いが微かにするのですが、ここの畑にはそれがありません。農薬が使われていないようです。

 モモタは、以前旅行した畑で出会ったお友達に思いをはせながら、タカの女の子が飛んでいる方を目指しました。

 そばの柿の木で待っていたキキが、滑空しながらモモタのところにやってきて土の上に下りると、すぐに空を見上げます。モモタたちも、キキの視線の先を見上げました。

 そこには、灰色のタカが飛んでいました。キキよりも一回り大きいようです。とても優雅に羽を広げて旋回しています。

 タカの女の子は、大きく向きを変えてモモタたちの方にやってきました。身を傾けてみんなを見下ろします。モモタたちを見たタカの女の子は、しばらくキキを見やってから「ふふん」と鼻で笑って飛んでいきました。

 モモタたちが目で彼女の後を追うと、タカの女の子の飛ぶ先の畑に作業着姿の男の人が立っています。 

 モモタたちは、それぞれなんとなく人間を見やりましたが、気にせずタカの女の子の華麗に飛ぶさまを眺め続けました。

 チュウ太が言いました。

 「あの子、今ごはんを探しているんだろ? 大丈夫かな、僕たちの方に来たら大変だぞ」

 すると、「大丈夫さ」キキが笑って「僕がいるのに襲えっこないよ。見ただけで僕の方が強いって分かるし」と言って、モモタの前足に隠れたチュウ太に助言しました。

 「あの子くらいでも、モモタを鷹掴みしてお家に持って帰れるから、そこに隠れていても一緒に連れて行かれちゃうよ」

 モモタは、以前牧場に遊びに行った時に、タカにさらわれそうになったことを思い出して、ゾワゾワ震えました。とても怖かったので、キキの尾っぽの陰に隠れます。

 とても安心した様子のモモタを見て、チュウ太が言いました。

 「尾っぽの羽で隠れてるのって、目ん玉だけじゃんか」

 キキが笑います。

 「美味しそうな後ろ足が丸見えじゃ世話ないね」

 おしゃべりしていると、突然キキが身を乗り出して真剣な眼差しでタカの女の子に注目しました。モモタにも緊張が伝わって、キキの後ろからタカの女の子を見やります。みんなにもキキの緊張が伝わったのか、思わず固唾を飲みこみました。

 ずっと緩やかに大きな円を描いて飛んでいたタカの女の子は、颯爽と急旋回して間髪入れずに急降下します。

 「ぶつかるー!」とアゲハちゃんが叫びました。

 弾丸のように一直線に落ちていくタカの女の子は、地面すれすれで身を翻して翼をはためかせ、一瞬きりもみ状態で二転三転したかと思うと、濃い灰色の何かを鷹掴みして舞い上がっていきます。

 キキが「うさぎだ」と言いました。

 山の中でもないのにうさぎがいるなんて、とモモタはびっくりしました。

 空高く舞い上がったタカの女の子は、モモタたちの上空にやってきてみんなを見やります。

 モモタの赤い首輪が、タカの女の子の目にとまりました。

 赤い首輪には、小さな桃色の巾着袋がぶら下がっています。千夏お姉ちゃんがくれたものでした。虹の雫を入れるために、お姉ちゃんがつけてくれたのです。

 その横には、花びらの包みが細い茎でぶら下がっています。これにはアゲハちゃんの蜜が入っていました。

 その2つを見て、タカの女の子は何を感じたのでしょうか。チュウ太とアゲハちゃんを見た後キキを見やって、また「ふふん」と鼻で笑います。

 それを見た瞬間、キキの羽が逆立ちました。笑われるのは二回目ですから、怒ったのでしょう。すごい旋風を巻き起こして、キキが飛び立ちました。

 旋風が起こった瞬間、モモタはキキがいたところを見ましたが、もういませんでした。アゲハちゃんは風で舞い飛ばされてしまいましたし、チュウ太は目を閉じてしまうほどでしたから、一瞬で大空へと舞いあがったキキに、みんなびっくりです。

 あんなのに襲われたらひとたまりもない、とみんな思いました。


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