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モモタとママと虹の架け橋
第七十四話 言葉に惑わされないで本心を感じること
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カンタンは、改めて虹の雫についてモモタに訊きました。
「もう幾つか集めたの? 五つ? あと二つじゃない。すごいや、もうそんなに集めたなんて。クジラから聞いたんだけれど、モモタ君はママに会いたいって願うつもりなんだろう?」
次から次へと矢継ぎ早に質問を浴びせてきます。言葉でつぶれそう。それらに一つも答えずに、モモタは訊き返しました。
「虹の雫の話信じるの? こんな不思議なこと普通信じられないでしょ?」
「信じるよ。なんせ僕、虹の雫の話を聞いて集めたんだもの」
モモタたちはびっくりです。
「それでどうなった?」とチュウ太が訊きました。
「どうなったって、お願い事が叶ったよ。当然じゃない」
「本当に叶うんだ・・・」と呟くアゲハちゃん。
モモタは、願いが叶うかどうか半信半疑であったことを話しました。
もともと七色の少女が照らし出した光の柱に願いを叶える力がある、というお話から出発した冒険だったからです。ゾウガメじいちゃんから聞いた虹の雫のお話も願いが叶うことになってはいましたが、悲しいお話だったので、ゾウガメじいちゃんは、願いが叶うというお話の信ぴょう性は低いのではないか、と言っていました。実際、物語の中で虹の雫が願いを叶えた、というお話は出てきませんでしたから、正直言ってモモタも、もしかしたら叶わないかもしれない、と思っていたのです。虹の雫で願いが叶うというお話は、モモタが信じたい、という気持ちで不安を打ち消したことによって、いつの間にか信じられるようになっていた幻想でした。
七色の少女と金色の空と虹の雫の話がごちゃ混ぜになって、虹の雫に反映されていたのです。モモタとしては初め、虹の雫を集めて、雫のために照らされた光の柱の麓に行って、雫となった太陽の願いを叶えてあげて、その時太陽に頼んで金色の空に行かせてもらおう、と思っていました。
できれば自分の光の柱を照らしてほしい、と思っていましたが、ゾウガメじいちゃんの話では、モモタには光の柱は照らされないはずでしたから、心の奥底から溢れ出た喧騒の中の希望を胸に冒険していました。途方もない計画だったので、一緒に旅するみんな以外で信じてくれる者はいない、と思っていました。
カンタンは言いました。
「僕、虹の雫のお話を聞いて、自分で集めたんだ。そして本当に叶ったんだよ。だから信じて探すといいよ」
カンタンは喜びを表すように翼を広げます。
モモタは、「何をお願いしたの?」と訊きました。
「お魚いっぱい食べたいなって」
「どうなった?」とキキ。
「うんとね。すいーと虹がかかったんだ。それで虹を上っていったら、上からたくさんのサンマやイワシやアジが滑ってきたよ。他にもたくさん喉越しいいやつばかり。もうどんな魚だったか見当もつかないくらい、いろんな種類」
カンタンは、楽しそうに思い出を語ります。そして、「流しお魚楽しかったなー」と〆くくりました。
お魚いっぱいのお話を聞いて夢見心地のまったりモモタが訊きました。
「今、虹の雫がどこにあるか知っているの?」
「一つは知っている、あと確かカモメも知っているはずだよ」
「君は、もうお願い事はいいのかい?」とキキが確認しました。
カンタンが「うん」と頷きます。「当分いいよ。流し魚の楽しみは、またいつかに取っておくよ。流しお魚は楽しいけれど、自分で探して捕まえる楽しみは味わえないからね」
モモタは、「分かるー」と相づちを打ちました。「もらえるごはんは美味しいけれど、追いかけっこして食べるごはんもおいしいんだよ」
アゲハちゃんがきょとんとしながら言いました。
「味は舌だけで味わうわけではないのねー」
花の蜜をなめているアゲハちゃんは、ごはんを捕まえるという感覚がないので、よく分かりません。
チュウ太は、美味しい木の実を枯れ草の下から見つけた時の喜びを知っているので、少し分かる気がするようです。でも実りの季節を待つ楽しみの方が多いので、花の開花を楽しみに待つアゲハちゃんとの方が、気が合うようでした。
クジラは、もうしばらくここの海でバカンスするそうなので、モモタはもう一度屋久杉を見に行きました。
枝葉が折れ、根元が地面に沈み込み、幹が傾いているとはいえ、見上げるほどの大きさです。
媼がやってきて言いました。
「どうなさった。モモちゃんよ」
モモタは、昨日の夜、嵐の中で起きた不思議な出来事を話して聞かせました。
静かにそれを聞いていた媼は、聞き終るとゆっくりと語り出します。
「わたしらは昨日の晩、ずっとこの木におったが、そのような叫びは聞こえなんだ」
モモタが聞いた声は、夢や幻だったのでしょうか。
媼が言います。
「わたしが旅蝶から聞いた話では、燃える石を手に入れた蒲葵樹は、同じ木々を守るために燃える石を使ったことになっておるが、この屋久杉を目の当たりにして、そうではなかったのではないか、と思っておった。
この屋久杉は、虹の雫を独り占めにして周りの木々を枯らせてしまったのだから、蒲葵樹も同じように枯らせてしまったのではないか、とな。
真相は分からん。だが一つだけ言えることがある。独り占めしようとする者は全て失う。手に入れたものが多すぎて抱えきれんからの。右からこぼれれば、次は左からこぼれる。
この屋久杉は、あまりにも広く高く深い望みを持った。だから天罰が下ったのじゃろう」
モモタは、一匹で屋久杉の幹に近づきます。途中で根の隙間から覗く洞穴の奥は、何事もない洞穴でした。モモタでも入れる場所を見つけたので入ってみましたが、なんの変哲もありません。
後ろをついてきていたチュウ太が言いました。
「不思議だなぁ。ホントにこの根が動いていただなんて」
モモタは、穴の中から出て屋久杉を見上げました。
「大きくなりたかったんだね」
そして心の中で考えました。
(たぶん、あれは幻だったんだと思う。この屋久杉は、そんなことしない気がする。だって、最初に見た時とても感動したんだもん)と。
そしてチュウ太に言いました。
「望むものがたくさんあったらいけないなんてことないと思うよ。この屋久杉が抱えたものはみんな落ちてしまったけど、残ったものもあるじゃない」
屋久杉から聞こえるのは、楽しげに歌う鳥のさえずり。見えるのは舞い踊る蝶々たち。残った梢は程よく陽の光を遮り、キラキラと輝く光と共に揺れる影を落としています。
嵐の後で荒れてはいますが、ここには楽園になる気配が感じられました。
「もう幾つか集めたの? 五つ? あと二つじゃない。すごいや、もうそんなに集めたなんて。クジラから聞いたんだけれど、モモタ君はママに会いたいって願うつもりなんだろう?」
次から次へと矢継ぎ早に質問を浴びせてきます。言葉でつぶれそう。それらに一つも答えずに、モモタは訊き返しました。
「虹の雫の話信じるの? こんな不思議なこと普通信じられないでしょ?」
「信じるよ。なんせ僕、虹の雫の話を聞いて集めたんだもの」
モモタたちはびっくりです。
「それでどうなった?」とチュウ太が訊きました。
「どうなったって、お願い事が叶ったよ。当然じゃない」
「本当に叶うんだ・・・」と呟くアゲハちゃん。
モモタは、願いが叶うかどうか半信半疑であったことを話しました。
もともと七色の少女が照らし出した光の柱に願いを叶える力がある、というお話から出発した冒険だったからです。ゾウガメじいちゃんから聞いた虹の雫のお話も願いが叶うことになってはいましたが、悲しいお話だったので、ゾウガメじいちゃんは、願いが叶うというお話の信ぴょう性は低いのではないか、と言っていました。実際、物語の中で虹の雫が願いを叶えた、というお話は出てきませんでしたから、正直言ってモモタも、もしかしたら叶わないかもしれない、と思っていたのです。虹の雫で願いが叶うというお話は、モモタが信じたい、という気持ちで不安を打ち消したことによって、いつの間にか信じられるようになっていた幻想でした。
七色の少女と金色の空と虹の雫の話がごちゃ混ぜになって、虹の雫に反映されていたのです。モモタとしては初め、虹の雫を集めて、雫のために照らされた光の柱の麓に行って、雫となった太陽の願いを叶えてあげて、その時太陽に頼んで金色の空に行かせてもらおう、と思っていました。
できれば自分の光の柱を照らしてほしい、と思っていましたが、ゾウガメじいちゃんの話では、モモタには光の柱は照らされないはずでしたから、心の奥底から溢れ出た喧騒の中の希望を胸に冒険していました。途方もない計画だったので、一緒に旅するみんな以外で信じてくれる者はいない、と思っていました。
カンタンは言いました。
「僕、虹の雫のお話を聞いて、自分で集めたんだ。そして本当に叶ったんだよ。だから信じて探すといいよ」
カンタンは喜びを表すように翼を広げます。
モモタは、「何をお願いしたの?」と訊きました。
「お魚いっぱい食べたいなって」
「どうなった?」とキキ。
「うんとね。すいーと虹がかかったんだ。それで虹を上っていったら、上からたくさんのサンマやイワシやアジが滑ってきたよ。他にもたくさん喉越しいいやつばかり。もうどんな魚だったか見当もつかないくらい、いろんな種類」
カンタンは、楽しそうに思い出を語ります。そして、「流しお魚楽しかったなー」と〆くくりました。
お魚いっぱいのお話を聞いて夢見心地のまったりモモタが訊きました。
「今、虹の雫がどこにあるか知っているの?」
「一つは知っている、あと確かカモメも知っているはずだよ」
「君は、もうお願い事はいいのかい?」とキキが確認しました。
カンタンが「うん」と頷きます。「当分いいよ。流し魚の楽しみは、またいつかに取っておくよ。流しお魚は楽しいけれど、自分で探して捕まえる楽しみは味わえないからね」
モモタは、「分かるー」と相づちを打ちました。「もらえるごはんは美味しいけれど、追いかけっこして食べるごはんもおいしいんだよ」
アゲハちゃんがきょとんとしながら言いました。
「味は舌だけで味わうわけではないのねー」
花の蜜をなめているアゲハちゃんは、ごはんを捕まえるという感覚がないので、よく分かりません。
チュウ太は、美味しい木の実を枯れ草の下から見つけた時の喜びを知っているので、少し分かる気がするようです。でも実りの季節を待つ楽しみの方が多いので、花の開花を楽しみに待つアゲハちゃんとの方が、気が合うようでした。
クジラは、もうしばらくここの海でバカンスするそうなので、モモタはもう一度屋久杉を見に行きました。
枝葉が折れ、根元が地面に沈み込み、幹が傾いているとはいえ、見上げるほどの大きさです。
媼がやってきて言いました。
「どうなさった。モモちゃんよ」
モモタは、昨日の夜、嵐の中で起きた不思議な出来事を話して聞かせました。
静かにそれを聞いていた媼は、聞き終るとゆっくりと語り出します。
「わたしらは昨日の晩、ずっとこの木におったが、そのような叫びは聞こえなんだ」
モモタが聞いた声は、夢や幻だったのでしょうか。
媼が言います。
「わたしが旅蝶から聞いた話では、燃える石を手に入れた蒲葵樹は、同じ木々を守るために燃える石を使ったことになっておるが、この屋久杉を目の当たりにして、そうではなかったのではないか、と思っておった。
この屋久杉は、虹の雫を独り占めにして周りの木々を枯らせてしまったのだから、蒲葵樹も同じように枯らせてしまったのではないか、とな。
真相は分からん。だが一つだけ言えることがある。独り占めしようとする者は全て失う。手に入れたものが多すぎて抱えきれんからの。右からこぼれれば、次は左からこぼれる。
この屋久杉は、あまりにも広く高く深い望みを持った。だから天罰が下ったのじゃろう」
モモタは、一匹で屋久杉の幹に近づきます。途中で根の隙間から覗く洞穴の奥は、何事もない洞穴でした。モモタでも入れる場所を見つけたので入ってみましたが、なんの変哲もありません。
後ろをついてきていたチュウ太が言いました。
「不思議だなぁ。ホントにこの根が動いていただなんて」
モモタは、穴の中から出て屋久杉を見上げました。
「大きくなりたかったんだね」
そして心の中で考えました。
(たぶん、あれは幻だったんだと思う。この屋久杉は、そんなことしない気がする。だって、最初に見た時とても感動したんだもん)と。
そしてチュウ太に言いました。
「望むものがたくさんあったらいけないなんてことないと思うよ。この屋久杉が抱えたものはみんな落ちてしまったけど、残ったものもあるじゃない」
屋久杉から聞こえるのは、楽しげに歌う鳥のさえずり。見えるのは舞い踊る蝶々たち。残った梢は程よく陽の光を遮り、キラキラと輝く光と共に揺れる影を落としています。
嵐の後で荒れてはいますが、ここには楽園になる気配が感じられました。
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