猫のモモタ

緒方宗谷

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ウジ

広く豊かなうんちでも、土の大地はもっと広い

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 よそ風が吹くたびに、ささらささら、と言うこずえの囁きが、ほのかな緑の香りを放ち、こぼれ日に溶けて、広がります。
 そんな中、ブーーン、と言う羽音が聞こえていました。
 大きなやぶ蚊です。1匹で、行ったり来たりしていました。
 それを見ていた末ウジが言いました。
 「あのやぶ蚊、さっきからずっと飛んでいるぞ。
  なんかこっちを見ているな」
 すると、ウジ光が言いました。
 「どうせ、俺たちが羨ましいんだろ。
  ビチビチうんこに浸かっている俺たちを妬ましのさ」
 「ふーん、言えばいいのに。『うんこください』って」
 弟たちの会話を聞いて、一番上のお兄っちゃんのウジ松が言いました。
 「やぶ蚊なんかにそんな勇気ないさ。
  なんせ俺たちウジなんだぜ。
  やぶ蚊がそんなに強いやつなら、あんなにやせ細ってなんかいないさ」
 笑い転げる3匹は、歌い始めます。
 ♬おっきいおっきいやぶ蚊なのに、手足が長いやぶ蚊なのに、
  動かすだけで、折れちゃいそうだ♪
  おっきいおっきいやぶ蚊なのに、羽音が大きいやぶ蚊なのに、
  独りぼっちで、悲しいやつだ♪
  痩せた足と大きな音で、同情引く気でいるんだろう♪
  あんなんだから、1匹ぽっち♬
 やぶ蚊は、とても心が苦しくなって、歌が聞こえないところへと飛んでいきました。
 そうしてようやく見つけた血の良い香り。
 探してみると、モモタがいます。
 やぶ蚊は、モモタの肩にとまって言いました。
 「はぁあ、嫌になっちゃうよ。
 ちょっとモモタの上で休ませて」
 「うん」と答えたモモタでしたが、慌てて、「やー」と叫んで逃げました。
 血を吸われてかゆくなるからです。
 たまたま逃げた方から、ウジたちのどんちゃん騒ぎが聞こえてきます。
 その歌にモモタが気がつきました。
 「あのやぶ蚊、あの歌がつらくて逃げてきたんだ」
 歌を聞いてみて、モモタは思いました。
 「おかしいの。だってやぶ蚊はうんち食べないもん。
  花の蜜とか木のジュースとか、血を吸うんだよ」
 最近まで、この辺りには熊の匂いがついていました。
 そして今は、ビーグル犬の匂いもついています。
 ですから、野生のお友達は怖がって出てこないのです。
 たぶん、ウジたちはそれに気がついていないのでしょう。
 モモタはさらに気がついて、やぶ蚊がいた方を振り返って、もう一度歌が聞こえるほうを見て思いました。
 (もしかして、ウジたち、気にも留められていないんじゃない?)


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