猫のモモタ

緒方宗谷

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昔を懐かしむ老犬の話

今は自分の今が今

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 おじいちゃん犬の住むお家の前を、犬車に乗せられたスーパーおじいちゃん犬が通りかかりました。
 反対側から、スーパーを超えるウルトラおじいちゃん犬が、やってきます。
 犬車を押すご主人様の奥様たちは知り合いだったらしく、おしゃべりを始めました。
 お家のお庭で寝そべるおじいちゃん犬のそばで日向ぼっこをしていたモモタは、門越しに2匹を見やりました。
 2匹ともヨボヨボヨボボのしわだらけです。
 モモタに向かって右側にいたスーパーおじいちゃんが、クンクン鼻で匂いを探りながら、ウルトラおじいちゃんのほうを向いて言いました。
 「昔々の犬たちは羨ましいもんだ。
  わしは小さかった頃から、いつも針で刺されてばかりじゃが、あんさんらの頃は、チクリとされんかったじゃろう」
 「ふん」とウルトラおじいちゃんが鼻を鳴らして言いました。
 「わしが若かった時は、野良が多くて大変じゃったわい。
  散歩するのも一苦労じゃ。
  それと比べて、なにがしさんはお気楽にどこにでも行けてよかったの」
 苦労合戦の始まりです。
 スーパーおじいちゃんが言いました。
 「わしゃ昔よく風呂に入れられて困っちょったよ。
  もっと昔は風呂なんてなかったんじゃろ? いい気なもんじゃったなぁ」
 すると、ウルトラおじいちゃんが笑います。
 「わしらも入れられておったさ。
  お前さんが言う風呂って、ご主人様と一緒の風呂じゃろ。
  わしの頃は、庭に出されたタライじゃ、びしょぬれだから、後で足に土がまとわりついて、大変じゃったわい」
 「なにが大変なんじゃ?気楽なもんじゃ。
  わしは湯を浴びせられておったんじゃ。
  熱くて熱くて苦労したぞい」
 舌の戦いは、長いこと続きました。だってご主人様同士の立ち話が長いから。
 でも全然決着がつきません。
 終いには、ウルトラおじいちゃん犬が怒りで大爆発です。
 「この若造がー!!」ウルトラおじいちゃん犬が吠えました。
 「くそじじいー!!」とスーパーおじいちゃん犬も吠え返します。
 すごい剣幕――なはずですが、どうもそんな気迫は伝わりません。
 止めに入ろうと門のほうに歩み寄ったモモタでしたが、お座りをしてみていました。
 2匹ともヨボヨボヨボボだったので、なんか可愛くしか見えません。
 そんな2匹を微笑ましく見ていたモモタは、思いました。
 「変なのー。おんなじおじいちゃん同士でも、ウルトラおじいちゃんにとっては、若造なんだ。
  それに、おじいちゃんがおじいちゃんにくそじじいって言うのもなんだかなぁ」
 モモタの後ろからヨタヨタやってきたおじいちゃん犬が言いました。
 「どっちもおじいちゃんじゃんの、困った年寄りじゃわい。
  これだから年寄りには敵わんよ」
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