猫のモモタ

緒方宗谷

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古風な町のお友達

言うは易し、行うは難し

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 おぼろ月夜の丑三つ時です。
 何やら訓練に励む声が、楢の木の森に響いていました。
 その声で目を覚ましたモモタは、何をやっているのかな?と思って見に行ってみることにしました。
 月明かりしかない中で、何かの塊が飛んでいます。
 そして、行ったり来たりするその塊に向かって、監督さんが発破をかけていました。
 「ほら違うよ。右前足の運びが悪いんだ。
  飛び出すのが早いよ、もっととどめなきゃ」
 そばまで寄ってみると、その正体が分かりました。ムササビです。
 モモタは、しばらくの間見ていることにしました。
 ムササビが滑空するたんびに、木の幹の高いところにあいた穴から、監督さんが叫んでいます。
 モモタは、監督さんに言いました。
 「うまく飛んでいると思うけどな。
  あれだけ上手く飛べるなら、フクロウさんにだって捕まらないよ」
 すると、監督さんがため息をつきました。
 「あんなんで飛べるって言うもんか。落ちてるだけさ」
 「あんな高いところで、あんな遠い木と木の間を行き来してるんだよ。
  僕から見たら、飛んでるとしか言いようないな。とてもすごいよ」
 「そりゃ猫から見ればね。でも俺たちは違うんだよ」
 そこにムササビが戻ってきました。
 すると監督さんは、また発破をかけ始めます。
 「その飛び方がいけないんだ。
  ああ飛ぶからいけないんだ。
  そうやるからいけないんだ」
 文句ばかり。(僕だったら、心が疲れちゃうな)と、モモタは思いました。
 ですが同時に、(もっとうまく飛べたら凄いだろうな)とも思いました。
 そこでモモタは訊いてみます。
 「ねえ監督さん、僕監督さんの飛ぶ姿も見てみたいな。
  だってあのムササビ君も、言葉で言われてるだけより、上手い飛び方を見て習った方が、上達すると思うんだ」
 「ええっ?」
 裏返った声が聞こえてきました。そして、木の幹に空いた穴から顔を出した監督さんが、モモタを見下ろして、お口をあんぐり絶句しています。
 そばの木にとまったムササビの笑う声が聞こえます。
 巣穴から顔を出したのは、リスでした。


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