猫のモモタ

緒方宗谷

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夢見がちなシュモクザメの話

時を進めるのは自分自身

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 シュモちゃんは、みるみる間に大きくなっていきました。
 その大きさは、ついにモモタと同じくらいとなりました。
 モモタは珊瑚礁の上から、煌めくベールの様にたわめく小魚の群れを掻き分けて優雅に泳ぐシュモちゃんに魅了されながら、言いました。
 「シュモちゃんには、この海はもうそろそろ狭いんじゃないの?お腹を擦っちゃうでしょう?」
 すると、今まで楽しそうに泳いでいたシュモちゃんは、急にしょげた感じになって言いました。
 「うん、でも外は僕にとってまだ広すぎるんだ。
  外海は底が見えないほど深いし、泳いでいる魚はみんな大きいから、いつか自分の方が大きくなってから泳いで出ようと思うんだ」
 モモタは、シュモちゃんはこの海を卒業すべきだと思っていました。
 だって光の結晶のような小さな熱帯魚に目もくれず、モモタも羨むようなお魚を捕まえては食べていたからです。
 そこでモモタは言いました。
 「いつかはいつまで経っても来ないよ。自分から“いつか”に向かって泳いでいかなきゃ」
 シュモちゃんの身も心も、もう準備は整っているはずです。
 モモタは微笑みかけました。
 「きっとシュモちゃんは理想が高いんだね。
  だって前語っていた夢の中のシュモちゃんは、今のシュモちゃんとおんなじくらいだったよ。
  でも今の夢のシュモちゃんは、もっともおーっと大きいもんね」
 シュモちゃんは照れました。
 モモタは続けます。
 「生まれる前から『ホオジロザメなんか目じゃない』って言ってたでしょう?
  でもここにいたらそうはなれないよ。だってここにはそんな大きなお魚いないしゃない。
  ここにいる大きなお友達は、シャコガイかナンヨウブダイかカニさんくらいじゃい」
 シュモちゃんは、モモタに訊きました。
 「モモタは僕に、無理してでもお外に出ろって言うの?」
 とても不安そうです。
 モモタは次の言葉を失いました。励ましていたつもりだったのに、勇気を挫いていたのです。



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