猫のモモタ

緒方宗谷

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夢見がちなシュモクザメの話

遠くは見えても自分は見えず

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 浜珊瑚に囲まれた浅いすり鉢状の水溜まりの中に、シュモクザメのシュモちやんが住んでいました。
 シュモちやんは、引き潮の時間になると、決まって大きな浜珊瑚のそばによって、海面近くに浮かんでいます。
 いつもモモタが遊びに来てくれるからでした。
 シュモちやんは、モモタが遊びに来るといつも大きな夢のお話をします。
 今日は、成長した自分の姿についてでした。
 「見てよモモタ。僕の目、生まれつき横に長いんだ。
  前に向かってついているモモタと違って、僕は広い世界が見えるんだ。僕の才能すごいでしょ。
  この背びれや胸びれ格好良いでしょ。尾びれなんて長く尖っていて、みんな羨ましがるんだ。
  そして締まったこの体、すごく筋肉質でしょう?無駄な脂肪なんて全然ないよ。
  ああ…想像するだけで楽しくなっちゃうよ。
  僕は、潮の流れにも負けない力強さで水を切って泳いでいくんだ」
 シュモちゃんは頭を出して、浜珊瑚越しに水平線を見つめます。そして続けました。
 「こんな狭い海にいる小魚なんてもう食べ飽きたよ。
  早くタイやなんかを食べてみたいな。
  いつかはマグロやカツオだって食べて見せるよ」
 モモタはビックリしました。
 お魚やさんで見たマグロは、モモタよりも大きいお魚でした。
 モモタか浜珊瑚の外を見やると、ナンヨウブダイが泳いでいます。とても鋭いくちばしを持っていました。
 とてもじゃありませんが、シュモちゃんでは逆にやられてしまうかもしれません。
 そうとは知らないシュモちゃんは、笑って言いました。
 「今すぐにでもお外に行ってみようかな。
  大海原に泳ぎ出るってどんな感じがするんだろう」
 シュモちゃんには全く不安がないようです。
 それを聞いた若いオオメジロザメが何匹もよってきます。
 まだ大きくはありませんが、それでもモモタの倍以上もありました。
 もし海に落ちたら食べられてしまうかもしれません。もっと小さなシュモちゃんならなおさらです。
 シュモちゃんは、浜珊瑚にアゴを乗せて海の向こうに想いを馳せます。
 「太陽は向こうから上ってくるでしょう?
  いつか水平線の向こうまで行って、よーいドン!で競争するんだ。
  太陽には負けないよ。そしたら一日中ぽかぽか明るいね。
  お腹いっぱいご飯を食べるんだぁ」
 シュモちゃんはニコニコ、笑顔が絶えません。
 その鼻先には、オオメジロザメが顔を出しています。今にもシュモちゃんを食べる勢いで首を伸ばしていました。
 モモタは、オオメジロザメを刺激してはマズイと思って、言葉を発することができません。お口をパクパクするばかり。
 まずは目の前のことを考えましょうよ。モモタは全身の毛穴からそう言いました。

 
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