猫のモモタ

緒方宗谷

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不幸を見れば幸せ気分な蚊の話

小も大を兼ねる

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 ある牧場の使われなくなった牛舎のそばに、壊れた木の桶が放置されていました。
 モモタが中を覗きこむと水が溜まっていて、小さな幼虫がぴょこぴょこ泳いでいます。とても可愛い幼虫なので、楽しくなったモモタはしばらく見ていました。
 ある日、モモタが訊きました。
 「ねえ、水の中の虫君、君は虫なのに水の中にいて苦しくないの?」
 「うん、でも僕たち、大きくなったら蚊になるんだ」
 自分達はボウフラだと名乗った幼虫たちは、陽が立つにつれて1匹、また1匹と化になってどこかへ飛んで行きました。
 モモタは、最後の1匹も蚊になって飛んで行くのを見ようと毎日桶を見に行きました。ですが、いつまで経っても最後のボウフラは蚊になりません。
 ある日、モモタはお世話になっている牧場に住んでいるママ蚊に、蚊にならないボウフラの事を話しました。
 ママ蚊はビックリして言いました。
 「あら、そんな悪い赤ちゃんがいるの?ちょっと案内してちょうだい」
 そこで、モモタがそのボウフラのところに連れて行ってあげると、さっそくママ蚊が言いました。
 「ほらほら赤ちゃん、いつまでお水の中にいる気ですか?どうして出てこないのか話してごらんなさい」
 「僕は蚊になる気なんかないよ、外に出たらもう2度と水に戻れないじゃんか。
  僕はこの快適なお水の中にいつまでもいたいんだ」
 ママ蚊は、諭すように言いました。
 「お水の独り占めはだめよ、ボウフラちゃん。
  ボウフラちゃんもいつか大人になって、後に生まれる新しいボウフラちゃんにお水を別けてあげないと、みんな困っちゃうでしょう?」
 ボウフラは笑いました。
 「他の水で泳げばいいでしょ?僕はここで一生過ごすんだ」
 「なまけてずっと水で過ごす?大人になったら、水を明け渡さないといけないわ。
 なんせ、この世にある水が向こうの池1杯とすると、私たち蚊が卵を産める水は豚が鼻で掘った穴一杯しかなの。
その中でボウフラちゃんが育てる水は、チューリップ一杯しかないんだから」
 モモタはびっくりしましたが、ボウフラは自分には関係ない事だと言って、桶の底の方に入ってしまいました。
 真夏の太陽がさんさんと輝いています。しばらくすると、桶の中にたまった水は蒸発して減っていきます。ついにはほんのちょっとになってしまいました。
 結局蚊になる時期を逃したボウフラは、にごったちょっとの水の中で、アップアップしながら一生を終えました。

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