猫のモモタ

緒方宗谷

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不幸を見れば幸せ気分な蚊の話

見えなくたって良いじゃない、全部見ようとしてみよう

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 モモタの背中に2匹の蚊の親子がとまっていました。
 お昼寝中のモモタは、自分の血を吸われている事に気が付いていません。
 ママ蚊が言いました。
 「何でちょっとしか吸わないの?
  こんなに栄養豊富な猫ちゃんがここにいるなんて珍しいのよ、早く吸ってしまいなさい」
 「え~、良いよ、僕お腹空いていないから」
 「何言っているの! 
  ここにいるみんなの中に、こんなに皮膚の柔らかくて血の吸いやすい動物はいないのよ。
  しかもこんなに無防備で簡単に血が吸えるなんて天国だわ」
 飛び立とうとする子蚊の足を引っ張ったママ蚊は、子供をモモタの毛の間に引き戻して、話を続けます。
 「都会の蚊をご覧なさい。
  いつもお腹を空かせているでしょう。
  私たちは幸せ者よ」
 「僕人間の血の方が好きなんだよ、あっちの方が栄養豊富だし美味しいよ」
 「人間は猫ほど無防備じゃないでしょう? 煙を炊いたり、死んじゃう霧を飛ばしたりしてくるのよ。
  猫の血吸っている方がどんなに楽だと思っているの?」
 子蚊は不満げです。
 「ああ、僕はなんて不幸なんだろう。
  こんなに広い大地があるのに花が咲く草はほとんど無いし、東京のように人もいない。
  山の中の様にいろんな種類の動物がいるわけでも無い。
  どうしてこんなところに生まれたんだろう」
 呆れた母蚊が話を遮ります。
 「わたしたちは幸せ者よ、東京の蚊は見つかり次第ぺしゃんこなんだから。
  それに、やぶの中にはどんなにお腹が空いても、血が吸えないやぶ蚊が大勢いるの。
  みんなが可哀相だと思わないの?」
 「そりゃ思うよ」
 「じゃあ、この猫ちゃんの血を全部吸っておやりなさい。
  こんなにぐうぐう寝ているんだから、吸いたい放題よ」
 子供は笑います。
 「こんなに大きな猫の血なんか、僕たち2匹で吸いきれるわけないじゃない。
  ばっかじゃないの?どんなにお腹を空かせたやぶ蚊だって、お腹いっぱいだったら吸わないよ」
 子蚊は飛んでいきます。それを追いかけてママ蚊も飛んで行きました。

  





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