猫のモモタ

緒方宗谷

文字の大きさ
上 下
156 / 502
弱さを知って強くなれたオオタカのキキ

ホコリを誇りに変えるには

しおりを挟む
 キキとカラスの取っ組み合いを見ているみんなは、息をのみます。
 一回りも二回りも大きなカラスが、まだ小さいオオタカの赤ちゃんにタカ掴みにされてもがいています。
 王者が見せる貫録に、カラスは全身を突っ張らせて動けなくなってしまいました。鳴く事すら出来ません。
 ご飯にしようとしていたみんなは、身構えました。
我に返ったカラスは、何とか爪から逃れて、ほうほうのていで木の上に飛んでいって、鳴きました。
 「いてて、ひどい目に遭った。
  見てよ、この傷、体に穴が開いちゃったよ」
 何本もの羽が折れています。キキの周りには、黒い羽がたくさん散らばっていました。
 自業自得ですが、とても痛々しい姿に、みんな同情しました。
 それと同時に、もし安易に襲いかかろうものなら、自分もああなると悟りました。下手にごはんにしようとすると、逆にご飯にされてしまいます。
 キキはとても怖くて、おもらししそうでしたが、フンッ、他愛もない、といった表情で本心を隠しています。
 みんな気が付かずに、さすが空の王者オオタカの子供だ、と感心しました。
 騒ぎを聞きつけて急いでやって来たモモタは、キキのそばに寄りそいます。キキを食べようとするほどのお友だち相手では、モモタがいくら頑張っても守りきれません。
 モモタは、通りかかった紋白蝶に、騙され犬のワンちゃんと、親孝行のキツネさん、それと、イタチのユキちゃんとムーちゃんを呼びにいってもらうことにしました。
 待っている間に、モモタは訊きました
 「助けてママーって呼ばないの?
  空にはタカが飛んでいるから、もしかしたら助けてくれるかもしれないし、助けてくれなくてもママを呼んでくれるかもしれないよ」
 「なんで僕がそんなこと。僕は空の王者だよ。王者は泣き言なんて言わないんだよ。何度言ったら分かってくれるのかな」
 モモタが寄りそってくれてホッとするキキでしたが、お礼も言わずにそう言いました。
 心では、お礼も言わない自分を情けないと思いましたが、王者としての誇りがのどに詰まって、言葉が出ません。
 タヌキに騙されたときといい、今回といい、誇りのせいで危うく食べられてしまうところでした。モモタの言う通りだ、と反省していましたが、言えません。その代り他の言い方をしました。
 「アイツら、カラスのくせに僕たちに勝てる気でいるのかな?」
 モモタは、カラスに勝てる気がしませんでしたが、幼くてもキキなら勝てるかも、と思いました。
 「キキ、心配しなくても、もうすぐお友だちが来るから、安心してね」
 「ああ、心配なんてするもんか。僕はとっても強いオオタカなんだから」
 モモタは、ガタガタ震えながらもそう言うキキを見て、さすがオオタカだ、と感心しました。
 それと同時に、自分のことを仲間だと思ってくれていることに嬉しく思いました。
 キキはキキで、モモタの言葉にホッと胸をなでおろします。犬とキツネとイタチが来てくれれば百匹力です。彼らはクマとイノシシとスズメバチ以外になら、そうそう負けません。
 でもケンカしたくないなぁ、と思っています。それでもキキはそう言うそぶりを見せません。ケンカする気満々です。だって僕はオオタカだから。空の王者オオタカなんだから。
 自分でそう思うことによって、周りにそう思われることによって、キキは、本当の空の王者オオタカへと成長していくのです。








しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

子猫マムと雲の都

杉 孝子
児童書・童話
 マムが住んでいる世界では、雨が振らなくなったせいで野菜や植物が日照り続きで枯れ始めた。困り果てる人々を見てマムは何とかしたいと思います。  マムがグリムに相談したところ、雨を降らせるには雲の上の世界へ行き、雨の精霊たちにお願いするしかないと聞かされます。雲の都に行くためには空を飛ぶ力が必要だと知り、魔法の羽を持っている鷹のタカコ婆さんを訪ねて一行は冒険の旅に出る。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

バンズくん

こぐまじゅんこ
児童書・童話
バンズくんと呼ばれるパンが悲しそうに言いました。 「ぼくは、サンドイッチになれないんだよな〜」 まるいパンだから、三角の形になれないのです。

ぼくの家族は…内緒だよ!!

まりぃべる
児童書・童話
うちの家族は、ふつうとちょっと違うんだって。ぼくには良く分からないけど、友だちや知らない人がいるところでは力を隠さなきゃならないんだ。本気で走ってはダメとか、ジャンプも手を抜け、とかいろいろ守らないといけない約束がある。面倒だけど、約束破ったら引っ越さないといけないって言われてるから面倒だけど仕方なく守ってる。 それでね、十二月なんて一年で一番忙しくなるからぼく、いやなんだけど。 そんなぼくの話、聞いてくれる? ☆まりぃべるの世界観です。楽しんでもらえたら嬉しいです。

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

猫のお菓子屋さん

水玉猫
絵本
クマのパン屋さんのおとなりに、猫のお菓子屋さんができました。 毎日、いろんな猫さんが、代わる代わるに、お店番。 お店番の猫さんが、それぞれ自慢のお菓子を用意します。 だから、毎日お菓子が変わります。 今日は、どんなお菓子があるのかな? 猫さんたちの美味しい掌編集。 ちょっぴり、シュールなお菓子が並ぶことも、ありますよ。 顔見知りの猫さんがお当番の日は、是非是非、のぞいてみてください!

月神山の不気味な洋館

ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?! 満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。  話は昼間にさかのぼる。 両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。 その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。

白と黒の戦争

つきいあや
児童書・童話
白の国と黒の国は戦っていました。 白の国は白を基調とした建物、白色の城。反対に黒の国は黒を基調とした建物、黒色の城。そこでは白ねこと黒ねこが分断されて暮らしていました。 クロムとシロンが出会うことで、変化が起きていきます。

処理中です...