猫のモモタ

緒方宗谷

文字の大きさ
上 下
151 / 503
弱さを知って強くなれたオオタカのキキ

喉の奥に気持ちが詰まるの?

しおりを挟む
 久しぶりに山に遊びに来てから暫くして、モモタはおかしなタヌキを見つけました。冷蔵庫に閉じ込められて以来しばらくぶりの再会です。
 モモタは不思議に思いました。タヌキはひょうひょうとしていますが、体に大きな傷跡があったからです。とても痛いはずですが、平然としています。
 気になったモモタは、隠れてタヌキの後を追ってみることにしました。
 ちょうどその頃、オオタカの巣では、一番下の弟が両親を起こさない様に、飛び立つ練習をしていました。
 タヌキの話では、当の昔に青ゲラもハトもカラスも飛びだったそうです。王者たるオオタカの自分が、巣から1歩も出た事がないなんて、恥ずかしい限りでした。
 タヌキの事をまだかまだか、と待ちわびているところにようやく来たタヌキが、開口一番に言いました。
 「お久しぶりですね。キキ君。急ぎましょう。早くしないと、ウグイスの子も飛び立ってしまいます。
  そうなったら、あなたはビリッけつ。お兄さんたちに笑われてしまいますよ」
 キキは、この僕が飛べないわけがない、誰よりも高く遠くに飛べるんだ、と思いました。
 とても緊張していたキキですが、大きく深呼吸して飛び立ちます。
 山の奥までやって来たモモタですが、オオタカの縄張りの外に来たところで、タヌキの匂いを見失っていました。もう怖くて進めません。だって、このまま進めば、オオタカの巣や熊の巣がありましたから。
 諦めて返ろうと来た道に向いた時、バサバサバサッ、と大きな音を立てて、何かがモモタの胸にぶつかりました。
 転げたモモタが、びっくりして見てみると、なんと、怪我をしたオオタカの子供でした。
 キキは、砂利道でタヌキに襲われたのですが、なんとか逃げまどって、命からがらここまで飛んできたのです。
 モモタに出会って、もうだめだー、って思ったキキでしたが、怖がるなんて許せません。なんせ自分は空の王者です。
 キキは転げた時の姿のまま動きません。命乞いをせずに目を瞑りました。羽も畳んでお腹も見せています。
 とても怖くてガタガタ震えていましたが、食べられることを怖がるわけにはいきません。
 ですが、一向に食べられる気配はありませんでした。恐る恐る片目を開けたキキに、モモタは言いました。
 「よかったね、このまま真っ直ぐ言ったら、熊のねぐらにぶつかる所だったよ」
 「何が?」
 キキは、何事もありません、といったふうに言いました。
 とてもズキズキ痛かったのですが、自分は空の王者です。子猫如きに弱みを見せるわけにはいきません。だってこいつは自分にとってはただのごはんです。
 ごはんにごはんにされるなんて格好悪いけれど、逃げるのだって格好悪い。そう思ったキキは言いました。
 「さあ、食べろ、僕は逃げも隠れもしないから」
 「うーん、美味しそうだけど、僕食べないよ。お腹いっぱいだもの」
 そうか、と思ったキキでしたが、言いたいことが言えません。タヌキから助けてほしい、と言いたいのですが、格好悪くて言えないのです。
 キキは空の王者です。天空を羽ばたきもせずに飛び回り、どんな鳥にも負けない大きな爪で獲物を捕らえる、この森の王なのです。
 とてもタヌキに食べられそうになって逃げまわっているなんて、口が裂けても言えません。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ありがとうのお話

古式亜矢
児童書・童話
くまのみらいちゃんのために、うさぎのひなちゃんががんばります。 大事な大事な「言葉」と「色」のお話。

夏休み ユナちゃんの小さな冒険物語

ゆきもと けい
児童書・童話
ユナちゃんは小学校3年生の内気な女の子。夏休みのある日、コンビニへ買い物に行くと一匹の猫と出会う。ひょんなことからユナちゃんはその猫ちゃんと小さな冒険をしてみる事になった。 たった5~6時間の出来事を綴った物語です。ユナちゃんは猫ちゃんとどんな小さな冒険をしたのでしょうか・・・ 読んで頂けたら幸いです。

猫の王子様

きらり
児童書・童話
泣けます!!力をもらえます!生きる意味とは、、心に宝石が宿る!我が家に一匹の白黒の猫の雄のまるちゃんが、やってきました。えー猫が喋る!一匹のカラスとのきらり母さんとまるの数奇な運命。そう幸せは長くは続かなく。 思い出の地へやってきたきらりは、そこで不思議な体験をしました、、、 ペットを家族のように慕う方々へ、ペットの死を受け入れ、再度そこから人生をより幸せに送れる前向きな世界へ。 実話からファンタジーの世界に広げてみました。人と動物の心触れ合う感動作となっています。

釣りガールレッドブルマ(一般作)

ヒロイン小説研究所
児童書・童話
高校2年生の美咲は釣りが好きで、磯釣りでは、大会ユニホームのレーシングブルマをはいていく。ブルーブルマとホワイトブルマーと出会い、釣りを楽しんでいたある日、海の魔を狩る戦士になったのだ。海魔を人知れず退治していくが、弱点は自分の履いているブルマだった。レッドブルマを履いている時だけ、力を発揮出きるのだ!

先祖返りの姫王子

春紫苑
児童書・童話
「第一回きずな児童書大賞参加作品」 小国フェルドナレンに王族として生まれたトニトルスとミコーは、双子の兄妹であり、人と獣人の混血種族。 人で生まれたトニトルスは、先祖返りのため狼で生まれた妹のミコーをとても愛し、可愛がっていた。 平和に暮らしていたある日、国王夫妻が不慮の事故により他界。 トニトルスは王位を継承する準備に追われていたのだけれど、馬車での移動中に襲撃を受け――。 決死の逃亡劇は、二人を離れ離れにしてしまった。 命からがら逃げ延びた兄王子と、王宮に残され、兄の替え玉にされた妹姫が、互いのために必死で挑む国の奪還物語。

王妃様のりんご

遥彼方
児童書・童話
王妃様は白雪姫に毒りんごを食べさせようとしました。 ところが白雪姫はりんごが大嫌い。 さあ、どうしたら毒りんごを食べさせられるでしょうか。 表紙イラスト提供 星影さきさま 本作は小説になろう、エブリスタにも掲載しております。

古い方 児童書・童話ジャンル(女の子向け) 短編まとめ場所「削除予」

透けてるブランディシュカ
児童書・童話
小さな子供向けの話から、そこそこ年齢上の人が読める話まではばひろくとっちらかってます。(※重複投稿)

ナミダルマン

ヒノモト テルヲ
児童書・童話
だれかの流したナミダが雪になって、それが雪ダルマになると、ナミダルマンになります。あなたに話しかけるために、どこかに立っているかもしれません。あれ、こんなところに雪ダルマがなんて、思いがけないところにあったりして。そんな雪ダルマにまつわる短いお話を集めてみました。  

処理中です...