猫のモモタ

緒方宗谷

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動物園のお友達

歯がなくても食べなくて良いわけにはいかないのに

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 ある日、動物園をお散歩していたモモタは、大きなコオロギを見つけました。
 とても大きくて珍しかったので、モモタが追いかけて遊んでいると、そのコオロギに興味を持ったどら猫がやって、モモタが遊んでいるのを邪魔します。
 モモタが怒って言いました。
 「ねえ、僕が見つけたコオロギだよ、取ろうとしないでよ」
 「なんだよ、友達ごっこなら他でやってくれよ、僕はお腹が空いているから、あのコオロギを食べたいんだ」
 モモタはお腹を空かせていなかったので、すばしっこいコオロギを追いかけて遊びたい、と思っていました。
 どら猫に食べられてしまっては遊べません。ですから、食べる気満々のどら猫からコオロギを守ってやろう、と思いました。
 それが分かったどら猫は、毛を逆立てて爪を出します。
 「なんだぁ?俺とやろおってのか?家猫のくせに野良相手に勝てると思うなよ」
 2匹して、ふにゃーうにゃー、と低い声を響かせます。
 その唸り声を聞いたそばの広場にいたカバが止めに入りました。
 「だめだよケンカは。何があってもケンカはしてはいけないよ。
  ほら見てごらん、僕の口はこんなに大きいのに、歯はほとんど無いんだよ。
  僕はケンカしないからだよ。
  だから、僕はみんなの人気者なんだ。
  ケンカしないからスイカもらったりリンゴもらったりできるんだよ。
  君たち猫も人間と仲が良いから分かるだろう?
  唸っている時よりも甘えている時の方が可愛がってもらえるでしょ?」
 それを聞いたどら猫は、カバ園の縁に座って言いました。
 「何言ってんだ、猫のことにカバが口出さないでおくれよ」
 そう言われたカバは、優しくも大きな声で言いかえします。
 「何言っているの?ケンカは止めなさ~い!」
 すごく大きな口を開けると、とても長い2本の牙が振り上げられます。モモタとどら猫は怖くなって、縁の上から外側に飛び降りました。
 「猫ちゃんだって歯の数が少ないんだから、本当はケンカしないはずだよ。
  もしケンカしなければ、みんないいお友達になれるはずだよ」
 もう一度縁に上ったどら猫は、鼻で笑います。
 「それは、カバが大きくて立派な牙があるから言えることだよ。
  もし小さかったら食べられちゃうよ」
 「そんなことないさ。
  小さくてか弱いネズミを襲うやつなんているわけないよ」
 どら猫は「ぷはは」と大声で笑いました。
 「カバしかいないお家とお庭をもらって暮らしていると、すっとんきょーなこと言えるようになるんだな、可笑しいの」 
 そして続けて言います。
 「もしカバがネズミくらい小さかったら、僕だったら食べちゃうけどな」
 モモタは、そんな小さなカバがいたら可愛いのに、と思いましたが、お腹が空いていたら食べちゃうかも、とも思いました。

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