猫のモモタ

緒方宗谷

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何も見てこなかったハマグリの話

心の奥底の声に耳を傾けて

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 モモタは、ハマグリにお別れを言いに、砂浜へやってきました。さよならを聞いたハマグリは言いました。
 「そうか、モモタも僕から離れていくんだね。これでまた1匹ぽっちか。
  ・・・ありがとう、僕の話をずっと聞いていてくれて」
 そうだ、と言ったハマグリは、貝を開いて姿を見せてくれました。
 「わ、綺麗な真珠、ハマグリなのにすごいね」
 「うん、でも僕いらないからあげるよ」
 「僕もいらないよ、だって使い道ないし」
 「そうなんだよね、僕は何でこんなもののために、1匹ぽっちになるまで一心不乱に働いて来たんだろう。
  あげる相手もいないのに、こんなの作っても意味ないや。
  この真珠が僕の結果さ、僕はこの真珠を作るために頑張って来た。成功したはずなのにこの有様。
  この真珠は僕の人生の全てを注いだものなのに、当の僕にも必要ないもの。
  ああ、僕の人生って本当何だったんだろう」
 ハマグリは、嘆いても嘆いても嘆き切れない様子です。
 「どうしてあのとき、子供たちに行かないでって言えなかったんだろう?何が僕の喉をふさいでいたんだろう?その一言さえ言えていれば、この真珠だって本当に綺麗だって思えたかもしれないのに」
 モモタは思いました。
 (真珠はとても綺麗だけど、使わなかったらただの石ころと同じなんだなぁ。
  真珠のついた首輪は素敵かもしれないけど、僕は祐ちゃんからもらった赤い首輪があるからいらないや)
 本当に大切なものを見失った猫生なんて送りたくありません。
 「僕は、ハマグリさんのおかげで、一番大切な祐ちゃんのもとに帰れるよ。
  僕は祐ちゃんの事を片時も忘れたことはなかったけれど、覚えているのに忘れているのと同じだったんだ。
  それをハマグリさんに気付かせてもらったんだよ」
 それを聞いたハマグリは、グスリとしながら笑ってくれました。
 「僕は何もしてないけどね。
  でも、そう思ってくれるのなら、少し救われる気分だよ。
  それにおあいこさ。僕も君のおかげで気が付けたことがあるんだ。
  僕は、別れがとても悲しい事だって思って、毎日毎日泣いていたけれど、今になって急にそうでもないんだなって思えたんだ」
 「どういうこと?」
 「別れがあるから、思い出が大切なんだね。
  モモタとお別れするのは寂しいけれど、悲しいとは違う気持ちなんだ。
  こんな気持ちになったお別れは、今までなかったよ」
 ハマグリは、モモタが見えなくなるまで、ずっとモモタを見送ってくれました。そして、モモタは何度も振り返りながら、砂浜を後にしました。
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