猫のモモタ

緒方宗谷

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何も見てこなかったハマグリの話

みんなの間にあった物

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 視界いっぱいの水平線。びっくりするくらい壮大な大パノラマです。でもモモタの視界の真ん中に、寂しそうな貝が1つ座っていました。
 モモタがそばに行ってあげると、振り向きもせずにハマグリが大きなため息をついて言いました。
 「はぁ、君には友達はいるのかい?」
 「うん、いるよ。
  初めてのお友だちは、人間の祐ちゃん。
  他にも蝶々や犬や鳥のお友だちもいるんだよ」
 「猫なのに猫以外にもいるなんて、すばらしいな」
 「ハマグリさんにだっているでしょ?」
 「幼い頃は僕にもいたんだ。
  海底にはサザエやアサリのお友達もいたのに、いつからだろう?いつの間にかいなくなっちゃった。大人になってから一度もあっていないなぁ」
 モモタには、お友達と会わなくなるなんて、とても信じられません。
 「大人になるってそう言うことなの?それだったら、僕大人になりたくなんかないな」
 「僕の経験からすると、大人になんかならない方が良いよ。
  1匹で生きて行く事は学ばないといけないけれど、子供の時一番大切だったものは、何としてでも守らないといけないよ」
 「僕は、祐ちゃんとお友達と思い出かな?」
 「その大切なものをいつも心に留め置かないといけないよ。
  忘れるって、とても怖いことなんだ。
  気がついた時には忘れているんだから。
  1日2日じゃないんだよ、何年も忘れているんだ。
  気がついた時には、もう最初からなかったんじゃないかって思えるほどなんだから」
 「失くなるの?手遅れなんてないよ、だって思い出したら会いに行けば良いんだから」
 「生きていればね・・・」
 永遠には生きられません。だからこそ、大好きなみんなと一緒に過ごして作った思い出が大切なのです。
 (思い出を振り返ると、心がとても温かくなるけど、もし思い出を作らなかったら、心がとても冷えるのかな)とモモタは思いました。
 ハマグリが続けます。
 「みんなどうしているんだろう?もっとたくさん遊べばよかったなぁ。
  もう年だし、みんな生きていないかもしれない。
  長いこと生きてきたのに遊んだ思い出がほとんどないんだ」
 大人っていつも何しているんだろう? とモモタは思いました。
 (僕は、大人はただ体が大きいだけかと思っていたけど、違うのかもしれない。
  でも、ハマグリが言う大人はたぶん大人じゃないんだろうな。
  だってこんなにも寂しそうなんだもん。
  奥さんや子供の思い出も、お友達の思い出も作れないなんておかしいや。
  振り返って悲しい思いをしなきゃいけないなんて、大人じゃない証拠だよ)
 モモタは、幸せだって思える今の積み重ねがあれば、老い猫になった時に今を振り返って、幸せだなぁ、と思えると思いました。


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