猫のモモタ

緒方宗谷

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動物園のお友達

お母さんはみんなのお母さん

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 丘の上にあるすり鉢状のお庭の底で、たくさんのチンパンジーが遊んでいます。
 お庭の壁はとても急な斜面で、高さもあったので、チンパンジーは人間のいるところまで上ってこられません。
 逆に言うと、モモタも下ってはいけませんでした。
 面白い形のお庭だなぁ、と思ったモモタは、手すりの上を歩きながら眺めていました。
 殺風景ですが、遊ぶものがたくさんあります。
 モモタは、丸太のジャングルジムや、ぶら下がっているタイヤで遊んでみたくて、よそ見をしていました。
 なので、人の子供がそばにいる事に気が付きません。
 お庭の底を覗こうとぴょんとジャンプした子供が急に視界に入ってびっくりしたモモタは、足を滑らせて落ちしまいました。
 「きゃ~!!!」
 叫び声を聞いたチンパンジーのオスたちが、一斉にモモタを見上げます。
 「お、珍しい生き物が転げ落ちてきたぞ。
  ボールにして遊んでやろう」
 ウホホホホ~、とみんなが集まってきます。
 コロコロスッテン、コロコロポテン。モモタは、あっちに投げられ、こっちへ投げられ、目が回ります。
 「助けてー!」
 何とか逃げ出したモモタは、追いかけてくるチンパンジーに捕まるまい、と一生懸命走ります。
 ですが、出口も入口もないので行ったり来たりするばかり。
 見かねたチンパンジーママが駆け寄ってきて、モモタを庇います。
 「こんなにかわいいフワフワモコちゃんをイジメるなんて、ひどいわ」
 オスたちは言いました。
 「俺たちの庭に落ちてきたのが悪いさ。いいから返せよ」
 「いやよ、この子は私の坊やにするの」
 それを聞いたみんなは、笑います。
 「そいつチンパンジーじゃないぞ。
  そんな妙な変ちくりんなんか、家族にしてやんないからな」
 すると、他のチンパンジーが言いました。
 「食べてみようぜ」
 「お、良いね。俺たちベジタリアンじゃないのに、いつも人間は果物と野菜しかくんないからな」
 チンパンジーママは、怖がるモモタをギュッと抱きしめます。
 しばらくすると、どこからかガチン、ガコン、という音がしました。
 オスたちの伸ばす手を振り払って、音がした方にチンパンジーママが駆けていきます。
 鉄の格子扉の向こうに、飼育員さんが来たのです。
 チンパンジーママは、名残惜しそうにモモタを引き渡します。
 人間に抱かれたモモタは、チンパンジーママにお礼を言って、訊きました。
 「どうして助けてくれたの?」
 「ついこの間、坊やがママ離れしてちょっと寂しかったの。
  モモタちゃんがとっても可愛かったものだから、ついお母さん気分になってしまったの」
 お母さんの愛情に、チンパンジーも猫もないのですね。


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