猫のモモタ

緒方宗谷

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愛を語るペルシャ猫の話

出来るからすることと、出来ないけどすること

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 モモタは、マリーちゃんにべったりです。
 ですが、マリーちゃんは、お外には出て来てくれません。いつも、大きな出窓のそばで、日向ぼっこをしていました。
 「あら?あれは何かしら」
 マリーちゃんが、蝶々が気になったようなので、モモタは飛んで行って蝶々にお願いして、出窓のそばを飛んでもらいました。
 「あはは、面白いわね、これ」
 マリーちゃんが、レースのカーテンで遊び始めたので、尻尾をフリフリあっちに行ったりこっちに来たりさせながら、モモタは彼女の気を引きます。
 「モモタさん、わたし、シラスを見た事が無いの、今度持って来てくれるかしら?」
 「お安いごようだよ」
 モモタは、一くわえ分のシラスを持って来て、見せてあげました。
 何度か、見たことのないお魚を見てみたい、と言うお願いを聞いてあげたモモタに、マリーちゃんは言いました。
 「今度は、カツオが見てみたいわ」
 「カツオ?カツオって、僕より大きいんだ、とてもじゃないけど持って来れないよ」
 「そう、それは残念ね」
 寂しそうにするマリーちゃんの顔を見て、モモタは考え直して言いました。
 「分かったよ、探して持ってくるよ」
 そうは言ったものの、どこを探しても丸ごとのカツオは見つかりません。
 そもそも、漁港で1度見たきりで、それ以外では、サクかお刺身でしか見ていません。
 何日かして、ようやく小さなカツオを見つけたモモタは、引きずりながらもなんとか持って行きました。
 「あら、お久しぶりね、それがカツオなのね」
 「そうだよ、もらってくるの、とても大変だったんだよ」
 そう言うモモタに、マリーちゃんが訊きました。
 「あなたは、どうしてそこまでしてくださいますの?
  わたし、いつもわがまま言って、色々なお魚を持って来ていただきますけれど、いただいたりもしませんし」
 「僕、マリーちゃんに喜んでほしいんだ。
  いつか、マリーちゃんに振り向いてもらいたいし、僕自身も知らないお魚を知る事が出来て、成長してる気がするもん」
 笑顔で言うモモタに、マリーちゃんが言います。
 「わたしに愛されたいのね。
  でも、モモタさん、わたしは、わたしを愛してくださらないモモタさんを、どうして愛せるの?」
 「え?僕は、初めて見た時から、ずっとマリーちゃんが大好きだよ」
 「モモタさんが、わたしに好かれる努力をわたしにさせていた時も、あなたがしている今も、している事は変わらないでしょう?常に一方的だわ。
  わたしが望んでいることをしているようで、あなたが望んでいることをしているもの」
 マリーちゃんに頼まれてしている事なのに、自分のためにしていると言われたモモタは、首をかしげます。
 「モモタさんは、わたしの頼みごとをすることに喜びを感じてらっしゃるのよ。
  あなたが愛しているのは、わたしじゃないわ」
 モモタは、自分が持ってきたお魚を見たマリーちゃんが特別喜んでいない事に気が付いていませんでした。
 持ってきたお魚をマリーちゃんに見せることで、モモタは楽しいと思っていたのですが、それとマリーちゃんが喜ぶか喜ばないかが別なことだと、モモタは気が付いていませんでした。

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