猫のモモタ

緒方宗谷

文字の大きさ
上 下
138 / 502
いつでもどこでも平常心のタヌキの話

見えないヒモ

しおりを挟む
 タヌキが木の陰からモモタを見ています。ふとモモタが顔を上げました。
 「あれ?お魚の匂いがするな、どこかにお魚屋さんが来てるのかな?」
 モモタは辺りをキョロキョロしますが、森の中なので、お魚屋さんはいません。風が運んでくる匂いを頼りに、探してみる事にしました。
 「あれ?風の向きが変わって、匂いが分からなくなっちゃった」
 しばらくクンクンしていると、右から吹いてきた風に乗って、またお魚の匂いがしてきました。
 お魚の香りがモモタに届いたのを見届けたタヌキは、木の陰に隠れます。
 「わ、なんか不思議な香りだ、何の香りだろう」
 木々が風を邪魔して空気が淀んでいるところに出ると、とても良い香りが充満しています。山椒の林でした。お魚の匂いと混ざって良い香り。とてもお腹が空いてきました。
 ですが、風が無いので、ただようお魚の匂いも、どの方向から来たものなのか分かりません。
 モモタは、行ったり来たりしながら、ようやくお魚の匂いを探り当てて、進んで行きます。
 「あっ、お魚発見!」
 モモタは、開けた窪地にあった冷蔵庫の中に、お魚があるのを見つけて、急な坂を駆け下りて行きました。粗大ごみの不法投棄場のようです。
 タヌキは、大きなテレビの陰から、お魚に駆け寄るモモタの様子を見ていました。
 「ラッキー、おやつに食べちゃおう」
 モモタが冷蔵庫に入った瞬間、バタンと音がして真っ暗になってしまいました。駆け寄ってきたタヌキは、こともあろうか扉を閉めて閉じ込めてしまったのです。
 そして、タヌキはそのままどこかへ行ってしまいました。
 「助けてー!ここから出してー!」
 だんだん息が苦しくなってきました。
 「僕死んじゃうのかな、ヤダよ、怖いよ」
 モモタは悲しくなってしまいました。タヌキは急な坂の上から、冷蔵庫を見ています。
 モモタが眠くなってきたその時、魚の匂いを嗅ぎつけた熊がやってきました。
 「そこに誰かいるの?助けて!助けてよー!」
 急に扉があいて、眩しい光が差し込みます。
 「わー!食べないでー!!」
 眩しくて一度閉じた目を開けてみると、そこには大きな熊がいたのです。慌てて外に駆けだしたモモタは、遠くに離れてから振り向いて、恐る恐る言いました。
 「ありがとー、クマさん。
  僕のこと食べる?」
 「食べないよ、たくさんタケノコを食べたばかりで、お腹いっぱいだからね。
  でも、お腹が空いたら食べちゃうよ」
 それを聞いたモモタは、クマにお願いをしました。
 「それじゃ、ここにある冷蔵庫を全部開けてよ」
 もしかしたら、自分と同じ目に遭った子供たちがいるかもしれません。
 「やったー出られた」
 「ありがとー」
 キツネやイタチの子供たちが出てきます。
 熊がみんなに言いました。
 「あれ?タヌキの子供はいないのかい?タヌキの匂いもするんだがなぁ」
 「わかった、僕らを閉じ込めたのは、あのおかしなタヌキだよ」
 モモタは見渡しますが、どこにもタヌキの姿はありません。それからモモタが旅立つまで、タヌキは現れませんでした。
 ですが、この森には、今もどこかにあのタヌキがいます。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

子猫マムと雲の都

杉 孝子
児童書・童話
 マムが住んでいる世界では、雨が振らなくなったせいで野菜や植物が日照り続きで枯れ始めた。困り果てる人々を見てマムは何とかしたいと思います。  マムがグリムに相談したところ、雨を降らせるには雲の上の世界へ行き、雨の精霊たちにお願いするしかないと聞かされます。雲の都に行くためには空を飛ぶ力が必要だと知り、魔法の羽を持っている鷹のタカコ婆さんを訪ねて一行は冒険の旅に出る。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

バンズくん

こぐまじゅんこ
児童書・童話
バンズくんと呼ばれるパンが悲しそうに言いました。 「ぼくは、サンドイッチになれないんだよな〜」 まるいパンだから、三角の形になれないのです。

ぼくの家族は…内緒だよ!!

まりぃべる
児童書・童話
うちの家族は、ふつうとちょっと違うんだって。ぼくには良く分からないけど、友だちや知らない人がいるところでは力を隠さなきゃならないんだ。本気で走ってはダメとか、ジャンプも手を抜け、とかいろいろ守らないといけない約束がある。面倒だけど、約束破ったら引っ越さないといけないって言われてるから面倒だけど仕方なく守ってる。 それでね、十二月なんて一年で一番忙しくなるからぼく、いやなんだけど。 そんなぼくの話、聞いてくれる? ☆まりぃべるの世界観です。楽しんでもらえたら嬉しいです。

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

猫のお菓子屋さん

水玉猫
絵本
クマのパン屋さんのおとなりに、猫のお菓子屋さんができました。 毎日、いろんな猫さんが、代わる代わるに、お店番。 お店番の猫さんが、それぞれ自慢のお菓子を用意します。 だから、毎日お菓子が変わります。 今日は、どんなお菓子があるのかな? 猫さんたちの美味しい掌編集。 ちょっぴり、シュールなお菓子が並ぶことも、ありますよ。 顔見知りの猫さんがお当番の日は、是非是非、のぞいてみてください!

月神山の不気味な洋館

ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?! 満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。  話は昼間にさかのぼる。 両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。 その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。

白と黒の戦争

つきいあや
児童書・童話
白の国と黒の国は戦っていました。 白の国は白を基調とした建物、白色の城。反対に黒の国は黒を基調とした建物、黒色の城。そこでは白ねこと黒ねこが分断されて暮らしていました。 クロムとシロンが出会うことで、変化が起きていきます。

処理中です...