猫のモモタ

緒方宗谷

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自信なさげな駿馬の話

自尊感情の低い馬

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 どこまで行っても、とっても広い原っぱしかありません。見渡すかぎり牧草が生えているだけの牧場です。
 モモタは、地平線まで牧草で埋め尽くされた緑一色の景色を素敵に思って、毎日お散歩をしていました。
 「うわぁ、初めて見るお友達がいっぱいだ。
  熊さんとも鹿さんとも違うけど、大きなのがたくさんいるぞ」
 色々な動物たちが、楽しそうに走り回ったり、葉っぱをモシャモシャしたりしています。
 モモタも楽しくって、葉っぱにじゃれたり蝶々にじゃれたりして遊んでいました。
 ですがやっぱり、こげ茶色で、格好いい後ろ足をした一頭の馬は、柵の前にたたずんでいました。
 もう一度話しかけてみよう、とモモタは近づきました。
 お座りして、話しかけるか迷っていると、大きなタテガミなびかせながら、後ろを振り返りました。
 「まだいたの?どうしたんだい?
  いつまでここで遊んでいるんだい?」
 「僕は、旅行で虹まで行ってきたんだ。
  その帰りに、素敵な原っぱを見つけて、遊びに来たんだよ」
 馬は、何も答えてくれませんでした。
しばらくそばで座っていたモモタに、馬が言いました。
 「見てごらん、ここ、壊れているところ。
  この間、君に言われて考えたんだ」
 モモタが見ると、馬の前に歩きの囲いが壊れて、板が斜めに落ちています。
 「僕はね、君の言う通り、あの地平線の向こうに何があるか見に行ってみたいんだ。
  ちょうど、ここが壊れているから、もしかしたら飛び越えて自由になれるんじゃないかって、夢見ているんだよ」
 モモタは疑問に思いました。
 「飛び越えれば良いじゃない。
  お馬さんだったら、こんな柵平気で飛び越えれると思うよ」
 「ダメなんだ。
  僕怖くて、飛び越えていけないんだよ。
  飛ぼう飛ぼうとはするんだけれど、どうしても足がすくんで出来ないんだよ」
 訊くと、生まれたばかりの頃に、駆け回る楽しさのあまり、一輪車を飛び越えようとして足を引っ掛け、転んでしまったことがあるらしいのです。
 「その時、運が悪くて、足を骨折してしまったんだ。
  それ以来、何かを飛び越えるのがとても怖いんだ」
 馬は、自由になりたい気持ちと、失敗した時の不安で動けなくなって、囲いの前で固まっていたのでした。
 「・・・・」
 モモタは、馬の話を聞きながら、柵を見ました。小さなモモタでも、飛び越えられそうな柵です。
 壊れているところはさらに低いので、馬の大きさならまたぐだけでも越えれそうでした。
 「出れば良いじゃない、お馬さんなら簡単そうだよ」
 「怖いよ、引っ掛かると思うと怖くて無理!」
 「うそ?小さな僕でも飛び越えられるよ」
 「失敗する事ばかり考えてしまうんだ。
  目をつぶっても開けていても、昔転んだことを何度も思い出してしまって、どうしようもないんだよ」
 「じゃあ、成功した事ばかり考えたら?」
 「無理だよ、どんなに想像しても、転んじゃうよ」
 「寝るまでに1回だけでも良いよ、いつかは飛べるようになるから」
 モモタは、渡り鳥のことを話してあげました。




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