猫のモモタ

緒方宗谷

文字の大きさ
上 下
189 / 503
自信なさげな駿馬の話

何度も言われると、思い込んじゃうよね

しおりを挟む
 立ち尽くす馬は、毎日同じ場所で立ち尽くしていました。
 誰が見ても、柵を越えて行きたいのは明らかです。
 モモタは、わざと大げさに柵を飛び越えました。
 「ふにゃ!ふにゃ!」
 モモタは、馬の前で何度も柵を飛び越えて見せます。
 「足を折ったのは辛かったよね。
  でも、辛い気持ちを思い出してばかりだと、いつまでも辛いばかりだよ」
 「足を折ったのは事実なんだから、仕方がないだろう」
 「治ってるのも事実だよ」
 「お馬さんなら、やればできるよ」
 「みんなそう言うけど、やっても出来ないことはたくさんある」
 モモタは、馬の背中に飛び乗って、言いました。
 「本当だね。
  でも、逆に言えば、やったら出来ることもたくさんあるよ」
 馬が黙っていたので、モモタが続けます。
 「壊れている柵は、ここだけじゃないかもしれないね。
  もっと低い柵があるかもしれないから、見に行こうよ」
 「そう言って、この柵を飛び越えるように、仕向けるんだろう?」
 「じゃあ、目的を変えようよ。
  お客さんの僕に、牧場を案内してよ」
 馬はため息をつきました。
 「それなら良いかな」
 モモタは、この馬が自分で出歩くところを初めて見ました。
 ポッカリ、ポッカリ、馬はゆっくりと歩みます。
 しばらくすると、風にのって嫌な声が聞こえてきました。
 「何だぁ?あいつ歩いてやがるぞ」
 「本当だ、あいつ歩けるのか?」
 「おーい、コケ太、また足折るなよー」
 モモタと一緒にいる馬の首が、だんだんと下がっていきます。
 モモタは、ひどいじゃないかと言いたかったのですが、さらに嫌みを言われると思って、言い返しません。
 「戻ろう」
 代わりにそう言って、もとの柵の前に戻りました。
 モモタは、本当に申し訳なく思いました。
 馬が、自分の心に柵を駆けていたのは、柵を飛ばない言い訳などではなく、悪口から自分を守るためでした。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

パパ ママ ねこさん

1000
児童書・童話
ぼくのママは ももいろ うさぎさん ぼくのパパは しろい うさぎさん なのに なぜか ぼくは あおい いろの ねこさん ぼくたちは ほんとうの かぞくなの? 童話です。 感想いただけますと嬉しいです! ※哀しいお話注意です。

天国からのマイク

ムービーマスター
児童書・童話
ある日突然、遥か上空から1950年代風のガイコツマイクが降りてきました。 早速、世界各国の有識者達が調査研究するも、天空から現れた謎のマイクは解明されることは無く、分かったことは、マイクから伸び続けるネズミ色の電線の向こうは、地球から最も離れたブラックホール(うしかい座)からでした。 人類は天空からのマイクを探るべく探査用ロケットまで発射しましたが、以前、謎は深まるばかり。 遂には世界の科学者から宗教家たちが自称「天国からのマイク」の謎に挑む始め、それぞれの宗教の神に向けて語りかけますが、全く反応はありませんでした。 そんなある日、日本に現れたマイクに日本人小学生のタカシ君が話しかけたら、天空から世界に向けてメッセージが語られ・・・。 世界の人々はタカシ君によって、連日奇跡を見せつけられ既存の宗教を捨て去り、各地で暴動が巻き起こり、遂には・・・。 世界中を巻き込んだ壮大なスペクタルとアクション、そして嘗て無い寓話的救世主物語が怒濤(どとう)の展開を繰り広げます。

ラズとリドの大冒険

大森かおり
児童書・童話
 幼い頃から両親のいない、主人公ラズ。ラズは、ムンダという名の村で、ゆいいつの肉親である、羊飼い兼村長でもあるヨールおじいちゃんと、二人仲よく暮らしていた。   ラズはずっと前から、退屈でなにもない、ムンダ村から飛び出して、まだ見ぬ世界へと、冒険がしたいと思っていた。しかし、ラズに羊飼いとして後継者になってほしいヨールおじいちゃんから、猛反対をされることになる。  困り果てたラズは、どうしたらヨールおじいちゃんを説得できるのかと考えた。なかなか答えの見つからないラズだったが、そんな時、突然、ムンダ村の海岸に、一隻の、あやしくて、とても不思議な形をした船がやってきた。  その船を見たラズは、一気に好奇心がわき、船内に入ってみることにした。すると、なんとそこには、これまで会ったこともないような、奇想天外、変わった男の子がいて、ラズの人生は、ここから歯車がまわり始める——。

ひみつの恋占い

児童書・童話
隣の席の宮本くんは、前髪が長くて表情のよく分からない、物静かで読書ばかりしている男の子だ。ある日、宮本くんの落とし物を拾ってあげたら、お礼に占いをしてもらっちゃった!聞くと、宮本くんは占いができてイベントにも参加してるみたいで…。イベントにお手伝いについていってみることにした結芽は、そこで宮本くんの素顔を見ちゃうことに…!?

訳あり新聞部の部長が"陽"気すぎる

純鈍
児童書・童話
中学1年生の小森詩歩は夜の小学校(プール)で失踪した弟を探していた。弟の友人は彼が怪異に連れ去られたと言っているのだが、両親は信じてくれない。そのため自分で探すことにするのだが、頼れるのは変わった新聞部の部長、甲斐枝 宗だけだった。彼はいつも大きな顔の何かを憑れていて……。訳あり新聞部の残念なイケメン部長が笑えるくらい陽気すぎて怪異が散る。

吸血鬼伝説の始まり

ムービーマスター
児童書・童話
流行り病、悪性の風邪が定期的に流行る中世ヨーロッパの暗黒の時代。 今よりも死が身近だった時代、人々は流行り病から恐怖の伝説を産み落とす。 その元には、新たに見付かった旧約聖書「創世記・天地創造」から、新事実が解り、神と悪魔と人間、そして流行り病の象徴として、吸血鬼伝説が誕生したのです。

天神様の御用人 ~心霊スポット連絡帳~

水鳴諒
児童書・童話
【完結】人形供養をしている深珠神社から、邪悪な魂がこもる人形が逃げ出して、心霊スポットの核になっている。天神様にそれらの人形を回収して欲しいと頼まれた中学一年生のスミレは、天神様の御用人として、神社の息子の龍樹や、血の繋がらない一つ年上の兄の和成と共に、一時間以内に出ないと具合が悪くなる心霊スポット巡りをして人形を回収することになる。※第2回きずな児童書大賞でサバイバル・ホラー賞を頂戴しました。これも応援して下さった皆様のおかげです、本当にありがとうございました!

ねこまんま族の少女パール、妖怪の国を救うため旅に出る

綾森れん
児童書・童話
13歳になるパールは、妖怪の国に暮らす「ねこまんま族」の少女。将来の夢は一族の族長になること。賢く妖力も大きいパールだが、気の強い性格が災いして、あまり人望がない。 妖怪の国では「闇の神」ロージャ様が、いたずらに都を襲うので困っていた。妖怪たちの妖力を防いでしまう闇の神から国を守るため、人の国から「金の騎士」を呼ぶことにする。人間は妖力を持たぬかわりに武器を使うから、闇の神に対抗できるのだ。 しかし誰かが遠い人の国まで行って、金の騎士を連れてこなければならない。族長にふさわしい英雄になりたいパールは、 「あたしが行く」 と名乗りをあげた。 故郷の大切な人々を守るため、重要な任務を帯びた少女の冒険が今、幕を開ける。 (表紙絵は「イラストAC」様からお借りしています)

処理中です...