猫のモモタ

緒方宗谷

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幸せいっぱいの犬の話

世界に満ちているのは喜び

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 あるお家に、元気いっぱいの犬がいました。とても人間の事が大好きで、門の前を人が通ると、必ず駆けて行くのでした。
 「ワンワン、遊んでよー」
 ジャラジャララ~。
 犬が走るたびに、何かを引きずる音がするので、不思議に思ったモモタは、塀の上から見てみました。
 「犬さん、犬さん、どうして後ろ足を動かさないの?それじゃあ走りにくいでしょ?」
 「僕、後ろ足が動かないんだよ。
  昔ノラだった頃に、このお家の車にひかれてしまって、気が付いたら動かなくなっていたんだ」
 笑って言う犬に、モモタは聞きました。
 「そんな大変な事、良く笑って話せるね、僕だったら笑えないな。
  それに、自分をそんな目に遭わせた人を許せないもの」
 すると、犬が逆に訊いてきました。
 「恨んでどうするのさ?恨んだところで、足はもう動かないんだよ。
  それよりも、想像してごらん、君が今の僕だったら、どう思う?」
 「悲しくて、生きていけないなー」
 犬は言いました。
 「みんな、そう言うけれどね、実際にこういうことになると、そうは思わないんだよ」
 「どう思うの?」
 「目が覚めて最初に思ったことは、“生きてて良かったぁって”。
  不幸だとも思ったよ、この世の終わりだとも思ったよ、でも今はとても幸せ気分。
  不幸って、ずっとは続かないものみたい」
 想像しきれないモモタに、犬は続けて言います。
 「足が動かなくなっても、ご飯は美味しいし、人間と遊ぶのは楽しいしいよ。
  世界は何も変わっていないんだ」
 やっぱり、モモタには分かりません。
 「前みたいに走れはしないけれど、代わりに景色が良く見えるようになったんだよ。
  あそこを見てごらん、菜の花が咲いているでしょう?
  前の僕だったら、黄緑と黄色の壁にしか見えなかったと思うよ。
  でも、今は、とても背高のっぽの茎があって、ギザキザワシャシャーな葉っぱがあって、小さな花弁があるお花が咲いているんだ。
  初めてお花に気がついた時、とても綺麗だなーって思ったんだよ。
  前だったら、絶対気が付かないよ。
  前は前で幸せだったけれど、今は今で幸せだよ」
 モモタは辺りを見渡しました。
 「???僕が見ているこの景色は、全部じゃないの?」



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