猫のモモタ

緒方宗谷

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思い出を持たない大きなクモの話

言葉や形で表現できなくても、諦めないで

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 「どうしたの?クモさん、元気ないね」
 「あら、モモタさん、ちょっと見て、ほらあそこの巣」
 「わ、すごいね、どうしたんだろう?クモさんらしくないね」
 モモタが知っているクモたちが作る巣は、いつもきれいな巣なのに、この巣だけは、とても変な形をしています。
 「実はね、あそこで寝ている方が作った巣なのよ」
 クモのお姉さんは困り顔です。
 「なんであんなところで寝てるの?酢で寝れば良いじゃない」
 「酔っぱらってるのよ。
  人間が捨てた缶コーヒーの残りを飲んで、いつも酔っぱらってるの」
 呆れた口ぶりで、クモのお姉さんは続けました。
 「あの方、のんべえなのよ。
  こまっちゃうわ、私の綺麗な巣のそばに、あんなに汚い巣を作られたら、評判が落ちちゃうわ」
 「汚い?何で汚いの?あのクモのお兄さんは、お姉さんのことが好きなんだよ。
  だって見てみて、フワフワした雲みたいな巣だけど、よく見ると、ハートがたくさんでしょう?お姉さんに振り向いてほしいんじゃないかな?」
 「そうかしら、でものんべえよ」
 「今度、コーヒー飲まないでって言ってみたら?様子が変わったら、好き好き大好きなんだよ」
 それからしばらくして、久しぶりにモモタがクモのいる林に来てみると、あらあら、びっくり。綺麗なハートのパッチワークの巣がありました。
 「あら、モモタさん、お久しぶりね」
 「2匹とも仲良さそうだね、大きな巣に2匹暮らし」
 クモのお兄さんが、モモタにお礼を言いました。
 「君のおかげで、僕の気持ちに気が付いてもらえたんだ。
  でも、なんで君には、僕の気持ちが分かったのかな?」
 モモタは得意げに答えます。
 「アートは心の目で見るんだもん」
 「そうね、私、巣を作る技術にばかりに目が向いていて、そこに込められた心を見ていなかったわ」
 「げいじゅつって言うんだよ」
 けっこう見る目が育っているモモタでした。

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