猫のモモタ

緒方宗谷

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思い出を持たない大きなクモの話

私自身が大きな思い出袋

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 ある日の朝、民家の裏の雑木晴らしをお散歩している時、とても綺麗なクモと出くわしました。
 「うわぁ、とても大きなクモさんだね、僕のお家にいるのと大違いだ。
  僕のお家にいるクモは、お米みたいに小さくて灰色なんだ。
  でも君はカラフルで、スラリとしていて、美人だなぁ」
 「ありがとう。
  私をそんな風にいてくれる猫なんてはじめてよ。
  大抵は、誰もが私と距離を置こうとするんですもの」
 モモタは、以前からクモに聞いてみたいことがありました。
 「ねえクモのおねーさん、おねーさんって毎日お家を作るって本当?」
 「本当よ、このお家だって、早朝に作ったものなのですよ。
  見てごらんなさい、まだ朝露が付いているでしょう」
 白く輝く糸についた水玉は宝石の様です。
 「おもちゃはどこにしまってるの?」
 「何も持っていないわ」
 モモタは驚きました。
 「何も?赤ちゃんの時のお布団は?変なボールは?そうだ!巣にくっついた綺麗な花びらとか」
 「何もありませんわ。
  そういうのは、振るい巣と一緒に捨ててしまいますもの」
 「おねーさんには大切なものは無いの?そんなの寂しいよ。  
  生んでくれたお母さんの思い出とか、楽しかった思い出とかあるでしょう?
  僕は、小さかったころに大好きだったママの王子さまのハンカチをお布団にしてたから、今でもお家にあるんだよ」
 クモは、だいぶ長いこと考えてから言いました。
 「私にとって大事なものは、この巣なのです。
  この巣さえあれば、良いの」
 「確かに、この巣はとても綺麗だけど、明日の朝にはもう無いんでしょう?今日の想いではどうするの?」
 「思い出の品がたくさんあれば良いってものでは無いでしょう?
  林の奥に住むキツネさんは、思い出のご飯をたくさん持っていて、大切に埋めてとって置いているけれど、掘り起こしてみるところなんて、1度も見た事ないわ。
  それに、忘れてしまっているのもあるでしょうね。
  それって、思い出の品が無いのと同じじゃないかしら」
 確かにそうかもしれません。クモは続けました。
 「あなたはママのハンカチが大切だって言ったけれど、今は持っていないのでしょう?ハンカチの思い出は、思い出せないのかしら?」
 「そんなことないよ、思い出せるよ」
 それを聞いて、クモは言います。
 「本当に大切な思い出をしまっておくのは、心の中なのですよ。
  物で持つのも良いけれど、持ってるがゆえに忘れてしまう事もあるのです」
 モモタはハンカチを想いました。
 「最初にもらった時は、赤ちゃんだったから覚えていないけど、ママの良い匂いがしてた気がする。
  それに僕の匂いりが混ざって、とても安心する匂いになったんだ」
 モモタは幸せな気分になりました。目に映るハンカチそのものでなく、ハンカチが持つ大切な部分が心に映ったからです。





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