猫のモモタ

緒方宗谷

文字の大きさ
上 下
157 / 502
港町のお友達

目標まで届かなくても、頑張ったら頑張った分だけ強くなれる

しおりを挟む
 モモタは、遂に海までやってきました。
 「どうして?どうしてこんな事になるの?
  こんなのってないよ、これじゃあ、虹に行けないじゃないか」
 モモタはショックを受けて、呆然と虹の浮かぶ水平線の彼方を見ていました。虹は消えかかっています。
 「これじゃ、どうしてここまで来たのか分からないじゃない。
  祐ちゃんとお別れして、パパやママとお別れして、たくさんのお友達とお別れして、せっかくここまで来たに、何にもならなかった。
  全部ムダだったんだ!!」
 まぶたにたまった涙は視界いっぱいにたゆたい、むせびって目を閉じるたびに、ボロボロと埠頭に落ちました。
 見かねた1匹のフナムシが寄ってきて、訊きました。
 「どうしたんだい?」
 「ずっと旅行をしてきたんだ、虹の階段を上りたくて」
 フナムシは同情しました。
 「とても悲しい人生を送ってきたんだね。
  虹に行きたいだなんて、よっぽどだよ」
 「まあ、可愛そうに、私たちがなぐさめてあげるから、いっぱい泣きなさい」
 フナムシ夫婦の言葉に、モモタは言いました。
 「僕、可愛そうな人生なんて送ってこなかったよ、とても幸せだよ」
 「じゃあ、なんで虹なんて遠いところに行こうとしたのかしら」
 「虹がとても綺麗だったからさ。
  フナムシさん達は、どこかに行きたいって思ったことないの?」
 「ないなぁ、僕たちとても幸せだもの。
  愛する妻がいて、愛する子供たちがいて、幸せいっぱいさ」
 「そうよね、私たち、とても幸せだから、どこかに行こうとなんて思わないわ」
 「僕もとても幸せだよ」
 「じゃあ、なんで虹に行けなくて悲しんでいるの?」
 考え込むモモタを見て、フナムシママが言いました。
 「あなたは、虹まで行くのが目的だったのでしょう?でも、旅行で大切なのは、目的地まで行く同中なのよ。
  虹は遠いから、今回は行けなかったかもしれないけれど、色々な体験ができたはずよ」
 後ろを振り返ると、祐ちゃんの家の方に虹がかかっています。もう1度海を見ると、そちらの虹はさらに薄くなってきています。
 モモタは気が付きました。
 「そっかぁ、虹は心にかかるものなんだ。
  目指すべき何か大切なものを知った時、虹はかかるものなんだよ。
  そして、大切なものを手に入れた時、虹に登れたってことさ」
 とても長い長い道のりでした。辛い事もあったけど、悲しい事もあったけど、モモタはとても満足です。
 「だって、小さなころから大切なものをもう手に入れていたし、その大切なものは年を重ねるごとに大きく眩しく輝いて、心を温かく満たしてくれているもん」


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

子猫マムと雲の都

杉 孝子
児童書・童話
 マムが住んでいる世界では、雨が振らなくなったせいで野菜や植物が日照り続きで枯れ始めた。困り果てる人々を見てマムは何とかしたいと思います。  マムがグリムに相談したところ、雨を降らせるには雲の上の世界へ行き、雨の精霊たちにお願いするしかないと聞かされます。雲の都に行くためには空を飛ぶ力が必要だと知り、魔法の羽を持っている鷹のタカコ婆さんを訪ねて一行は冒険の旅に出る。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

バンズくん

こぐまじゅんこ
児童書・童話
バンズくんと呼ばれるパンが悲しそうに言いました。 「ぼくは、サンドイッチになれないんだよな〜」 まるいパンだから、三角の形になれないのです。

ぼくの家族は…内緒だよ!!

まりぃべる
児童書・童話
うちの家族は、ふつうとちょっと違うんだって。ぼくには良く分からないけど、友だちや知らない人がいるところでは力を隠さなきゃならないんだ。本気で走ってはダメとか、ジャンプも手を抜け、とかいろいろ守らないといけない約束がある。面倒だけど、約束破ったら引っ越さないといけないって言われてるから面倒だけど仕方なく守ってる。 それでね、十二月なんて一年で一番忙しくなるからぼく、いやなんだけど。 そんなぼくの話、聞いてくれる? ☆まりぃべるの世界観です。楽しんでもらえたら嬉しいです。

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

猫のお菓子屋さん

水玉猫
絵本
クマのパン屋さんのおとなりに、猫のお菓子屋さんができました。 毎日、いろんな猫さんが、代わる代わるに、お店番。 お店番の猫さんが、それぞれ自慢のお菓子を用意します。 だから、毎日お菓子が変わります。 今日は、どんなお菓子があるのかな? 猫さんたちの美味しい掌編集。 ちょっぴり、シュールなお菓子が並ぶことも、ありますよ。 顔見知りの猫さんがお当番の日は、是非是非、のぞいてみてください!

月神山の不気味な洋館

ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?! 満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。  話は昼間にさかのぼる。 両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。 その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。

白と黒の戦争

つきいあや
児童書・童話
白の国と黒の国は戦っていました。 白の国は白を基調とした建物、白色の城。反対に黒の国は黒を基調とした建物、黒色の城。そこでは白ねこと黒ねこが分断されて暮らしていました。 クロムとシロンが出会うことで、変化が起きていきます。

処理中です...