猫のモモタ

緒方宗谷

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山の上のお友達

知っている世界が全部じゃないよ

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 モモタは怯えてうずくまっていました。
 闇夜の中で何かの気配をたくさん感じます。
 「怖いよ~、誰かお友達いないかなぁ」
 暗いところは得意なはずなのに、どうしたのでしょうか。
 「ふえ~ん、何にも見えないよ、どうしてこんなに暗いのかなぁ」
 山で過ごす始めての夜は、曇っていました。いくら猫でも、真っ暗だと夜目がききません。
 不安は不安を呼びました。ネズミが走って擦れる枯れ葉の音にさえ、ビクビクしてしまいます。
 本当なら、心地好い虫の音色も、火の玉が飛ぶ音に聞こえました。
 「ホーホー、ホーホー」
 「なーに?何の音?誰かー!誰か助けてー!」
 バサバサバサという大きな音に、モモタはひっくり返ってしまいました。
 「きゃー!オバケー!」
 気配の先には、火の玉が2つありました。
 「誤解だよ、猫ちゃん」
 肉球の下から見やると、縦長の黒目が光っています。
 「なんだ、猫じゃないか、驚いちゃった。
  今晩一緒にいさせてよ」
 ピョンとしてヨジヨジ、木に登ってびっくりです。
 「きゃー!オバケー!」
 2度見てまたびっくり、ギョエ~とした顔が、マントを広げて迫ってきます。
 「わっ、わっ、わっ、食べないで~」
 変な生き物は言いました。
 「大丈夫だよ、食べないから。
  僕はミミズクだよ。
  れっきとした鳥だから」
 「うっそだぁ、鳥じゃないもん、目が前にあるもの」
 「こういう鳥もいるのさ。
  それより何してるんだい?山猫じゃないだろう?」
 「うん、僕家猫さ。
  虹を上りにお出かけしたんだ」
 モモタは匂いをかぎながら、羽があること、くちばしがあること、足があることを確かめます。
 「虹まで行くの?それは大変だな、とっても遠いぞ」
 「山のお友達に会いたくて、お散歩に来たんだけど、日が暮れちゃた。
  山はとても怖いところだね、昼間は楽しかったのに、夜になったら、そこら中オバケだらけ」
 ミミズクは、首を傾げました。
 「そんなことないさ、夜だってとても楽しい世界だよ」
 「どうして?周りには怖いのがたくさんいるじゃない」
 ガサガサと気配のする方を見ますが、モモタには見えません。
 ですが、ミミズクには見えたので、モモタが怖がる理由が分かりました。
 「今日は疲れたろう。
  そこにある節に開いた穴は、君にちょうど良いベッドたよ。
  僕がそばにいてあげるから、ゆっくりお休み」
 「うん、ありがとー」
 丸くなったモモタに、ミミズクは優しく言いました。
 「見えないって、とても怖いことだよね。
  怖い気持ちは、心が作った勘違いなんだ。
ガサガサ言う音は、野ねずみがかける音さ。
  正体が分かれば怖くないだろう?大きく深呼吸して、落ち着こう」
 モモタは言われた通りにしました。
 「耳を澄ませて、良く聴いてごらん。
  君には見えないかも知れないけど、昼間とは違った楽しい世界が、広がっているだろう?」
 さっきまでモモタは気がつかなかった虫の声が聞こえます。
 目を凝らすと、見えなかった景色が、影絵のように見えます。
 「世の中には、知らないから、自分とは違うからと、怖がって遠ざけてしまうことがたくさんあるんだよ。
  君は、町で育って、昼間遊んで、夜寝るけど、山で育って夜遊んで、眩しいのを怖がる子達もいるんだ。
  でもね、もしお友達になれたら、とても素晴らしいことだよ。
  だって、世界が広がるんだもの」
 まだモモタには分かりませんが、好きになるかならないかは、まず知ってから決めようと思いました。
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